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⑪ 称賛




***




 フレデリカでの奇襲とココミによる敵キョンシーの洗脳。この二点が恭介達の作戦の要点だった。


 そのためにわざわざシカバネ町の東端、逃げられない場所で敵を待ち構えたのだ。フレデリカが操るアイアンテディならば壁を破壊して登場できる。マイケルの試算を全面的に信用した形だ。


 そして、この作戦は成功した。フレデリカの登場は紛れもなく奇襲であり、ココミの手は確かにシラユキの頭を触り、テレパシーで敵キョンシーの洗脳に成功した。


 ドクドクドクドク。抑えた左肩からは血が流れているが、そんな物は気に成らなかった。


 恭介が感じていたのはある種の興奮。脳の奥で血がドクドクと流れる様な、首筋が浮き上がる様な感覚である。


「ココミ! ああ、あなたの、あなたのあなたのあなたの、かわいいカワイイ手が! ああ、何てこと! 凍ってしまってる壊れてしまってる! ああ、ああ、ああ!」


 シラユキの手から無理やり引き剥がしたココミの手は指先が数本砕けていた。最愛の妹の負傷にホムラはこの世の終わりの様に嘆いている。


「……」


 姉に抱き着かれたココミは無事な手で頭を抑えて呻いていた。テレパシーによるシラユキの脳の書き換えで頭に負荷が掛かったのだろう。しばらくはまともに動けないに違いない。


「お兄様、ねえ、肩は平気!? 血が、血が、血がいっぱい出てる! 早く早く手当をしなきゃ!」


 ガシャンとアイアンテディがその身を上げて恭介へと迫る。彼の視点からでは鉄の塊しか見えず、その中からフレデリカの声がした。


 そして、ゆらりと立ち上がったのは白服を来た黒髪のキョンシー、シラユキだった。


 蘇生符の奥、灰色の眼がジッと恭介を見て、そして、小さく頭を下げた。


「僕は木下恭介。今この時からお前の主だ」


「シラユキ、PSIは設置型のサーマルキネシス。よろしく」


 手を伸ばせば殺せる距離に恭介が居る。しかし、シラユキは有効的に微笑んだ。


――これがテレパシー、か。


 ココミにこういうことが出来ると分かってはいた。一般的にキョンシーの主人認定は追加可能であっても書き換えは不可能である。が、ココミのテレパシーならば認識を書き換え仲間とするのは容易い。


 ふーっと恭介は息を吐く。一先ず、予定通りシラユキの洗脳には成功している。


「全員、敵を見ろ。まだ戦いは終わってない」


 恭介は語気を強めて命令し、聞いた全員が各々の違った表情を浮かべながら前方の敵を見た。


「……やるねぇ」


 意外にもカーレンは罵倒を吐かなかった。その眼にはあるのは紛れもなく恭介を称賛する光だけだ。


 義足の老婆がカッカッカッカ! と嬉しくて仕方無いと笑う。


「おお、カーレン殿! シラユキが奪われてしまったのか!」


「不覚を取ったなカーレン」


 ギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュル!


 相方の異変に即座に気付いたのだろう。ベンケイとヨシツネが群がる長谷川のキョンシー達を蹴散らして即座にカーレンの前方に戻った。


「そこの鉄の熊は覚えてるよ。あの不知火あかねのキョンシー、フレデリカだね。いやぁ、一本取られた。まだこいつが残っているなんてねぇ」


 カンカンと愉快にカーレンはベンケイより前に出て恭介をじろりと見る。


「ねえ、木下恭介、この作戦はあんたが主導かい?」


「だと言ったら?」


「あたしは嬉しいよ! 何てったって、ちゃんと人間に負けたんだからね!」


――何でこんなに笑ってるんだ?


 不気味だった。戦況は逆転した。恭介側には三体のキョンシーとフレデリカ。それも全員がPSI持ち。恐ろしい義足の持ち主であるとはいえ、人間一人であるカーレンでは何をどうしても勝ち目は無い。


 だと言うのに、カーレンの笑みは崩れない。まるで負けたかったかのようだ。


――ココミ、敵は何を考えてる?


