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③ 黄金の町

 第六課と警備部隊の会議はとてもスムーズに進んだ。


 当日の配置。人員の能力。緊急時の対応。綿密なコミュニケーションの元、するすると対策が決まっていく。


 警備部隊が保有している戦力はハカモリに勝るとも劣らない物だった。C級キョンシーが数十体、B級キョンシーが数体。世界最高峰の戦力である。


「『とりあえず、こんな所か』」


「そうね。ありがとう。良い会議だった。フォーシーとバツに会いたいのだけれど、二体にはいつ頃に会えそう?」


「『二体に会えるのは三日後。先程話した前夜祭だ』」


 A級キョンシーであるフォーシーとバツにはそれぞれ自国で仕事がある。前夜祭はまでは余裕が無いらしい。


「なるほど。それじゃあ、それまでは待機ね。仕方ないけれど」


「『大人しく観光でもしていろ。決してゴルデッドシティに迷惑はかけないようにな』」


 足早にケビン達警備部隊が出て行き、京香達第六課、そしてずっとマイケルの傍に居たメアリー、そして、レオナルドが大部屋に残される。


「それじゃ、大人しく観光でもしてましょう」


「清金先輩、そんなのんきで良いんですか?」


「良いの。折角外国に来たんだから羽を伸ばすの」


 恭介が怪訝な顔をする。確かにゴルデッドシティに京香達は馴染みが無い。しかし、先程からのケビンの態度。当日以外で下手に問題を起こしてしまったら最悪町を出て行かされるかもしれなかった。


「『やった! ダーリン! 一緒に観光しましょ! 良いピザ屋があるの!』」


「『マジで? 行こうぜ行こうぜ。先生も一緒にどうです? 久しぶりに近況教えてくださいよ』」


「『メアリーに怒られそうだから僕は先にホテルに戻っていますよ』」


 ワッとマイケル達の方が騒がしくなる。


 観光と言う京香の案に反対する者は居ない様だ。


――アタシも、少し疲れてるしね。


 京香は疲労を自覚している。肉体と言うより精神面の方向でだ。


 気晴らしに成るかは不明である。しかし、無理やりでも気持ちを晴らした方が良いと思ったのだ。


「ああ、ただ、恭介達はアタシと霊幻の近くで行動してね」


「僕からもそれはお願いしたいです。ココミを守らないといけませんから」


――ほんとなら霊幻と二人で回りたいんだけど。


 無意識に頭に過った言葉は本心だった。京香はきっとできるだけ霊幻と共に過ごしたいのだ。




***




 クルクル。大分慣れた様子でフレデリカの車椅子を押しながら、恭介はゴルデッドシティを歩く。


「お兄様、お兄様。フレデリカ、あのクレープ食べたい」


「どれどれ?」


「あそこあそこ。パスタ屋さんの隣」


 フレデリカが首だけを使って元気にあそこに行きたい、あれを見たいと要求し、恭介はあちこちに目を向けた。


「ココミ、金箔クレープですって。すごいわ。生地にもクレープにも金が練り込まれた特別製ですって。あ、一つ百ドル。安いわね。十個ずつ食べましょう」


「……」


「待て待て待って。そんなに買う金は無いよ!」


 恭介は、「いざ」と突撃しようとするホムラの肩を掴み、ベシンと弾かれる。もはやいつもの流れである。このキョンシーはいつまでたっても主の財布事情を気にしてくれなかった。


