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① 金髪ナイスバディ

 二月十一日。


「さて、到着したわねゴルデッドシティ」


「ハハハハハハハ! どの建物も金色の装飾をされているな!」


 飛行機と車を乗り継いで約十時間。やっと到着した目的地に京香は「んー」と体を反らした。


「お兄様! すごいわ! 全部金ぴか! あ、ゴールドアイスクリームだって!」


「はいはい。後で買ってあげるから騒がない騒がない」


「当然、わたし達の分も買いなさい」


「……」


「はいはい。分かった分かった」


 すぐ近くで恭介がフレデリカの乗った車椅子を押し、あっちこっちに眼を向けるキョンシー達を宥めていた。狭い車内での移動は彼女達に多大なストレスを与えていたらしく、解放されたキョンシー達に彼は振り回されている。


 ここはゴルデッドシティ。カリフォルニア州にあるアメリカ最大の素体生産地域であり、今回のキョンシーサミットの開催地である。


 結局、キョンシーサミット運営委員会はハカモリの忠告を聞き入れなかった。


 サミットは二日後の前夜祭を経て、三日後に予定通り開催される。


 予定通り、ハカモリの第六課はゴルデッドシティに派遣されたのだ。


「マイケル、あんたの先生が来るんだっけ?」


「ああ、迎えを寄こすって連絡があったけど、まだ来てねえな」


 兎にも角にもキョンシーサミットに潜入できなければ話に成らない。


 最悪金を積んで日本代表の出席者に混ざる手もあったが、幸いなことにマイケルが伝手を見付けたのである。


 曰く、大学時代の恩師がアメリカのキョンシー技術の有識者として会場に呼ばれている。


 どの様な交渉がハカモリとその恩師との間にあったのかは定かではない。しかし、結果、京香達第六課はキョンシーサミットの警備に混ざることが可能と成ったのである。


「……それにしても、シカバネ町ともモルグ島とも雰囲気が違うわね。何て言うか眼が痛くなるわ」


 ゴルデッドシティの特徴を一言で言うのなら〝黄金の町〟だろう。


 全ての建物が金を基調に装飾されている。例えば、京香の眼前に見えるハンバーガーショップはドアノブから看板、窓から見える店内まで至る所に金色塗料が装飾されている。


「これ程までに主張されるト、金にもありがたみが無くなりマスネ。むしろ眼が痛くなりそうデス」


「意外と慣れるもんだぜ? 俺も一時期住んでたことあるけどよ」


「慣れちゃだめでしょ。金なんだから」


 ヤマダの言う通りだった。金が現代においても貴重なのは希少だからである。


 眼前に広がる金色の全てが本物と言う訳ではないだろう。けれど、文字通りの黄金の町を前にして、京香の心に優るのは辟易だった。


――アタシは落ちついてる町の方が良いわね。


 やれやれと、京香は金色のマンホールをつま先でコツコツ叩く。


 その時、巨大なトランクケースを引いていたシラユキが声を上げた。


「ご主人様、人間の女が近づいてきます」


「え?」


 シラユキが指差した方向。そこには金髪ダイナマイトバディの白衣を来た女が全速力で走って来ていた。


 金髪ナイスバディは両手をぶんぶんとこちらへ振っている。


「『ダーーーーーーーーーーーリーーーーーーーーーーーン!』」


 右耳に着けたトーキンver5が訳した金髪美女の言葉の翻訳を開始する。


「げ!」


「だーりん?」


 珍しい声をマイケルが出し、避ける間も無く、京香達のキョンシー技師はその金髪ナイスバディからの熱い抱擁を受けた。




 三分後。


「『ああー! ダーリン! 久しぶり会いたかったわ!』」


「『HAHAHA! 離してくれメアリー! んで、いつ俺達が恋人同士に成ったのかな!?』」


「『ダーリンのお腹昔よりもプニプニしてる! 可愛い可愛い可愛いわ!』」


「『ヘイ! コミュニケーション取ろうじゃないか!』」


 京香達の目の前でマイケルがボンキュッボンの金髪ナイスバディに抱き着かれ、腹を揉みしだかれていた。


「『ああ、久しぶりの生身のダーリン! リンガーベル研究所が潰れたら急に居なくなってしまったんだもの! 私はとっても寂しかったわ!』」


 豊満なマイケルの体を真正面からダイナマイトボディが抱き締める。互いの体は柔らかく、むぎゅむぎゅと潰れ形を変えていた。


「おおー」


「恭介? 何か言った?」


「いえ、何でもありません」


 京香がチラリと恭介へ目を向けるが、彼はシレッとした態度を貫いたままだった


 モミモミモミモミモミモミモミモミ!


 メアリーの揉み手は高速であり、鼻息も荒く成っている。


「このままここでおっぱじめる気かも知れまセンネ」


「生憎と暗幕はありません。買ってまいりますかお嬢様?」


「ええ、知り合いと思われると困りますカラネ」


 軽口をヤマダとセバスチャンが話している。意味を京香はいまいち分からなかったが、確かに往来激しい金色の町でこのまま二人を放って置く訳にはいかない。


「マイケル? その人が案内役?」


「『いや、分からん分からん分からん! メアリー、お前がレオナルド先生の案内役か!?』」


「『ええ、そうよダーリン! 今、先生の所で助教授をやっているの! ああ、これは運命ね! 私とダーリンはやっぱり結ばれる運命に居るのよ!』」


「『科学者が運命って言葉使わないでくれる!? つーか、なら挨拶しろ! ほら、こいつらが今の俺の上司と仲間達!』」


 あ、とマイケルに抱き着いていた金髪ナイスバディが京香達へ目を向ける。まるで今の今までその存在に気付かなかったかのようだ。


「『ごめんなさい。久しぶりにダーリンと出会えて興奮してました。私はメアリー・ホワイト。ダーリンとは昔同じ研究所で働いていました。レオナルド先生の所まで連れて行けばいいんですね?』」


「初めまして。アタシは清金京香。第六課の主任をやっています。今回は案内役ありがとうございます」


 握手を交わし、すぐにメアリーはマイケルの背後に回り込み、その体を抱き締める。逃す気は無いという硬い意志がその腕からは見えていた。


「『さあ、ダーリン、こっちよ。迎えの車なら出して貰ってるわ。助手の子達にね』」


「『可哀想だなおい。パシリにされてよ』」


「『私とダーリンも通った道ね』」


 えっちらおっちらとメアリーがマイケルを抱き締めながら先導する。


 マイケルのことを良く知っている気でいた京香からするとこの光景はとても意外な物だ。


「マイケルも隅に置けまセンネ。こんなに可愛いフィアンセが居たなんテ」


「ねー。キョンシー以外にもマイケルに興味ってあったのね。正直めっちゃ吃驚してるわ」


「『ちげえよ!? 俺とメアリーは付き合ってねえよ!? こいつが勝手に言ってるだけだって!』」

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