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① 戦力不足

 一月十日。


 キョンシー犯罪対策局ビルの最上階、大会議室。


 アリシアは主任会議に参加していた。


「全員揃ったな。会議を始める」


「待ってください、カツノリ。キョウカとミナトは?」


「あの二人は別任務だ。最近発見されたキョンシーだけが居るという町に派遣している。エンバルディアの手がかりが掴めそうだからな」


「ああ、コウセン町ですか」


 部屋に要るのは局長である水瀬 克則、そして、第一、二、三、五課の主任とそのキョンシー達だけだ。


――ミナトに会えないのは残念だな。


 湊斗(好きな人)に会えると思ったからおめかしをしたのに、無駄骨に成ってしまった。


「水瀬部長。本日の議題は何でしたか?」


 第一課主任の桑原 一輝がパソコンの準備をしながら水瀬へ目を向けた。


 今日の会議の議題は既にこの場の全員が知っていた。


 一輝の質問は円滑に会議を始めるためである。


「今回の議題は二つだ。一つはエンバルディアへどの様な対策をするのか。もう一つは、現在木下恭介が保有しているキョンシー、ココミにどの様な防衛網を引くか、だ」


 エンバルディア、目下、ハカモリの課題に成っているテロ組織の仮称だ。


 昨年、エンバルディアはアリシア達へ宣戦布告した。死者のための世界を作るのに、ハカモリが邪魔だからと言う理由で、だ。


――あれは私の失態だ。


 顔には出さないが、アリシアは悔しさを覚えていた。大角と桃島をシカバネ町へ引き入れたのは自分である。京香と同じ生体サイキッカーを発見したと舞い上がってしまったのだ。


「エンバルディアは滅ぼさなければならない。その認識は共有されていると思う。アリシア、敵の本拠地は掴めたか?」


「いえ、穿頭教が潰されてましてね。手がかりを失っています。世界中の機関を当たっているところです。予算の追加申請をしても?」


「後で申請しておけ。上には俺が通す」


「了解です」


 桃島達の一件のすぐ後、アリシアが放ったスパイごと穿頭教が潰されたのだ。


「現地に派遣した第三課の部隊が墓を発見しました。そこには何十体もの死体が収められていましたよ。解剖したところ、生きたまま練り潰されたようです。第二課からワトソンを借りましたが、何の情報も得られませんでした」


 第三課の主任、黒木 白文が調査結果を簡潔に述べる。


――誰かが情報を消したな?


 ワトソンのサイコメトリーは電気や磁力に弱い。機構を知っているのなら情報を消すのは簡単だった。


 意図は明白。追跡を避けるためだ。


「僕とすれば、エンバルディアの戦力が知りたいですね。第五課のキョンシーだけでどうにかできる規模なのかどうか」


 手を挙げたのは第五課主任、長谷川 圭だ。


「第五課の戦闘スタイルは大量投入です。それで通じる相手ですか? もしも、この前の清金さんの様なPSIだったら、正直僕達の課じゃ手に負えません」


 圭の見解にアリシアは同意する。第五課の総合戦力はハカモリでもトップだが。単体単体での戦闘能力はとても低い。


 数の暴力はそれが押し通せる相手の時、初めて効力を発揮する。


 先日の準A級相当な出力を見せた京香のPSI。個としての大出力に相対する戦力が第五課には無かった。


「それも含めて調査中だ」


「補足しましょう、ケイ。あれだけの出力のサイキッカーがそうそう居るとも思えません。勿論、エンバルディアにはアネモイが居ます。ですが、アネモイや京香クラスのPSIなんてそう簡単には用意できません。基本的な敵のキョンシーは第五課のキョンシーでも対応できると思いますよ」


「なら、まずは部隊の再編制くらいしとおきますね。ただ、新しい戦力が欲しいですね。正直イルカ以外のサイキッカーが五体は欲しいです」


「残念だが、戦闘に使えるサイキッカーの予備は無い。方々に当たってるがな」


 やれやれと水瀬が息を吐いた。エンバルディアとの一件以来、彼はハカモリの戦力増強のため世界各地とコンタクトを取っている。しかし、PSI持ちのキョンシーは貴重であり、おいそれと売ってくれる機関が中々見つからないのだ。


