⑥ ネジ
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ネジが、ネジが、ネジが、ネジが、ネジが、ネジが、ネジが、ネジが、ネジが、ネジが、ネジが、ネジが、ネジが、ネジが、ネジが、ネジが、ネジが、ネジが、ネジが、ネジが、ネジが、ネジが、ネジが、ネジが、ネジが、ネジが、ネジが、ネジが、ネジが、ネジが、ネジが、ネジが、ネジが、ネジが、ネジが、ネジが、ネジが、ネジが、ネジが、ネジが、ネジが、ネジが、ネジが、ネジが、ネジが、ネジが、ネジが、
「……ぇ、ッ」
ココミは頭を抑えてうめき声を上げた。
ズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキ!
ズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキ!
霊幻がマイケルのところに調整に来てから二週間が過ぎた。
ココミの頭に突き刺さるネジの本数は増えていた。
不可視の幻痛は明確な汚染と成って、ココミの脳蓋の中でネジ穴を開けていく。
ゴリゴリ、クチクチ、キャラキャラと、ネジは無慈悲にランダムな回転を繰り返す。
【――――――――――――――――――――――――――――――――――――――】
【――――――――――――――――――――――――――――――――――――――】
――うるさい、うるさい、うるさい、うるさい、うるさい、うるさい、うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい。
ココミは耳を押さえた。何も変わらなかった。
ノイズが、痛みが、ネジが、吐き気が、ネジが、痛みが、吐き気が、ネジが、吐き気がノイズがノイズが痛みがネジがネジがネジが! どれもこれもがココミを追い詰める!
――おねえ、ちゃん。
ココミは必死でリペアカプセルの中のホムラを見る。
愛しい姉のことだけを考える。それで少しだけ楽に成る。
光を見ようと、自分だけの愛を見ようと視線を凝らす。あらゆるノイズは無視して、ネジなど無いのだと、要らない物に意識は割くなと、そんなことさえ邪魔なのだと、ココミはホムラだけを見た。
その光景は二週間前から変わらず、日に日に酷くなっていた。
ズキズキズキズキズキズキズキズキ【――――――――――――――――――――――――――――――】ズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキ!
【――――――――――――――――――――――――――――――――――――――】
【――――――――ズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキ―――――――】キズキズキズキズキズキズキズキ!
視界が回る。世界が歪む。ネジが眼球と鼓膜を貫いて出ようとする。
――おねえ、ちゃん、おねえちゃん、おねえちゃんおねえちゃんおねえちゃんおねえちゃんおねえちゃんおねえちゃんおねえちゃんおねえちゃんおねえちゃんおねえちゃんおねえちゃんおねえちゃんおねえちゃんおねえちゃんおねえちゃんおねえちゃん。
自分の中を最愛で満たさんとココミはリペアカプセルに縋りつく。
強化ガラスの冷たさだけが伝わって、愛しい姉の熱が何も感じられない。
起きて欲しい。
ズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキ【――――――――――――――― ズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキ【――――――――――――――――――――――――――――――】
喋りかけて欲しい。
ズキズキズキキズキズキズキ【――――――――――――――― ズキズキズキズキズズキズキズキズキズキズキズキズキ【――――――――――――――――――――――】
微笑みが欲しい。
ズキズキキズキズキズキ【――――――――――――――― ズキズキズキズキズズキズキズズキ【――――――――――――――――――――――】
抱き締めて欲しい。
ズキズキズキキズキ【――――――――――――― ズキズキズキズキズズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキ【――――――――――――――――――――――】
そして何よりも彼女からの愛が欲しい。
その全ての欲を、考えない様にココミは意識した。
大丈夫だ。自分はもう二週間以上耐えられた。後はこれを五回繰り返すだけ。
――できる。きっと、できる。
無理だ、と分かっていた。
既に自分は限界を超えたオーバーワーク。PSIの過剰出力に脳が耐えられない。
ズキズキ【――――――――――――――――――――― ズキズキズキズキズズキズキズキズキズキズキズキズキキズキズキズキズキズキズキ【――――――――――――――――――――――――】
でも、ココミは信じた。愛がきっと奇跡を為すはずだ。
非合理な思考。既にエラーが出ている。
姉は命を燃やして愛をくれた。ならば、妹は命を裂いて恋を紡ぐ。
そう、ココミは決めたのだ。
耐えろ、耐えろ、耐えろ、これは耐久戦だ。
耐えた先に何かがあるわけでもない。あの研究所から逃げたその日から、愛しい姉に願ってしまったその日からココミ達の運命は決していたのだ。
――でも、それでも、もう少しだけ、おねえちゃんと、一緒に。
それだけがココミの願いだった。
――お願いします。どうか、どうか、もう少しだけ。
ココミは祈った。だが、キョンシーに神は居ない。
【―――――――――――】【――――――――】【――――――――――――――】【―――――――――――――――】【―――――――――――――――――】【――――――――――――――――――――】【―――――――――】【――――――――――――――――】【―――――――――】【―――――】【――――――――――――】【――――――――――――】【――――――――――】【――――――――――――――――――――――――――――――――――――――】【―――――――――――――――――――――】【―――――――――――】【―――――――――――――――――――――――】【――――――――――――――――――】【――――――――――――――――】
――ああ。
ココミは滅びを察知する。
今居る研究棟から半径百メートル。
ハカモリの第四課から第六課の人員とキョンシー達が包囲網を作ろうとしていた。
 




