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⑤ 消耗戦







「エアロ1、エアロ2、三十秒ごとに交互に風を前方に送り続けろ。霧を散らせ」


 仮称を与えたキョンシー達が圭の命令通り風を生み出す。PSIの発動限界を考えるなら、これでしばらくは持つはずだ。


「カッカッカ! お前は長谷川圭だね! 団体戦なら負け無しのキョンシー兵団を操る名指揮者じゃないか!」


 シラユキの隣に立つ老婆が笑う。どうやら相手は会話を求めている様だ。


――戦闘は避けられない。だけど、話せば職員達が逃げる時間を稼げるか。


 圭は打算し、パイロキネシスト二体とエレクトロキネシスト一体を連れてフロア中央に立つイルカの隣まで歩いた。


 さりげなくイルカの調子を確認する。眼がやや充血しているが、まだPSIは問題なく使えるだろう。


「ああ、僕がその第五課主任、長谷川 圭だ。あなた達の所属と名前も教えてくれないかな?」


「カッカッカ! 良いね、殺し合いをするんだ! 名乗らなければ失礼ってもんさ! あたしはカーレン! 知っているだろうけれどね!」


「……お前がカーレンか」


 カーレンを圭は知っていた。かつて、圭が第五課のただの捜査官であった頃、第六課の主任と副主任を殺したメルヘンカンパニーの傭兵の名だ。


 圭は気付いた。確かにカーレンと名乗る老婆の両脚はコンパスの様に鋭い赤い義足である。


 口ぶり、そして外見の情報からして、確かにこの老婆があのカーレンであるのだろう。


 圭はここに第四課と第六課のメンバーが居なくて良かったと思った。


 清金京香、関口湊斗がこの場に居たらどうなっていたのか分からない。


「隣のキョンシーと人間の名前も教えて欲しいな。今から壊す人間とキョンシーの名前は知っておきたいんだ」


「カッカッカ! 良いねその啖呵! ほらあんたらも教えてやりな!」


「シラユキと言います。この場限りの仲に成るでしょうけれど、お見知り置きを」


「モーガンだ。隣のはハクゲイ。若いの逃げるなら追わんぞ?」


「あああああああよよよろししくくくおおねがががいいいいたしますす」


 老婆と老人、そして白いキョンシーと肥大化した頭のキョンシー。異質の組み合わせだが、何故か様に成っていた。


「目的は?」


「愚問だよ。アタシ達エンバルディアはお前らキョンシー犯罪対策局に宣戦布告したじゃないか」


「何でわざわざ今日を襲撃日に?」


「カッカッカ。答えが分かっている質問に答える趣味は無いさ」


「困ったね。僕はこの組織に敵は居ないって信じてたんだけど。坂口さんみたいな処置でもしていたのかな?」


――清金さんと関口さんの不在がバレているか。


 スパイが居たのだ。それも、坂口 充の様にココミのテレパシーを掻い潜れる処置を施した何かが。


「カッカッカ! 残念、あたしも詳しくは知らないのさ! ゲンナイなら知ってるかもね」


 数秒の沈黙が産まれた。


 カーレンとモーガンの眼光は鋭いままだ。今にも戦いを始めようとしている。


 既に十分話した。生存者達は逃げ切れただろう。今頃、第二課と第三課と主軸に拠点を再編成しているはずだ。


――ハクゲイは近接戦が可能。シラユキは不明。だけど、シラユキ相手に接触は危険か。


 敵戦力を分析する。嫌な組み合わせで、圭は先日の主任会議で自らがした発現の正しさを確信する。


――やっぱり、近接戦ができるPSIキョンシーの補充が急務だな。


 一歩、敵のキョンシー達が前に踏み出した。


「どうだい? あの上森幸太郎のかたき討ちでもするかい?」


「そんなの趣味じゃないんだ」


 圭は右手を上げ、瞬間、ザザザザザザザザザザザザザザザ! 量産型キョンシー達が整列する。


 一糸乱れぬ動き、この量産兵が消えるまでがタイムリミットだ。


「行け」


 そして、指揮者の右手は振り下ろされ、キョンシー達が突撃した。


「カッカッカ! うじゃうじゃ喜色悪いねぇ!」


 カーレンが裂く様に唇を笑わせて、バンバンとその赤い義足を叩いた。


 瞬間、ガチャガチャガチャ! カーレンの両義足が変形し、十数の銃口が量産型キョンシー達へ向けられた。


――自動照準付きか。


「六体、前方へ。盾に成れ」


 義足の銃口を確認するや否や、圭の指示で量産型キョンシーの二割が前に出た。


 捨て鉢のキョンシー達は手を広げ、後続を守る盾と成る。


「爆ぜな!」


 ババババババババババババババン!


