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⑧ 水の集約




***




 五階の有様はまさに死屍累々だった。


 圭が指揮するキョンシー達は残り四分の一。凍りついてしまった物、頭から潰された物、体が縦横に割かれた物、比較的に轢死体が多かった。


 敵キョンシーとのスペック差は圧倒的であり、まともに張り合えているのはイルカだけだ。


 しかし、そこは第五課主任と言ったものなのか、破壊されたキョンシーはいずれも第五課の量産型キョンシーだけで、切り札たるPSIキョンシー達はどれ一つとして破壊されていなかった。


「カッカッカ! これが長谷川圭か! 噂よりもはるかに厄介だね!」


 老婆が笑う。シラユキに守られたあのキョンシー使いの殺害は困難だ。


 カーレンと名乗ったあの老婆は一流のキョンシー使いである。自律型であろうシラユキへ要所要所、今しかないというタイミングでPSIを発動させ、圭の攻め手を止めていた。


――さすが、上森幸太郎と不知火あかねを殺しただけはあるね。


 しかも 敵はまだ本気を出していないのだ。


「ラプラスの瞳は使わないのかい?」


「あれはラプラスの瞳じゃないよ坊や。それにあれはちょっと疲れるんでね切り札は最後までとっておくのさ」


 過去の報告書にて、このカーレンが第六課のヤマダと同じようなダイヤル型のゴーグルをつけていたとある。


 ラプラスの瞳、このガジェットに圭は詳しい。いや、ヤマダの様な専門家達に比べれば雀の涙程度の知識だが、専門家ではないという意味で言うなら多大な知識を圭は持っていた。


 ヤマダに一度聞き、お情けで答えてもらったことがある。ラプラスの瞳はヤマダが居た一族の秘伝であると。


 チラリ。圭はハクゲイ達へと目を向ける。残り十数体量産型キョンシー、二体ずつのエアロキネシストとパイロキネシスト、ジリジリと崩されている小康状態だった。


――少しは話す時間があるか。


「あれがラプラスの瞳じゃないとして、じゃあ、あなたはヤマダさんとどんな関係だ?」


「ヤマダ? ……ああ、あのメイドの嬢ちゃんか! 覚えてるよ、すごい子だったねぇ。ありゃ、あたし達の()()()()だろうさ!」


 本当か噓かは不明だが、カーレンはヤマダ個人のことを詳しく知らないが、ヤマダと言う女性が何なのかについては知っている様だ。


「ヤマダさんが最高傑作? 何の話だ?」


「これ以上は言う気は無いさ。気に成るなら本人に聞くと良い。まあ、この場を生き残れたらの話だがね!」


 カーレンは無駄口を止め、シラユキへ攻撃を命じる。絶対零度のあのキョンシーの体。量産型キョンシーでは凍って砕かれて終わりだ。


「イルカ、僕とこいつごと流せ」


「りょうかーい」


 ザバアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!


 イルカが水流で圭とエレクトロキネシストを包む。四肢が千切れるかと思う程の威力。


 けれど、圭はけろりとした顔で、そこから顔を出し、追って来るシラユキを見た。


「壁を這え。シラユキの手が届かない場所から狙うんだ」


「いいよー」


 ポタポタとイルカが眼から血を流しながら、蘇生符を輝かせ、水流の勢いが増した。


 壁を滑るウォータースライダーの様に圭とイルカはシラユキから逃げ回る。イルカが生み出した水溜まりや雫はシラユキに触れる度、パキパキに凍り付き、イルカの操作権から外れていく。


 液体を操るハイドロキネシスト。言い換えるなら液体しか操れない。


――ただでさえ、イルカが使える水量はそう多くないってのに。


 水流に乗っての高速移動。水がなくなれば、圭達は直ぐに敵に掴まるだろう。


 しかし、圭は焦らなかった。ピンチの時こそ冷静に。指揮する者は何処までも感情を消して動かなければならない。


 圭は既に指示を送っている。後は部下達を信じるだけだ。


 そして、更に数度の攻防を経て、イルカの使える水量が更に少なった時、一体の量産型キョンシーが叫びながら戦場へと踊り出した。


「じゅんびかんりょう! じゅんびかんりょう! じゅんびかんりょう!」


――みんな、良くやった!


