表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
札憑き・サイコ・エンバーミング~撲滅メメントモリ~  作者: 満月小僧
ネバースターティングストーリー
271/499

① 管理者達の来訪

「今日の昼頃に管理者達が来るぞ」


 朝、隆一から告げられた言葉に京香は来たか、と思った。


 今日は潜入任務十四日目。当初の予定通り、管理者達が来訪する様だ。


「誰が来るのかは分かっているの?」


「アリアドネとペルセポネは確定だ。他はまだ分からん」


「ぶっつけ本番ね。関口、あんたとコチョウの準備は?」


「万全だ。お前こそどうなんだ? ちゃんと戦えんのかよ? 前みたいな暴走は勘弁だぜ」


「……気を付けるわ。なるべくマグネトロキネシスは使わないようにする」


「だけど、いざと成れば使うんだろ?」


「まあね」


 戦闘において懸念点は京香にあった。


 先日、ヨシノを助けた際、京香は落ちて来る大岩を止めた。


 欠片を調べてみたが、あの大岩は鉄をほとんど含んでいなかった。


 京香のPSIはマグネトロキネシス。磁力を操る力だ。それはつまり、磁力の影響を受ける物体にしか基本的に作用できないということである。


 あの大岩はどう見積もっても数十トンはある。含まれていた含鉄量と書面上の京香のPSI出力からではその落下を止められないはずなのだ。


 京香のマグネトロキネシスがおかしくなっていた。


「頼むぜ。お前の暴走で全滅って笑い話にも成らねえからよ」


 関口の言葉は正しい。この様に真っ直ぐに不満を言ってくれるのはとても貴重である。


「ハハハハハハハハハ! 吾輩の相棒を信じろ! 必ずや制御してみせるさ!」


「……まあ、アタシの問題は置いときましょ。どうやって攻める?」


 京香は関口へ質問する。京香と霊幻、関口とコチョウがこの場で戦えるキョンシー使いとキョンシーの組だ。


「一気に無力してえな。何か案はあるか?」


「あるわ」


「言ってみろ」


「アタシと霊幻はアリアドネに洗礼してもらうことに成ってる。そこで騙し討ちするのはどう? ヨシノ達に頼めば取り次いでもらえるわ」


「お前の顔が敵にバレている可能性はどうする?」


「バレた瞬間に攻撃を叩き込めば良いのよ。どっちにせよ近くには行けるんだし」


 なるほど、と関口が頷いた。作戦とも言えない様な強硬策。だが、この場ではそれが最も成功確率が高そうなのも確かだった。


 京香と霊幻の戦闘力は高い。高過ぎると言っても良い。先のアネモイの様なA級キョンシー相手以外で負ける気はしない。


――まあ、アタシが万全だったの話だけどね。


「最悪情報さえ持ち帰れれば良い。管理者達の首を持って帰れれば充分だわな」


 数度頷き、関口が京香の案に乗った。


 続いて京香はあおいと隆一を見る。彼女達も乗るならば決定である。


「俺は構わん。どちらにせよ戦闘では役立たずだからな。サポートに回ろう」


「私も、それで良いよ。でも、マグネロが一番危険だよ? クロガネ達はマグネロを狙ってるんだよね?」


 確認する様にあおいが一歩足を進めた。どうやら、クロガネと京香の関係も既に彼女は知っている様だ。


「そうね。でも、もしもクロガネやシロガネ達が来たとして、それならそれで好都合よ」


「ハハハハハハハ! その通り! ここで決着を付けてやろう!」


 PSIの出力が不安定であることを除けば、頭と体のコンディションは良い。それにクロガネとシロガネのPSIについては既にある程度の情報を持っている。


 前回クロガネとシロガネに負けた時の様な失態はもう冒さない。


 京香はテンダーコートの懐に入れたトレーシーを擦る。


 引き金を引く時は直ぐそこに迫っていた。