「というか何? 百ドルもすんの? クレープ一つが?」


「ホムラ様がおっしゃっているのは一番高い看板メニュー、ゴールデンクライシスね。ご主人様、すごいわよあれ、私も食べたい」


「シラユキまで悪ノリに乗っからないでくれる!? 大人しくストロベリーとかチョコバナナとか食べてよ! 金箔には何にも味とか無いんだから!」


 やんややんや。恭介のキョンシー達は姦しい。どれもこれも自己主張が激しかった。


 そんな恭介に背後に居た京香が笑いながら話しかけた。


「恭介も第六課に馴染んだわねぇ」


「ほんとに不名誉なこと言わないでくれませんか!? 僕はまだまだ普通よりですよ!」


「いやいや恭介、吾輩は知っている。最近シカバネ町ではお前を見るとスッと逃げる人間達が居るくらいだぞ」


 衝撃的な発言に恭介は一瞬固まった。だが、心当たりがある。確かに最近、北区に行った時、繫華街にも関わらず妙に歩き易い。


 ええー、とげんなりし、立ち止まった恭介の肩をホムラがバッチン! と叩いた。


「イッタ! だから、いつもいつも叩くな! 何!?」


「お金。ストロベリーとブルーベリー味を買うわ。金箔は少なめにしてあげるから渡しなさい」


「……」


 隻眼のキョンシー達からグイッと突き出された手。我儘放題は健在である。


「はぁ、どれ? 買ってあげる。金箔の量は僕が決めるからな」


「最初からそう言いなさい」


「……」


「感謝の言葉は述べろよ?」


「ありがとうお兄様! フレデリカはチョコバナナホイップが良い!」


「感謝するわご主人様。私はあの生ハムメロンで」


 ため息を吐き、恭介はぞろぞろとキョンシー達を連れ、クレープ屋へと脚を進める。


「アタシも食べよ。何食べよっか霊幻?」


「ハハハハハ! 決まっている! こういう時は一番高いやつだ!」


「オッケー」


 背後では恐ろしい言葉が飛び交っていた。どうやらあの上司はゴールデンクライシスに挑戦するつもりらしい。




「お兄様、お兄様、食べさせて、あーん」


「はいはい。少しずつ食べな」


 クレープ屋に併設された丸テーブルで恭介達は各々勝手に金箔入りのクレープを食べる。


 チマチマ。フレデリカの口元が汚れない様にクレープを運びながら、恭介はゴルデッドシティの街並みを眺めた。


「本当に何処にでも金色があるな」


「見て見てお兄様、あのご婦人、金色のサングラス着けてる」


「わーお」


 成金趣味という訳では無いのだろう。道行く、人々、そして街並みは金色と良く調和していた。誰もが金色を纏うのが当たり前だと思っていて、事実この町ではそうなのだろう。


――昔、ゴールドラッシュが起こった町、か。


 歴史の教科書で読んだことがある。何世紀も前、アメリカでは一攫千金を求めたゴールドラッシュが起きていた。この町はそれを模った物なのだろう。


「ああ、でも、こう見るとこの町の人じゃない奴らの姿も分かるな」


「あそこのフードの被ったカップルとかね、お兄様」


 ボーっと恭介が眺めた先。そこには目深にフードを被った男女が居た。


 この町でさえなければ普通の恰好。だけれど、全てが金色のこの場所で普通は目立つ。


――ま、それは僕達もだけどね。


 恭介達の恰好はシカバネ町でも異様である。人間は黒スーツだが、キョンシー達は各々好き勝手な服を着ていて、見方を変えれば大道芸人にも見えるだろう。


 はは、と恭介は笑った。確かに自分は大分普通じゃなくなっているかもしれない。この異常な環境に慣れ親しんでいるのだから。


「ねえねえお兄様、これを食べたら次は何処に行く? フレデリカはね、美術館とか行ってみたい!」


「渋いね。在ったかな?」


 スマートフォンを取り出してゴルデッドシティの美術館とやらを検索し、すぐにヒットした。丁度、黄金をテーマにした作品の展示会をやっている。


「清金先輩は行きたいところはありますか?」


「んー。何か美味しいご飯食べたいわね。肉系ならなお良し」


「それじゃ、適当に見つかったら入るということで」


「オッケー」


 観光なのだ。確かに楽しまなければ損だ。


 恭介はスマートフォンをスワイプしていき、これからの予定を頭に思い浮かべた。

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