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② リバイバーズホテル







 リバイバーズホテル。


 直径約百メートルの敷地面積を有する三階建ての円筒形構造をした巨大な宿泊施設である。


 ここは今回のキョンシーサミットの会場であり、かつA級キョンシー、フォーシーの住処でもあった。


 その大ホテルの二階中央の大部屋に京香達は連れて来られた。


「『こちらの方が私とダーリンのお師匠さんです』」


 メアリーの手の先。そこに居たのは灰色のスーツを着た老人だった。


 背丈は京香と同程度。腰が少し曲がっているが、その立ち姿に揺らぎはなく、活力に満ちていた。


「お初にお目にかかります。キョンシー犯罪対策局第六課主任の清金京香です。今回は我々に協力してくださり誠に感謝いたします」


「『初めまして。僕はレオナルド・グッドシュタイン。フォーシーが破壊されると成ったら大変だ。それに教え子の頼み、聞いてあげますよ。まあ、問題児でしたけどね』」


――グッドシュタイン?


 その苗字を京香は、いやこの現代に生きる人間とキョンシーならば皆知っている。


 ピクリと動いた京香の眉に気付いたのだろう。レオナルドは少し笑ってその疑問に答えた。


「『アルフレド・グッドシュタインは僕の曾祖父ですよ』」


 アルフレド・グッドシュタイン。キョンシー研究の始祖である。彼が居なければ、この大キョンシー時代は訪れなかったし、訪れたとしても百年遅かったと言われていた。


 そんな歴史の教科書にも載っている様な有名人の子孫が眼前に居た。


「失礼しました。気を悪くされたのなら謝罪します」


「『いえいえ、問題ありません。良くあることですので』」


 レオナルドは笑う。これ以上今の話題を広げる気は無い様だ。


「早速ですが、今回の件についてお話をさせてもらっても? 警備部隊の方が居ると聞いたのですが?」


「『ええ、居ますよ。あっちの方に居ます』」


 レオナルドの手招きに、プロテクターなどを付けた人間達とそれと二倍程度の数のキョンシー達がぞろぞろとこちらへ歩いて来る。彼ら彼女らが京香達を見る目には苛立ちや侮蔑や怒りなど、とにかく負の感情が込められていた。


――うわぁ。嫌な感じ。


 居住まいを正し、京香は向かって来る隊長らしき大男へと体を向けた。


「『お前達がキョンシー犯罪対策局、ハカモリか?』」


「ええ、初めまして。キョンシー犯罪対策局第六課の清金京香です。今回は協力していきましょう」


「『ケビン・バクスターだ。今回の警備隊長をやっている。情報提供には感謝する。打ち合わせを始めよう。隣に部屋を用意してある』」


 京香が差し出した右手をケビンは取らず、大部屋を出て行こうとした。


――まあ、しょうがないわね。


 外部機関にこの様な顔をされるのは慣れている。肩を竦めて右手を落とした。


 だが、直後、霊幻が部屋を出て行こうとするケビンへ体を割り込ませた。


「『待つのだ、ケビン。京香はお前に右手を差し出した。表面上とは言え友好的な態度を見せるべきではないか?』」


 京香はギョッとした。霊幻の暴挙暴走は今に限った話ではない。けれど、この様な暴走をしたのは初めてだった。


「『お前が霊幻か。噂は聞いている。主人の命令を聞かない狂ったキョンシーだとな。どけ、作戦会議をしたいのはお前達も同じだろう?』」


「『その通り、吾輩は狂っている。お前達とも作戦会議をしよう。だが、吾輩の主人への無礼とその話は別問題だ』」


 強固な態度。霊幻らしくない。どうしたことかと京香は目を剥いた。


「霊幻、止めなさい」


「『了解だ。さあ、ケビン、吾輩達と会議をしよう。なぜなら撲滅するべき敵が来るのだからな!』」


 ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!