 ババババババババババババババン!


 カーレンの両脚から大量の弾丸が照射される。圭が防御を命じたキョンシー達が文字通り一身に受け止めた。


「……」


「……」


「……」


「……」


「……」


 最前列を走るキョンシー達の体を弾丸は貫通し、千切れた肉へと変わっていく。


 けれど、それで良い。破壊されていくこれらに求めたのは肉壁。貫通した銃弾の威力は減衰され、二列目三列目のキョンシーを壊せない。


 バババババ、ババ――!


 銃弾が途切れ、量産型キョンシーと敵との距離が五メートルにまで近づいた。


「ハクゲイ、潰せ」


「はああああいいいい!」


 ブシュウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ!


 ハクゲイがその肥大した頭から大量の霧を噴き出し、腕と脚を振るう。


 グチャ! グチャ! グチャ!


 ハクゲイの膂力は相当な物の様だ。剛腕剛脚を受けた量産型キョンシーは簡単に骨が砕け、肉と血が露出した。


「モーガン! ハクゲイを動かしな! シラユキに巻き込まれるよ!」


「させるか。パイロ1パイロ2、霧に向かって放火しろ」


 ボオオオオ! ボオオオオ! ボオオオオ!


 ゴオオオオオオオオ! ゴオオオオオオオオ!


 火球と螺旋状の炎が霧へと放たれた。


 炎は味方ごと霧を焼き、霧は蒸発し、体積が減少する。


「カカ! 早くて良い判断だねぇ! シラユキ、サイキッカー共を凍らせな!」


「ええ」


 手を広げ、シラユキが圭達へと突進してきた。


「パイロ2、標的を変更。シラユキへ放て」


 ゴオオオオオオオオ!


 パイロキネシストの螺旋炎がシラユキへ当たるが、その肌は欠片として傷付かない。


――サーマルキネシス。凍結じゃない。触れた物の温度を一定にする力か。肉弾戦はダメだな。


「イルカ。距離を取りながら押し流せ」


「りょーかい」


 イルカの蘇生符が光り輝き、両手から大量を吐き出した。


 続けてイルカが自分の()()()()()。そこに収められているのは小さなビート板だ。


「おねえさん。たたかおうか」


 ザバアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!


 そして、イルカはビート板に立って波に乗った。


 シラユキをワルツの様にイルカはシラユキの中心で高速移動する。


「シラユキ、波を止めな!」


 カーレンの命令に従い、シラユキがイルカの波へと脚を踏み出していく。


「はなれて」


 イルカが水塊を放った。


 バッシャアアアアアア――パキパキパキパキパキパキ!


 水塊はシラユキに激突し、即座に凍り、砕け、シラユキの体を押し戻した。


「カッカッカ! シラユキ綺麗に戦おうなんて考えるんじゃないよ! 真っ直ぐに触っちまいな!」


「服が汚れるのは嫌なのだけれど」


 シラユキがターゲットをイルカに定めた。蘇生符を輝かせ、細く血の気の引いた手を伸ばしてイルカを追う。


――身体能力は相手が上。水が切れれば捕まるか。


 イルカは近中距離放出型のハイドロキネシストである。


 だが、無から水を創り出している訳ではない。


 イルカの体はポンプに成っている。眼には見えない無数の穴が体中に空いており、周囲の水分を吸い上げているのだ。


――このフロアの水は後どれくらいだ?


 対策局ビルの水道管の位置を圭は全て把握している。イルカはさりげなくパイプの上を走り、床から水分を引き上げ、攻撃しているが、何処かのタイミングで使える水分が無くなるのは眼に見えていた。


――準備が間に合うか。


 圭には一つの作戦があった。別れ際、第五課の部下達は依頼してある。後は合図があればいつでも実行できる状態にあった。


「ううううううじゃじゃじゃうううじゃじゃじゃじききもももちいいいわるるるいいですねえええ」


 ハクゲイが大きく頭を振るい、その間にも量産型キョンシー達はグチャグチャグチャグチャ破壊されていた。


――使えるエレクトロキネシストは近距離型。この距離じゃ意味が無い。


「パイロ2。目標を再変更。霧に向かって炎を放て」


 ゴオオオオオオ! ゴオオオオオオ!


 ハクゲイに割ける戦力は量産型キョンシー達と二体のパイロキネシストだけ。


 使える量産型キョンシーは既に半分に成っていた。

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