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① 上を目指せ

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!


 ゴシャゴシャ! グシャグシャ! ドシャドシャ!


「ハッ! 狙い通りだな!」


 崩壊する地下三階の天蓋に湊斗は笑う。


「なんて、ことを」


 ワナワナとペルセポネが怒りで震えていた。


 頭上から落ちて来る大量の瓦礫、大岩、土砂。それらを避けながら湊斗は笑う。


「お前は言ったな! お前のハーモキネシスは吐息を与えた場所に発動する! あの高い高い天井には吐息が届かねえよなぁ!」


「お前! この町を! あの人が帰ってくるこの町を!」


 ペルセポネが湊斗へと駆け出さんとした。


――良いぞ、来い。


 ペルセポネの体は非戦闘用だ。動きにも戦闘用プログラムが入っていないのが見て取れる。湊斗でも壊すのは簡単だし。無防備に走れば上から降ってくる瓦礫や大岩に潰されるだろう。


「駄目よペルセポネ」


 しかし、そんなペルセポネをカラフルな毛糸を体に巻き付けたキョンシー、アリアドネが止めた。


 やった動作は簡単だ。ただ、ペルセポネの頭に手を当てただけ。


 ただ、それだけでペルセポネがその動作を停止する。


 直後、地面の灼熱が収まっていく。ペルセポネのPSIが解除されたのだ。


「ちっ。テレパシーか」


「止めてちょうだい人間様。私程度のPSIがテレパシーであるはずが無いわ。こんなの脳の電気回路をちょっと弄っただけよ」


 ふん、とアリアドネが鼻を鳴らす。


 岩石の雨の中、湊斗はアリアドネと向かい合う。


「痛み分けにしましょう人間様」


「許すはずが無いだろ?」


「その足で私達を追えるの? 無理でしょう? 命は大事にしなさいな」


 それだけ言ってアリアドネはペルセポネを抱えて踵を返して走り出す。


「待て!」


 湊斗は追いかけようとしたが、瞬間、ワッと周りのキョンシー達が彼へと突撃した。


「管理者様達の所に行かせるな!」


「ここでこいつを殺せ!」


「そうだ殺せば動か――」


 グシャ! ドシャ! ガシャ!


 何体ものキョンシーが石の雨に飲まれていく。


 しかし、何体かのキョンシーは湊斗の所へ辿り着いた。


「ちっ」


 湊斗は吹き飛ばさんとエアロボムを構えた。


 刹那、強烈な旋風が湊斗の体を巻き上げる。


 ビュオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!


 風は激しいが丁寧だ。湊斗の体を一切傷付けない。


 フワリ。湊斗の首へ抱き着く重さがあった。


「みなと」


「コチョウ。良くやった。下を見ろ。ペルセポネ達は見つかるか?」


 視線も向けずに湊斗はコチョウへ命令する。


 コチョウは即座に命令に従い、眼下の地面を見た。


「みつからない」


「そうか。探せるか?」


「むり。はちじゅうぱーせんとのかくりつでいわにあたる」


「そうか」


 湊斗はコチョウに抱えられたまま頭上を見る。石の雨は止まないでいた。


「……この町から脱出するぞ。上に運べ」


「うん」


 パタパタパタパタ。


 ビュオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!


 風が湊斗とコチョウを急速に上昇させる。


 ふらふらとコチョウが体を揺らし、落ちて来る岩石を避けて行く。


「待て人間!」


「何処に行く気だ!」


「追いかけろ!」


「殺せ!」


「バラセ!」


「殺せ!」「殺せ!」「殺せ!」「殺せ!」「殺せ!」「殺せ!」「殺せ!」「殺せ!」「殺せ!」「殺せ!」「殺せ!」「殺せ!」「殺せ!」「殺せ!」「殺せ!」「殺せ!」「殺せ!」「殺せ!」「殺せ!」「殺せ!」「殺せ!」「殺せ!」「殺せ!」「殺せ!」「殺せ!」「殺せ!」「殺せ!」「殺せ!」