 笑いながら霊幻が道を開け、ぞろぞろとケビン達が部屋を出て行く。


 すぐに追わなければならない。しかし、その前に京香は霊幻を問いただす必要があった。


「霊幻、急にどうしたの? アタシなら大丈夫よ。あれくらいの態度慣れてるし」


「違うぞ京香。慣れているということは決して大丈夫という意味ではない。だが、謝罪しよう。確かに先程の吾輩の行動はおかしかった。以後気を付ける」


 疑問符が京香の頭に浮かぶ。それの答えを出す時間は無い。


「清金先輩、早く行かないと見失いますよ」


「え、ええ。そうね、みんな行くわよ」


 小走りに京香はケビンを追う。とにかくまずはやるべきことを済ませなければならない。


 ケビンが取った部屋は第六課とケビン達警備部隊全員が入っても余裕な程の広い大会議室だった。


 部屋の奥には巨大なプロジェクターがあり、そこにはリバイバーズホテルの見取り図が既に投影されている。


「『前提の確認だ。テロリスト共の組織名はモーバ。高原一彦と言うキョンシー学者がリーダーと思われる組織で、エンバルディアなるキョンシーと人間の地位を入れ替えるという狂った計画を掲げている』」


 プロジェクターの前、各々に配布された資料をケビンが読み上げる。


 ハカモリが今まで知ったモーバの情報は可能な限り全世界の機関に共有してある。


――まともに取り合ったのはヨーロッパ連合だけだけどね。


 モーバの被害を受けた国はシカバネ町を持つ日本とアネモイを奪われたヨーロッパ連合だけだ。他の国にとってモーバは数ある狂ったキョンシー犯罪組織の一つであり、わざわざ本腰を入れて対策する組織ではなかった。


「モーバはアタシ達のキョンシー、ホムラとココミを作ったわ。ココミのことは知っているわね?」


「『ああ、知っているとも。世界最高の操作性Aを記録したユニークなエレクトロキネシストだとね。俺はまだ信じてきれていない。そんな狂ったPSIが実現できたとはな』」


 ココミがテレパシストだという事実をケビンは知っている。公然の秘密と呼ぶべき事象で、今回の様な任務において上から伝えられているに違いない。


 だが、彼は秘密にしなければならない事実を秘密のままに扱っている。


 どうやらこの男は感情を隠さないが、誠実ではあるらしい。


「『今回、お前達ハカモリがモーバのA級キョンシー破壊計画の情報を掴んだと言ったな? 敵はどの様な計画を立てている? 資料は貰っている。だが、そちらの方から一度説明しろ。認識の共有をしておきたい』」


 試す様にケビンが京香をプロジェクターの前に立たせる。


 ジッと京香はこちらに来ようとする霊幻を眼で制した。あのキョンシーが居たら邪魔である。どうしても頼ってしまう。


――さて、何から言った物かしら?


「モーバは今回の第百回キョンシーサミットに乗り込む気だわ。目的はサミットに参加するA級キョンシーの破壊。この場合、アメリカのフォーシーと中国のバツのどちらか、または両方を破壊する気みたい」


「『どの様にだ? バツのことは分からないが、我々のフォーシーを破壊するのは生半可な方法では不可能だ』」


「モーバはヨーロッパ連合からアネモイを奪ったわ。これが何を意味するか分かるわね?」


「『A級キョンシーにはA級キョンシーをぶつける気というわけか』」


「ええ、モーバはアネモイのエアロキネシスでフォーシーかバツを壊す気みたい。確認させて。フォーシーの体の硬度は? どの程度の衝撃にならあのキョンシーは耐えられる?」


「『フォーシーは皮膚上に常にテレキネシスを纏わせている。戦車砲でだってあのキョンシーに傷を付けるのは不可能だ』」


 それは資料にも書いてある。今回、サミットに参加するA級キョンシー、フォーシーとバツはそれぞれ生半可な衝撃では傷付かないような加工が為されていた。


「『敵は何処から乗り込む気だ?』」


「そこまでは分からない。シラユキの頭にはあったのは計画の概要だけ。ただ、敵は精神感応系のPSIを使って今回のテロ行為を起こす気みたい」


「『精神感応系? ()()のキョンシーの様なか?』」


「分からない。ただ、当日、警備の者達は何かしらの対策はした方が良いと思う。電磁ヘルメットはあるのよね?」


「『予備も含めて人数分用意してある』」

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