 胸中でココミに問い掛けるが返信は無い。今のココミにテレパシーを送る余裕は無い様だ。


「改めて、お前達に告げる。投降しろ」


 恭介は意識して強い表情を作り、カーレン達へと宣告する。恭介達の最上の結果は敵を捕縛すること。シラユキは確かに手に入れたが、キョンシーなのだ。脳を弄られている可能性は多分にあり、エンバルディアの情報を入手できる保証は無い。


「カッカッカ! やだね! 折角ここまで来れたんだ! 最期までやろうじゃないか!」


 視界の端で第五課のキョンシー達がベンケイへと突撃している。それを認めて恭介は指示を出した。


「……シラユキ、敵を凍らせろ」


「ええ、仰せのままにご主人様」


 タッ! パキパキパキパキパキパキパキパキ!


 凍りのステップを踏み、氷の大剣を創り出しながらシラユキが眼前の敵へと迫る。


「ハハハ! シラユキよ、某はお前とも一度死合いたかった! いざ勝負!」


 シラユキに対してベンケイが突撃した。ギュルギュルと回転する削岩機。冷気では止められない。


 故に恭介の続いての指示は合理性から出された物だ。


「フレデリカ、お前が止めろ」


「ええ、ええ、ええ、お兄様! 分かっているわ! あれはフレデリカ向きのお相手ね!」


 キイイイイイイイイィィィィィィイイイイイイイイイイイイイイインン!


 サイコキネシスをふんだんに使い、フレデリカが瞬間的に加速し、ベンケイと激突する。


 ガギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギィ


「やあやあ某はベンケイ! お主の名前は!」


「おーほっほっほ! フレデリカよ!」


 アイアンテディの爪がベンケイの刃を受け止める。金属がぶつかり合う凄まじい音がした。


 衝撃でアイアンテディがガタガタと揺れる。あの中には恭介の妹が居るのだ。


 止めろ、戻って来いと言おうとする意識を恭介は無視する。指示は出してしまったし、その指示が間違っているとも思えない。


「カッカッカ! シラユキ、あたしを凍らせるかい!?」


「ええ、そうね。ご主人様がそう命じたもの」


 ついさっきまで手足の様に使っていたキョンシーから突き出された氷の大剣をダァン! と義足の先で爆発を起こし、カーレンが避ける。


 義足の仕組みは未だ不明。だが、爆発ならば火薬を使っているということで、回数には限界があるはずだ。


――ホムラのPSIは、使えないか。


 前方の敵を睨み、ホムラはココミへ声を掛け続けている。ココミが復帰しないことにはパイロキネシスは使えないだろう。今、このキョンシーが倒れていないのは一重にココミの献身ゆえだ。


 ならば、と恭介は左肩を抑えていた右手を外し、懐の拳銃を握ってカーレンへ向けた。


 集中してカーレンへ銃口を向ける。苦し紛れ撃ってきた今までとは違う。対象は動いているが、狩る側としての立場だ。


 射撃訓練ならやっている。


 ダァン! ダァン! ダァン! と、シラユキの攻撃からカーレンは逃げている。


 いつ、爆発の回数が無くなるか。待って待って、恭介は待つ。


「当たれば死ぬだろ」


 そして、恭介は人生で初めて殺す貯めに引き金を引いた。


 バァンバァンバァンバァンバァンバァン!


 できる限りの連射。三発の銃弾が、カーレンの右肩、脇腹、左腕を打った。


 貫いてはいない。恭介達が来ているテンダースーツと同じように敵も何かしらの防弾着を着ている様だ。


「カッ!」


 衝撃は殺し切れない。バランスが崩れたカーレンは地面へと倒れる。


 それはキョンシーに追われている場面で致命的だ。


「さようならカーレン」


 シラユキは既に氷の大剣を振り上げている。体勢を崩したカーレンでは避けられない。


 バッキイイイイイイイイイイイイイイイイイイイン!


 だが、直後、上方から放たれた鉄球がシラユキの大剣ごと両腕を破壊した!

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