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札憑き・サイコ・エンバーミング~撲滅メメントモリ~  作者: 満月小僧
ネバースターティングストーリー
274/499

④ ピンボール




***




「SHOT!」


 テレキネシスの爆発から逃げる様に京香は霊幻に抱えられB1―001を飛び出した。


 支柱を破壊された白き直方体の建物は轟音を立てながら地面へと崩れ去る。


 その土煙の中からシロガネが京香へと飛び出して来る!


「ああ、ネエサマネエサマネエサマ! ネエサマとこうして遊べるなんて、ボクはとても嬉しいです!」


 パシュ! 京香は霊幻に抱えられたまま、迫り来るシロガネへトレーシーの電極を放つ!


「ボクはこんな動きもできるんですよ!」


 アハハ! シロガネが笑いながら直角に曲がり、トレーシーの電極が空を切った。


「ハハハハハハハ! 面白い曲芸だ! 自身の体を打ち出すとはな!」


 異常な直角カーブ。その原理を看破したのは霊幻だった。


――自分のテレキネシスで体を押し出してる。


 シロガネは自身が作り出した直方体のテレキネシスの射出に乗って移動しているのだ。


「ハッ、体が壊れるんじゃないの?」


「ご心配なく! 慣れているので!」


 京香の軽口を聞けて嬉しいのか、シロガネがビリヤードの様に自分の体を打ち出していく。


「霊幻、捕まえて!」


「おう!」


 バチバチバチバチバチ!


 直線で飛んで来るシロガネを迎え撃つ様に霊幻が薄く広く紫電を放った。


「電気ではボクを止められないですよ!」


 キイイイイィイイイィイイイイイイン!


 けれど、作り出した雷壁はシロガネが打ち出したテレキネシスの直方体に簡単に散らされ、そのまま京香と霊幻を弾き飛ばした。


「ハハハハハハハハ! 京香、お前を放すぞ! 片手で対応できる相性ではない!」


「分かった!」


 宙を舞いながら霊幻の腕から放され、京香はトレーシーを構えたまま地面へ着地した。


「清金! そっちは任せるぞ!」


 ヒュオオオオオオオオオオオオオオオオオ! 京香達から三十メートル以上離れた場所、崩壊したB1―001を挟む様にして関口の声とコチョウのPSI音が聞こえる。あちらでも戦闘が起きている様だ。


「分かったわ!」


 返事だけをして京香は思考する。自分がするべきことは一体何なのか。


――シロガネ、アリアドネ、ペルセポネ、最低でも一体、できれば全員の首が欲しい。


 霊幻のエレクトロキネシスでは脳を破壊してしまう。そうなっては情報取り出しができない可能性もあった。


 かといって、手加減できる様な相手ではなく、手加減できる様な器用さを京香は持っていない。


「霊幻! シロガネを倒しなさい!」


「ハハハハハハハハハハハハ!」


 バチバチバチバチバチバチバチバチバチ! 霊幻が紫電の勢いを増やし、シロガネへ突撃した。純粋な力であるテレキネシスに対してエレクトロキネシスは対抗札に成らない。


 けれど、全身を改造した霊幻の膂力はシロガネのそれを遥かに超える。


「SHOT!」


 キイイイイイいいイイイイイイン!


 キイイイイイイいいイイイイイン!


 キイイイイイイイいいイイイイン!


 宙に生まれたテレキネシスの槍が霊幻を狙う。無色透明なそれを霊幻は紫電で着色し、紙一重で避け続けた。


「素晴らしい性能! これが世界最高クラスの戦闘用キョンシー!」


 しかし、シロガネの動きも凄まじい物だった。自身をテレキネシスで打ち出して身体スペックでは勝る霊幻の動きに追い付いている。


――設置型のPSIなのに!


 シロガネのテレキネシスは設置型。発動には一拍の間が必ず存在する。


 にも関わらず、霊幻の動きに追い付いている。


 この事実はシロガネの予測演算能力が霊幻に優っていることを意味していた。


 パシュ! パシュ! パシュ!