 グシャグシャ。キョンシー達が潰れる音がする。


 それらへ湊斗は眼も向けなかった。




***




 霊幻に抱えられ京香はコウセン町地下三階の天井に貼り付いてた。


 大部分が崩落し、大穴が空き、地下二階と三階は半ば繋がっている。


 大量のキョンシーと建物が落下していくのを京香と霊幻は見た。


「霊幻。アタシの鉄球はそんなに強かった?」


「一つ一つがコチョウの爆風の槍と同程度の威力を持っていたな」


「そっか」


 確かに天井を落とそうとした。だが、ここまで大部分を崩落させようとは京香はしていなかった。


 PSIの出力は未だに底が見えない。先程放った鉄球の速度は音速を超えていた。去年のアネモイへ放った物と同程度の速度。霊幻との合わせ技でなければ実現できなかったはずだ。


――まだ、出力が上げられそう。


 恐ろしかった。先程、確かに手加減無しで鉄球を放った。だが、京香は決して全力を出したわけでは無かったのだ。


 ふーっと京香は息を吐く。気にしている場合では無かった。


 眼下を、正確にはコチョウに抱えられパタパタパタパタと上がって来る関口を京香は見る。


「関口! あんた足大丈夫!?」


「うるせえ! お前全然PSI制御できてねえじゃねえか、ふざけんな!」


 耐熱シューズは半ば溶け、その奥の足がどうなっているのか想像もしたくない。


「ハハハハハハハ! これは入院間違いないな! 切断の可能性すらあるぞ!」


「そうなったら高性能の義足でも付けてやる」


 軽口を叩いた後、京香と関口は状況を共有した。


「こっちはシロガネを取り逃がした。そっちは?」


「俺もだ。悪い。追い切れなかった」


「どうする? アタシはこの町から脱出するべきだと思うけど」


「同意見だ」


 今後の方針は即座に決定し、京香達は大穴から地下二階へと突入した。


 中央の大部分が崩落した地下二階は酷い有様だった。壁面近くの地面だけが辛うじて残され、そこに残ったキョンシー達が集中している。


「居たぞ人間だ!」


「この町を壊した人間達だ!」


「来れる奴は集まれ!」


「できる奴は殺せ!」


「今ここでこの町を守るんだ!」


 つまり、京香達が現れた地点にはキョンシー達が待ち構えているという事だった。


 僅かに残った地面。そこに降り立った京香と霊幻へキョンシー達が殺到する。


「霊幻」


「任せろ!」


 バチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチ!


 密集したキョンシー達など、霊幻の格好の的だった。


 紫電は刹那にして向かってくるキョンシー達の脳を破壊する。


「階段に向かうわ。異論はある?」


「お前の鉄球で地下二階の天井をぶち破るのが早くないか?」


「却下。あおい達に当たるかもしれない」


「了解。それもそうだな」


 京香は霊幻に抱えられて地上を走り。関口はコチョウと共に空を飛んで地下一階に続く階段を目指した。


「ちっ。出るところを間違えたわね」


「丁度反対側だな!」


 生憎と地下一階への階段は地下二階の反対側だった。


 中央分が丸ごと崩落した今の状態ではぐるっと半円状に走っていく必要がある。


 それは地下二階で残存したキョンシー達全員に自明だった。


 残ったキョンシー達全員が京香達を目指して走ってくる。


 逃げ道は無かった。


「関口、あんたたちだけでも先に行く?」


「この状況で別行動は悪手だろ。俺は怪我人。コチョウは半壊。お前は制御不能。まともに戦えるのは霊幻だけだ。最悪の場合どちらかが死ぬぜ?」


「その通りね。全員で行きましょう」


 ジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリ!


 グルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグル!


 京香は前方に砂鉄と鉄球を展開する。ただ回転させるだけ。それ以上の複雑な命令は一切しない。それが辛うじて京香にできる霊幻と関口達に迷惑を掛けないPSI制御だった。


「んじゃ、行くぞ。あのキョンシー達を蹴散らしてな」


「ええ」

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