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④ 数の毒




***




「ねえ、あなたこそがココミなのかしら?」


 ジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリ!


 砂鉄の雲を操り、クロガネがシカバネ町を飛ぶ。


 クロガネの前方には走り逃げるココミ、ホムラ、そして木下恭介の姿があった。


 既に今日()()()の追走劇である。


 シカバネ町中にココミ達の目撃情報が突如として湧いて来たのは二日前。先の戦闘が終わり、夜を明かしてすぐだった。


 そう来たか、とクロガネは感心した。


 論理的にキョンシー達は結論付けている。今シカバネ町に散らばったキョンシー達はほぼ間違いなくココミではない。何をしているのかは分からないがその姿を真似ているだけだ。


 しかし、それと同時に論理的にキョンシーの脳は警告する。町に散らばるどれかが本物かもしれない。


 可能性を否定できない限り、クロガネ達は偽物の可能性が限りなく高くともシカバネ町を飛び回るしかないのだ。


「まあ、全員壊せば変わらないわね!」


 ジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリ!


 ココミらしき人影達が路地に逃げ込んで右に左に走り逃げるが、砂鉄に乗って三次元的に飛ぶクロガネはあっと言う間に追い付いた。


 グルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグル!


 周囲で回転する十数の鉄球をクロガネは一気に放つ。


 狙いはホムラの姿をしたキョンシーだ。


 ヒュン!


 鉄球は寸分違わず、頭を砕いた。


 直後、ココミの姿をしたキョンシーがホムラの姿をしたキョンシーから手を離し、飛び上がってクロガネへと殴りかかってくる。


「あらあら、またハズレ?」


 クロガネは嘆息する。ココミがこの様な身体能力を持っているはずが無い。


 ジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリ!


 グチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャ!


 回転を加速させて砂鉄の雲。飛び上がったココミの見た目をしたキョンシーはあっと言う間に引き潰され、肉片と化した。


「!」


 すぐさま、木下恭介の姿をした捜査官が銃をこちらに向け、バンバンバンバン!


 銃弾を全てクロガネは砂鉄と鉄球で弾き、勢いを持って下降した。


「ぐっ!」


 メキャ! 肩骨を砕く音と手ごたえと共に男を地面へと蹴り倒す。


 刹那、地面に倒れた衝撃を受け、木下恭介の姿がジジッ! と乱れ、中から若い男が現れた。


「光学迷彩はやっぱり面倒ね。やっぱりそれはアリシア・ヒルベスタ製なのかしら?」


「答えるはずがねえだろ?」


「ええ、でも聞くわ。私はキョンシーだもの。人間には優しくしてしまうから。ねえ、ココミは何処に居るの? 教えてくれれば命は助けてあげる」


 クロガネは左手を男の顔に向ける。肩は砕いた。足は砂鉄で抑えている。左腕から射出される鉄球を男がどうにかできる術はない。


 これは慈悲だった。クロガネにとって男はどうでも良いし、エンバルディア達成において不要な存在だ。


 だが、ここにあるのは命であり、それはとても尊い物だ。現状においても再現や再生が不可能な現象。希少な物には敬意を払わなければならない。


「はっ、だま――」


 グシャ! 男が否定の言葉を言い終わる前に、クロガネの鉄球がその顔を潰した。


――無駄な時間を取ってしまったわね。


 さて、次だ。クロガネはジャリジャリジャリジャリと飛んで行く。ココミの目撃例はまだまだ至る所にあった。


 PSIのクールタイムまで後三十分。ジャックとキッドと交代まで時間はあった。


「あと、三組くらいは壊しておこうかしらね」




 三十分後、予定通り、三組の偽物達を潰し、クロガネはシカバネ町西部のマンションへ帰還する。


 出入りさえ気を付けていれば問題ない。元々居た住民達は既に潰してある。シカバネ町は行方不明者を逐一調べない。月末か、年度末か、何かのタイミングで一斉に調査するだけだ。


「ただいま。みんなどうだった?」


「おかえりクロガネ、ちゃんと追手は撒いたんだろうね?」


「バッチリよ。監視カメラだって私なら壊せるもの」


「磁気使いは便利だねぇ」


 カーレンが机に義足を置き、カチャカチャと調整していた。


 コンパスの様な長く赤い義足。これが無いとカーレンは酷く小さな老婆にしか見えなかった。


「おかえりおかえりおかえり! 敵はどうだったクロガネ? 強いやつは居た? 雑魚ばっかりで俺は飽きちゃったよ」


「うーん、残念だけど昨日と同じね」


「残念残念残念。PSIをもっとふんだんに使わせて欲しいぜ」


 やれやれとジャックとキッドが首を振り、「「いってきまーす」」玄関を出て行く。また、軽く偽物のココミ達を追いかけ回しに行くのだ。


 クラッ。軽い目眩がクロガネを襲った。


 弱い相手だったとはいえ連続したPSI戦闘は着実にクロガネの脳にダメージを与えていく。正に数による毒だった。


「……ふぅ」


 息を吐いて、キョンシーなのだからそんな物で気分は良くならないが、クロガネはソファに座り、休息状態に入る。


「カッカッカ! 流石のあんたもちょっと疲れたか。PSIキョンシーってのは大変だねぇ」


 カーレンの笑い声が僅かにクロガネの頭に響く。


「うふふ。大丈夫大丈夫。まだまだ全然問題ないわ」


 頭を揉みながらクロガネは答える。けれど、クロガネの脳は昔と比べてだいぶ弱くなっていた。たったあれだけのPSI戦で機能が低下するのだから。


 だが、稼働にも思考にも問題ない。できるだけ浅い思考にとどめ、クロガネはアリシアとトレミーへ声を掛けた。


「……アニ、トレミー、光学迷彩は破れた?」


 やや遠くに離れた机。そこでは戦利品としてはぎ取ったいくつかの光学迷彩装置とそれにケーブルを繋げたパソコンが2つ置いてあり、アニとトレミーがカタカタカタカタと高速でキーボードを叩いていた。


「ええ、ええ、問題ありません。アリシア・ヒルベスタの癖は大分思い出してきました。後、六時間もあればこのガジェットを無効化してみせますよ」


「素晴らしい。やっぱりあなたを連れてきて正解だったわ」


 アニ・イシグロのエンバルディアにおける役割は技術員である。シカバネ町が誇る天才技術者アリシア・ヒルベスタのガジェットを無効化するべくわざわざ連れて来たのだ。


「なら、後はココミが何処に居るのか、ね」


「問題ないである。我が今シカバネ町中の監視カメラを当たっている。不自然な映像データの改竄が複数見られる。巧妙に隠しているが、七時間もあればココミが逃げ込んだ場所を見つけてやろうではないか」


「確率は?」


「予測値は九十三%。エラーバーは±四パーセントだ」


 トレミーがドンと胸を叩いた。クロガネと同じ科学者たるキョンシー。これの思考や解析能力は文字通り人外だ。


 改竄したデータには必ず不和が生まれる。それをキョンシーの眼は見逃さない。


 遠からずココミは見つかるだろう。


「それなら、私は少し眠るわ。見つかったら教えて頂戴」


「ラジャーです」


 アニの返事を聞き、クロガネは電源を落とす様に意識のチャンネルを落とした。

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