「「「さあ、マグネロ、洗礼に行きましょう!」」」


 アリアドネから洗礼を受けたいという話を聞いて、ヨシノ達は花が咲く様な笑顔を浮かべた。


 時刻は昼頃。隆一の言う通り、管理者達が来るという報せがコウセン町全域に届き、キョンシー達は俄かに活気だった。


 直方体の無機質な家屋にはリボン巻き付けられ、どのキョンシーも着飾っていた。


 コウセン町のキョンシー達はイベントが好きである。歌唱大会、ゲーム大会、歓迎会、ダンスパーティー、など。とにかく次から次へと息切れせずイベントを開催している。


 そういうキョンシー達にとって、数か月に一度の管理者達の来訪は恰好のイベントなのだろう。


 まるでサンタを待つ子供やお年玉を待つ子供の様だ。どちらも京香には知らない過去だったが。


「ヨシノは楽しみだわ。洗礼を受けてマグネロと霊幻はどの様に変わるのかしら」


「タカオは楽しみだわ。洗礼を受けてマグネロと霊幻はどんな願いを持つのかしら」


「ウスグモは楽しみだわ。洗礼を受けてマグネロと霊幻は何をする様に成るのかしら」


 管理者達の元へ先導するヨシノ達の足取りは軽やかだ。


 どうやら、既に管理者達はB3―001、コウセン町の集会所で顔役達と話しているらしい。


「今日いらっしゃった管理者様達はどなたなの?」


 道すがら京香は問い掛ける。少しでも管理者達の情報が得られれば戦況は優位に成るだろう。


「分からないわ。アリアドネ様とペルセポネ様はいらっしゃったらしいけれど。付き添いの方が誰なのかまでは全然! ああ、どなたがいらっしゃったのか楽しみね!」


 笑いながらヨシノが小さく跳ねた。


――そう上手くは行かないか。


 結局は出たとこ勝負。覚悟を決めるしかなかった。


 京香は僅かに後方へ意識を向ける。隠れる様に関口とコチョウが付いて来ていた。


――あおい達はどうしているのかしら。


 隆一とあおい、アレックスとトオルは既にコウセン町の何処かで行方をくらませている。彼らの役割は京香達のサポート、特に離脱経路の確保であった。


「一体今日は誰が連れて行って貰えるのかしら。ああ、タカオは羨ましいわ。空の下に出れるなんて」


「そうね。ウスグモも同意するわ。でも大丈夫よ。コウセン町はずっと続くんだもの。いつか必ず順番が回って来るわ」


 タカオとウスグモがキャッキャッと笑う。彼女達はコウセン町から連れて行かれたキョンシー達が脳を取り出されている事実を知らないのだ。


 不条理だ。壊されるなら、せめて理由を教えてやるべきだ。


「ハハハハハハハ! 吾輩は楽しみだ! 管理者達にぶつけたい言葉ならばもう構築できている!」


 横の霊幻が笑って少しして、京香達はコウセン町の最深部へと下り、その視界にB3―001が見えた。


「「「さあ、管理者様達に会いましょう!」」」


 タタタと小走りするヨシノ達を追いかけ、京香と霊幻はB3―001の入口へと立った。


――最初にトレーシーを撃つか?


 先制攻撃のシミュレーションを脳内で行いながら、京香はB3―001の中へ耳を澄ました。


 中からヨシノ達の声がする。京香と霊幻の洗礼について話している様だった。


 京香のタイミングに合わせて霊幻は動くだろう。


 息を整え、京香は懐のトレーシーへ手をかけたまま、入口へと足を踏み入れた。




「素晴らしい。身を呈してキミ達を助けるなんて。ボクも会いたくなってきました」




 聞き覚えのある声が届き、見た覚えのある、京香と同じ真っ白な髪が視界に映った。


「霊幻!」


「ああ!」


 瞬間、霊幻は駆け出し、京香はトレーシーを取り出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