「まあ、我々の戦力が足りないと言うのは事実ですな。まずは安く買える機械化キョンシーを大量に買うのはどうです? 結局数が力なのは変わらんのですから」


 一輝が苦笑しながら現実案を出す。確かに予算や納期との兼ね合いを考えるならばその結論に落ち着くだろう。


「桑原さん、でも、キョンシーだけ増えてもキョンシー使いが足りませんよ? ただでさえ人員の補給が間に合ってないんですから」


「この前、裏切り者に結構な人数が殺されたからな」


 第一課は坂口 充の裏切りによって約二割の人員が殺された。未だに人員の補充に追われている。そんな最中、キョンシーだけ増やしても扱い切れるのか、というのが圭の問いだろう。


「まあ、半自律型のキョンシーで良い。単純な護衛や、条件付きで戦闘を始めるとか、そう言うのでも大分戦力に成るだろ。水瀬部長、いかがですか?」


「異論は無い。PSI持ちじゃ無ければ買うのは簡単だ。申請しておけ。長谷川、第五課でも必要なら購入を許可する」


「ありがとうございます」


 一先ず、エンバルディアに対して今できる対策が決まり、全員が体勢を少し崩した。


「では、次の議題だ。ココミへの護衛をどうするのか。あのキョンシーはエンバルディアの目的の一つだ。生半可な戦力は置けない。何か案はあるか?」


 こちらが本題なのだろう。水瀬の鋭い瞳がジロリと全員を見つめた。


 ココミ。あのキョンシーを引き入れたことで、エンバルディアがハカモリと敵対したのは明白だ。


「一科学者の見解から言うなら、ココミというキョンシーは特異点です。エンバルディアでなくとも、強奪しようとするのは当然でしょう」


 ココミと言う世界唯一のテレパシスト。その存在にアリシアは今でも驚いている。


 出力E、操作性A。圧倒的なPSIの有効範囲。そのテレパシーの糸は電子機器だけでなく、キョンシーや人間、その全てを操れる。


「実際、ココミの周りでは毎日の様に何処から来たとも分からない侵入者が捕まりますしな」


「ココミの索敵能力が無ければ、とっくに持ってかれているでしょうね」


 やれやれと嘆息する一輝にアリシアは笑った。


 シカバネ町にはココミを狙う侵入者が高頻度で現れている。しかし、そのほぼ全てはココミによって察知され、ほぼノータイムで第一課へ報告されていた。


「シカバネ町の安全を預かる身からの意見ですが、ココミと言うキョンシーを壊してしまいたいですな。あんなものがあるから要らん面倒と危険が舞い込むんだ。壊してミキサーにでもかけて焼いて灰にしてしまうのが安全策でしょう」


 一輝が極論を吐いた。この様な会議で彼は良く極端な例を言う。それが自身に求めらている役割だと分かっているのだろう。


「第二課としては反対です。あれほどのキョンシーをただ壊すのは世界の損失ですしね。それにココミの有用性は既に証明されています。たとえば関所での摘発率がそうです。カズキも知っている様にココミが担当する日、関所での侵入者発見率はほぼ百パーセントですよ」


 ならば、とアリシアが反対意見を出した。一輝の意見を通す訳にはいかないからだ。


「待ってください。話がズレてます。ココミの護衛をどうするのかという話ですよね。第五課の意見ですが、更に護衛のキョンシーを増やすしかないと思います」


 圭がバランスを取る様に安定した意見を出した。冒険心は無いが、一定のリターンが見込まれる意見を彼は出す傾向にあった。


「第三課として質問します。護衛のキョンシーと言ってもどの様な? 既にホムラが護衛の役割を果たしているでしょう。そこへの追加の護衛、求められるスペックは?」


 アリシアと白文は諜報の第二課と事後処理の第三課であり、戦闘の専門家ではない。


 故に、この場の全員の視線が専門家である第一課と第五課へ向けられた。


 二つの課の主任は少し、考える素振りを見せ、二三の言葉を交わし、すぐに一つの答えを出した。


「近接戦ができるキョンシーだろうな」


「可能であれば近中距離への攻撃手段も欲しいです」


――あら?


 アリシアはパンと手を叩いた。


「奇遇ですね。ちょうど、それができそうな被検体に心当たりがあります。まあ、半分ですけれどね」


 全員の視線がアリシアに集中する。


――さて、何から説明した物でしょうか。


 とりあえず、とアリシアはこの言葉から始めた。


「皆さん、アイアンテディを覚えてますか?」

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