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札憑き・サイコ・エンバーミング~撲滅メメントモリ~  作者: 満月小僧
ネバースターティングストーリー
279/499

⑨ 崩壊




***




 砂鉄の爪で眼下のキョンシー達を薙ぎ払い、京香はコウセン町地下三階に着地する。


「霊幻、無事!?」


「何とも無いぞ!」


 ハハハハハハハハハ!


 逼迫した京香の元に霊幻が駆け寄る。


「触るわ。何かあったら言いなさい」


 霊幻の返事を待たず、京香はその体をペタペタと触っていく。


「被覆が剥がれただけだ。戦闘には何の影響も無い」


「良いから」


 今は戦闘中。だが、砂鉄の爪は周囲のキョンシーをほぼ全て血煙へと変えていた。僅かばかりの時間はある。


――何処も壊れてない。


 僅かな安堵が胸に落ちる。そこまでしてやっと京香は思考を切り替えられた。


「霊幻、見ての通りアタシのPSIの出力がおかしなことに成ってるわ。制御はほとんど無理ね」


「ああ、分かっているぞ。吾輩がサポートに回ろう。打ち漏らしは任せるが良い」


「任せるわ。できるだけアタシからは離れてね」


 京香はシロガネが何処に逃げたかを聞き、霊幻が指差した方角へと駆けた。


 砂鉄の爪は一帯の建物を全て倒壊させており、シロガネはすぐに見つかった。


 シロガネは左わき腹からどくどくと血を流し、はみ出した内臓を押さえていた。


 京香の姿を確認するや否やシロガネはとても申し訳なさそうに頭を下げる。


「ああ、ネエサマ! ネエサマと遊ぶのに今のボクでは力不足です! 申し訳ありません!」


「あらそう! それじゃあ大人しく捕まりなさい!」


「それはお断りします! ボクの帰りをカアサマが待っているのですから!」


 ジリッと京香はシロガネと距離を詰める。後方では霊幻が控え、周囲を警戒していた。


 今の京香では繊細なPSI戦は不可能だ。シロガネを破壊するのは容易いだろう。


 京香が気にしたのは後方の霊幻だ。距離を取っているとはいえ、今の自分の暴走で巻き込まない保証は無い。


 その時、タッタッタと京香達の元へ駆けて来る影があった。


 いや、駆けるという表現は正しくない。タ、タタ、タ、と〝這う〟と〝走る〟の中間の様な動作でコチョウが京香達の視界に現れる。


「霊幻、コチョウを抱えて!」


「おう!」


 すぐさま霊幻がコチョウを抱え、京香の砂鉄の雲のすぐ近くまで持って来た


「どうしたのコチョウ? 関口は?」


 前方のシロガネを警戒しながら京香はコチョウを見る。


 コチョウの体は酷い物だった。下半身を中心に焼けただれ、針金型の足が露出している。しかもその足先は膝下近くまで溶けていた。


 コチョウの言葉は至ってシンプルだった。


「わたしを、てんじょうまで、つれていって」


 京香はコチョウの声を初めて聞いた。


「ミナトの、めいれい」


「分かった」


 関口は最優秀と呼ばれたキョンシー使いだ。その判断力は京香よりも上である。


 先程突き破った天井を京香は見た。高さは凡そ三十メートル。霊幻の膂力でコチョウを投げ飛ばすのは不可能だ。


 かと言って、今の京香の力でコチョウを天井に飛ばした物なら、ほぼ確実に加減を間違え天井の染みへと変えてしまうだろう。


 ならば、だ。


「霊幻、アタシも抱えて、全員で飛ぶわ」


「任せろ!」


 霊幻の腕に抱かれ、京香はシロガネを見た。


「止めないの?」


「今のボクではネエサマを止められませんから。このタイミングで逃げさせてもらいますよ」


「そう」


 歯がゆかった。シロガネの捕縛を考えるならば絶好の好機だ。だが、コチョウの言葉は事態の逼迫さを意味している。


 ジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリ!


 砂鉄で自分達の体を覆い、京香は天蓋を睨んだ。


「行くわよ」


 先程よりも遥かに弱く、京香は足元へ磁場を展開する。


 瞬間、慣性が京香達を襲い、一瞬にしてその体が地下三階の天井に衝突する。




「霊幻、掴んで!」


「おう!」


 バチバチバチバチ!


 霊幻が右手を帯電さえ、クーロン引力を使って天井にぶら下がった。


「コチョウ、ここから何をすれば良いの?」


「……」


 京香の言葉に答える事無く、コチョウがパタパタパタパタとその腕を振るった。


 長い長い振袖が羽の様に風を起こし、即座に旋風が産まれた。


「……よし」


 何を確認したのか、コチョウが霊幻の腕から飛び、パタパタパタパタと飛行する。


 コチョウの視線は眼下に注がれ、そこでは関口が戦っていた。


 赤く染まった灼熱の大地で、関口が踊る様に駆け回っている。


 パタパタ。コチョウが関口の直上まで飛び、懐からエアロボムとフレアボムを二つずつ取り出した。


 やろうとしている事を京香は理解した。


 そして、霊幻に質問する。


「霊幻。あおい達が居るのは地下一階よね」


「ああ」



「なら、アタシも協力するわ」


 グルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグル!


 京香が砂鉄と鉄球を展開した姿をコチョウがチラリと見て、何の合図も無しにエアロボムとフレアボムをすぐ近くの天井へと投げ付けた。


 同時に京香は鉄球四つを天井の各地点へ全速力で放った。


 ヒュルヒュルヒュル! 爆弾達は天井にコツリとぶつかり、直後強大な爆発を起こす。


 それらの爆発はコチョウの風によって束ねられ、一つの巨大な爆風の槍と成って天蓋を貫いた!


 ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!


 京香の鉄球もまた地下三階の天蓋を割る。


 あえて、手加減無しで放った鉄球は音速を超え、衝撃波と共に天蓋を破壊した。


 ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!


 ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!


 ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!


 ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!


 はたして、コチョウが作り上げた爆風の槍、京香が放った音速の鉄球、どちらが致命打に成ったのかは分からない。


 コウセン町地下三階の天蓋は瞬時に罅が入り、その大部分が崩落した!

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