「ちっ」


 京香は散発的にトレーシーの電極を放つが、無作為に生えるテレキネシスに阻まれてしまう。


「ネエサマ、銃なんて使わないで! ネエサマのPSIも見せてください!」


 シロガネが京香を煽る。人間達の技術など捨てて、キョンシーの力で遊ぼうと言うのだ。


 ヒラヒラと視界の中央で蘇生符が揺れている。既にPSI発動の準備は出来ていた。


 悩んでいる訳ではない。必要とあらばマグネトロキネシスを使う気でいる。だが、普段の様な精密動作ができる気が京香にはしなかった。


――力が有り余ってる。


 京香は自身に起きている異常を改めて自覚する。


 もしも、今仮にいつもの様にマグネトロキネシスを使おうとすれば、平常時のそれを遥かに超える出力が出るという確信がある。


 体と脳に駆け巡るPSI発動の感覚。今まであった重い手ごたえが消失していた。


――悩む時間は無い。関口を巻き込まない位置で使うか。


 京香が使用タイミングを決めた瞬間、コウセン町全域に緊急警報が鳴り響いた。




「コウセン町全住民に告ぐ。マグネロ、霊幻、アゲハ、コチョウ、ソイル、ハナビ、アレックス、トオルは敵だ。すぐに見つけて殺せ」




 直後、遠巻きで京香達の戦いを見ていたキョンシー達が一斉に襲い掛かってきた。


「ああ、お前達は敵だったのか!」


「分かるぞ、お前は人間だな!」


「集まれ集まれ!」


「尽くせる主が来た!」


「殺せ!」


「この町に人間が来た!」


「殺せ!」


 四肢が欠けた壊れかけのキョンシー達が京香達へと突進する。


 動きはどのキョンシーもお粗末だ。戦闘用のチューニングがされていないのだ。


 だが、殺意だけは本物だ。手足を掴まれれば骨は折れ、肉は抉られるだろう。


――。


 一瞬、京香の脳裏にコウセン町での思い出が過る。


 楽しい日々だった。


 穏やかな時間だった。


 気の良い住民達が皆躊躇いなく殺しに来ている。


 壊したくない。良いキョンシー達だった。罪の無いキョンシーなのだ。


 京香はトレーシーの人差し指の引き金を三連続で引いた。


 パシュ! パシュ! パシュ!


 電極は向かって来るキョンシー達の頭へ突き刺さり、京香は中指のスイッチを押し込んだ。


 ビリビリビリビリビリビリビリビリ!


 ワイヤーから伝わる十万ボルトの電流は一瞬にしてコウセン町の住民達の脳を破壊する!


――敵なら躊躇うな。アタシはこの町を壊してに来たんだから。


「霊幻! 壊して!」


「ハハハハハハハ! 分かっているさ!」


 バチバチバチバチバチバチバチバチ!


 命令の元、霊幻が放った紫電が住民達の脳を焼いた。


「ああ、壊された!」


「殺せ!」


「仲間が壊された!」


「殺せ!」


「あんなに仲が良かったのに!」


「殺せ!」


「一緒にゲームをしたのに!」


「殺せ!」


「敵だ! やはり敵だ!」


「殺せ!」「殺せ!」「殺せ!」「殺せ!」「殺せ!」「殺せ!」「殺せ!」「殺せ!」「殺せ!」「殺せ!」「殺せ!」「殺せ!」「殺せ!」「殺せ!」「殺せ!」「殺せ!」「殺せ!」「殺せ!」「殺せ!」「殺せ!」「殺せ!」「殺せ!」「殺せ!」「殺せ!」「殺せ!」「殺せ!」「殺せ!」「殺せ!」「殺せ!」「殺せ!」「殺せ!」「殺せ!」「殺せ!」「殺せ!」「殺せ!」「殺せ!」「殺せ!」「殺せ!」


 住民達の数は膨大だ。トレーシーの電極では量が足りない。


「邪魔者は無視してくださいネエサマ! 今の相手はボクなんですから!」


 キイイイイイイイイいいイイイイイン!


 キイイイイイいいイイイイイイイイン!


 キイイイイイイイイイイイいいイイン!


 住民達へ紫電を放ったことで生まれた僅かな隙。シロガネのテレキネシスが霊幻を打つ。


 京香の方もそうだ。トレーシーだけでは数十、下手をしたら数百のキョンシー達を止めるの不可能だ。


 関口達との距離は十分に離れている。


 蘇生符を触り、京香は眼を細めた。


「アクティブマグネット、発動」

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