 心中で部下達を圭は労った。


 この僅かな時間で良くぞ命令を完遂した物だ。


「イルカ、天井へ上がれ! サイキッカー達ごとだ!」


「おっけー」


 ザバアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!


 眼から血を溢れさせたイルカが、更にPSIを振り絞る。勢いを増した水流は戦っていたPSIキョンシー全体を飲み込んで、長谷川ごと天井へと駆け上った。


 不審な物を感じたのだろう。カーレンとモーガンがキョンシー達を呼びよせる。


「長谷川圭がこの場の全号へ勅令する! ()()()()!」


 イルカの水流の中で、圭の最上級の音声命令がフロアへと響き渡った!


「! シラユキ! アタシらを守りな!」


「ハクゲイ! 前に出ろ!」


 敵のキョンシー使いは即座に防御態勢を取る。


――関係ない!


 瞬間、破壊、非破壊問わず、その場に居た全量産型キョンシー達が一斉に爆発した!


 ドオオオオオオオオオオオオオオン!


 ドオオオオオオオオオオオオオオン!


 ドオオオオオオオオオオオオオオン!


 ドオオオオオオオオオオオオオオン!


 ドドドドドドドドドドドドドオオオオオオオオオオオオオドオオオオオオオオオオオオオオオン!


 第五課の量産型キョンシー達の腹。そこに詰め込められた爆弾。


 一つ一つの火力は薄い。肉薄し、相手に抱き着かせた状態で爆発させるのが本来の用途だ。


 この場に居た凡そ五十体。その全てが敵へと近づいていない。近付けていない。この爆発では決して有効打に成らない。


――そもそも、これで倒せるなら初めから使ってる!


 では、この爆発の目的は何なのか?


 爆発でキョンシー達の残骸が辺りに飛び散り、一部天井に臓物が貼り付いた。


 そして、瞬間、床から間欠泉の様に大量の水が噴き出した!


「目的はそれかい! シラユキ! 水を止めな!」


「やらせるなイルカ! 全部飲み込め!」


 圭の目的は五階フロアの水道を完全に破裂させる事だ。


 イルカが正しく濁流と成って地面へと着地し、刹那、噴き出していく水流全てを敵へと放った。


 質量を増した水流の前にシラユキがパキパキと押し流される。


 あっと言う間に足元まで水が溜まる。床全体から激しく噴き出していく水はイルカのハイドロキネシスによってその勢いが収まる事は無かった。


「シラユキ! 全部の水を凍らせな!」


「分かってるわ」


 パキ、パキパキ、パキパキパキパキパキパキパキパキパキパキパキパキパキパキパキパキパキパキパキパキパキパキ!


 敵が周囲の水を凍らせる。氷はシラユキを中心に急速に圭達へと近づいてくるが、床から溢れ出し続ける水の量が上だ。


 圭が部下達に命じていたのは、ハカモリのビルへシカバネ町中央部一帯の水道を全て集めることだ。シカバネ町水道局に掛け合い、このビル以外の全施設への水道を停止させている。


 この環境に置いて、イルカのPSIは限定的な無尽蔵だ。


「エレキ、あいつらにPSIを放て!」


 同時に圭は最後まで温存していたエレクトロキネシストへ命令する。自分達を含めてこの場の人間とキョンシーは全て水に塗れている。しかも、膝下まで水で埋まっていた。


 感電には充分だ。


 エレクトロキネシストが敵へと突撃する。このキョンシーのPSIは近距離放出型。近づかなければ出力が安定しない。


「ああああああああああやややややらせませせせぬぬぬぬ!」


 ブシュウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ!


 ハクゲイが頭から霧を噴き出し、その剛腕をエレクトロキネシストへと振り下ろそうとした。


「イルカ、押し流せ」


「はいはいー」


 イルカの濁流がエレクトロキネシストを敵へと一挙に押し流す!


 巨大な水の盾の前に拳は届かない。


「氷の上に乗れ!」


 敵の判断は早かった。シラユキが作った、否、作り続ける氷の壁、その上に全員が乗った。


 水に塗れた氷の盾とイルカの濁流が激突し、水流の中でエレクトロキネシスの光が生まれた。

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