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札憑き・サイコ・エンバーミング~撲滅メメントモリ~  作者: 満月小僧
ネバースターティングストーリー
272/498

② 生者







 B3―001には九体のキョンシーが居た。


 ヨシノ、タカオ、ウスグモ、イッシキ、ニノミヤ、サンジョウが驚いた顔で帯電しながら突撃する霊幻と、トレーシーを取り出した京香を見る。


 京香の視線は残る三体のキョンシーに向けられていた。その内の二体、花冠をした少女のキョンシーとカラフルな毛糸を全身に巻き付けているキョンシーは京香が初めて見るキョンシーだった。


 だが、残る一体は京香にとって忘れられるはずの無いキョンシーであった。


「ネエサマ!」


 白い髪で白いワンピースを着たキョンシー、シロガネが晴れやかな笑顔を京香へ向ける。その周囲にPSI力場が産まれた。


「吾輩の相棒が世話に成ったな!」


 霊幻が紫電を纏った右手をシロガネへと向ける。既に充電(チャージ)は終わっている。


 鋼鉄製の霊幻の体は乗用車の如き速度でシロガネ達に迫り、瞬きの間に紫電の射程圏内に彼らを収めた。


解放(リリース)!」


 バチバチバチバチバチバチ!


 強烈な雷撃がシロガネ達を襲う!


「SHOT」


 けれど、一拍シロガネのテレキネシスの発動完了が早い。


 グイン! 周囲に居たイッシキ、ニノミヤ、そしてサンジョウが霊幻へと押し出された。


「むっ!」


 バチバチバチバチバチバチ!


 宙に浮かんだキョンシー達が文字通りの肉壁となり、その壊れた肉の塊ごと霊幻が京香の隣へと飛び戻る。


「ネエサマ! どうしてこの町に? ああ、こんなに早く再会できるなんて! ボクは感無量です! カアサマもこっちに来れば良かったのに!」


 周囲にPSI力場を漂わせながらシロガネがまるで家族の様に京香へ話しかける。その間にヨシノ達が割って入った。


「え? え? ヨシノが聞くわ。マグネロ、霊幻、どうしてしまったの?」


「どうして? タカオには分からないわ。何で管理者様達へ攻撃するの?」


「教えて。ウスグモは知りたいわ。その武器は何?」


 彼女の達の顔は困惑そのものだ。どうして京香と霊幻がこの様な蛮行をするのか心の底から分からないのだろう。


「イッシキ様とニノミヤ様とサンジョウ様が壊れてしまったわ」


「コウセン町のためにずっと尽くしてくれた顔役の方達なのに」


「ああ、可哀想。こんな終わりなんてあんまりだわ」


「どきなさい。あなた達を傷付けたいわけじゃない」


 ヨシノ達から見れば、自分は明らかな狂人だ。それでもこのキョンシー達は京香に理由を求める。裏切ったのではないと、何か事情があるのだと、それを教えてくれと言うのだ。


「「「答えてよ、マグネロ」」」


 ヨシノ達に退く様子は無い。ならば、行動はもう決まっていた。


 京香はヨシノ達の奥のシロガネへ、視線を戻す。


「エンバルディアを潰すためよ。この町に来た理由なんてそれしかないでしょ」


 ピタリとヨシノ達が固まった。京香の言葉は彼女達の、コウセン町の夢の否定だ。


「え? 何を言っているのマグネロ? ヨシノには分からないわ」


「エンバルディアはタカオ達の夢なのに。キョンシーが自由に過ごすために必要なのに」


「ウスグモ達の夢を否定するなんて、キョンシーだったらあり得ないわ」


 直後、京香はヨシノ達がマグネロというキョンシーの真相に気付いたことに気付いた。


「「「そうよ、キョンシーだったらあり得ないわ」」」


 キョンシーに見えてキョンシーではない存在は、人間しかいないのだ。


「「「ああ、なら、あなたを殺さなきゃ!」」」


 突如として、ヨシノ達がその全身を使って京香へと突撃した。


 一切躊躇いの無い全力の殺意。突然の変化。先程までの穏やかさは欠片も無い。


 だが、それは非戦闘用の子供体のキョンシーの攻撃に過ぎず、京香の頭は既に戦闘用に切り替わっていた。


「どけ!」


 ヨシノ達はいとも簡単に京香に蹴り飛ばされ、窓を突き破って屋外へと出た。


 蹴りの回転を殺さず、京香は引き金をシロガネ達へ引いた。


 パシュ! パシュ! パシュ!


「ハハハハハハハハハ! 撲滅だああああああああ!」


 圧縮ガスから放たれた電極がシロガネ達へ放たれ、霊幻が再び突撃する。


 それと同時に関口とコチョウもB3―001へ突入した。


「コチョウ、ぶっ飛ばせ!」


「!」


 パタパタ! ビュオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!


 狭い屋内の中には似つかわしくない暴風が霊幻の両脇よりシロガネ達を襲う。


「SHOT!」


 シロガネを含む三体のキョンシー達が後方へと跳び上がり、直方体のテレキネシスの塊が霊幻を襲い、コチョウの竜巻を打ち消した。


「避けろよ霊幻!」


「了解だ!」


 霊幻が返事をしたのを確認せず、関口がエアロボムとフレアボムを室内へ投げた。


 意図は明白。関口とコチョウができる最大火力を放つつもりなのだ。


 コチョウが風に乗り、一気に二色爆弾の元へと体を躍らせる。


「爆ぜろ!」


 コチョウを巻き込んで二色の爆弾は強烈な爆炎と爆風を起こした。


 パタパタパタパタ!


 天井近く、コチョウの羽ばたきが爆炎と爆風が混ざり合った激烈な爆発全てを飲み込み、眼下のシロガネ達へ放った。


 指向性を持った爆発の破壊力は数十倍にも膨れ上がる!


「ペルセポネ、散らして」


 しかし、頭上より迫る風炎の砲弾へ、花冠のキョンシーが「ふぅ」っと息を吹きかけた。


 瞬間、まるで煙の様に関口とコチョウの砲弾は散らされる!


「!」


 何が起きた? ペルセポネのPSIが発動したことは明白だ。だが、ペルセポネのPSIは設置型のサーマルキネシスであるはずだ。


 答えを出す時間は無かった。


「ネエサマ! ここは狭過ぎる! 場所を変えましょう!」


 シロガネ達を囲む様に大量のPSI力場が発生する。大小様々な正方形の設置力場は四方八方にその面を向いている。


「ハハハハハハハ! 意趣返しのつもりか!?」


 霊幻が京香を抱え、関口がコチョウの首根っこを持ち、それぞれB1―001から離脱する。


 それとシロガネの号令は同時だった。


「SHOT!」


 シロガネ達を囲んだ全てのPSI力場が解放され、大量のテレキネシスがB1―001ごと周囲へ吐き出された!

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