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③ 歌って踊って楽しんで







 数時間後、京香達はどんちゃん騒ぎに巻き込まれていた。


 あおいの言う通り、マグネロ、霊幻、アゲハ、ソイルの歓迎パーティーが行われているのだ。


 B1ー333号に来る途中あった広場には、モミの木、繰り抜かれたパンプキンヘッド、門松、大太鼓、エトセトラエトセトラ。季節感も統一感も無い多種多様なアイテムが好きなように置かれている。明らかなパーティー仕様だ。


 人間のパーティーと違う所は飲食が置かれていないところだろう。どのキョンシー達も事前に栄養補給は済ませてきた様だ。


「マグネロ! もう一回歌いましょ! もう一回! ね!」


「十回目じゃない? もうレパートリーが無いわよ」


「大丈夫! 隣で私が歌うから! マグネロもハミングしてて!」


 祭りの主催者の一人であろうリザが京香の手をまた引いて広場の中央へと連れて行く。


「京香は生体パーツを多く残しているのね! 嬉しいわ! 肉声を聞けるなんて! ハナビはあんまり付き合ってくれないんだもの!」


 そんなことをリザは言った。確かに耳を澄ませてみれば、リザの声には僅かに機械音が混ざっている。喉が機械化しているのだろう。


 リザに引っ張られクルクルクルクル。京香は回りながら周囲を見る。


 霊幻は格闘自慢のキョンシーと何故だか模擬戦をし、あおいと隆一は知り合いらしいキョンシーと談笑し、関口とコチョウはそれぞれダンスと舞いを披露していた。


 どのキョンシーも皆笑っている。騒がしいが穏やかな時間。キョンシーだけが作り出す独特の雰囲気。清金邸ととても似た雰囲気を持っていた。


 京香は確信する。この町の設計にはクロガネが関わっているのだ。


「さあ、京香、歌いたい曲を言って! 大丈夫、サリエリが何でも弾いてくれるわ!」


 リザが指したの両足を失った多腕のキョンシー、サリエリだった。サリエリの前には小さなピアノが置かれ、多腕にはヴァイオリンやギターなど、様々な楽器が持たれている。


「それじゃあ」


 そして京香がリクエストしたのはカラオケで何度も熱唱した曲だった。


 数秒の沈黙の後、サリエリの数十本の指が一斉に動き出す。


 軽快なイントロが流れ、思い出が駆け巡る。


「まあ! 良いチョイスね!」


「さっきからそればっかりね、リザ」


 夜に少年少女達が星を見に行く歌だ。


「「La~~♪」」


 京香とリザの声がハーモニーを奏で、この歌を歌うことのできるキョンシー達がそれに続く。


 コウセン町では星が見えない。ならば、星を見に行くこの歌は皮肉なのかもしれない。


 そんな思いが京香の頭を過った。


 ガヤガヤとした喧騒。こういうパーティーを京香は好んでいて、楽しいと思ってしまった。




 祭りは続き、京香は広場から少し離れた場所で休憩していた。連続して歌い続け、喉が疲れたのだ。


 なるべく疲れを表情に出さない様に意識する。この程度でキョンシーは疲れたりしないのだから。


「La~~LaLa~~LaLaLa~~」


 広場の中央ではリザがまだ歌っている。どうやらリザはこの町の歌姫の様だった。


 そんな中、京香は自分に向けられた視線に気づいていた。


 やや離れた所。サリエリのピアノに隠れる様に、三体の子供のキョンシーが京香を見ているのだ。


 初め、監視用のキョンシーかと京香は疑った。だが、監視用と言うにはあまりにお粗末で、その眼にはまるで生きた子供の様なきらめきがあった。


――どうしようかしら?


 あの様子を見る限り、かなり明確な自己を発現してる様だ。何かこの町の話を聞けるかもしれない。


 そう京香が考えていると、三体の子供キョンシー達は意を決したように自分の蘇生符を撫でて、京香へと歩き出した。


 逃げると言うのもおかしい話だ。それはやましさの証左でもある。故に京香はそれらのキョンシーが自分の所までトテトテ歩いて来るまでジッと待った。


 子供のキョンシー。見た所、肉体年齢は七歳から十歳程度。とても若い幼女から少女の素体を使ったキョンシーの様だ。どのキョンシーも可愛らしい顔立ちをしている。


 子供キョンシー達は互いに顔を見合わせ、一番前に立っていた一番幼いキョンシーが名乗りを上げた。


「はじめまして。ヨシノ」


「タカオ」


「ウスグモ」


「……はじめまして。アタシはマグネロ。何か用?」


 京香の質問にヨシノ達は眼を輝かせて問いを返した。


「「「マグネロは外の世界を知っているの?」」」


「は?」


 聞くと、この三体のキョンシーは製造されてから今までただの一度も空の下に出たことが無いと言う。コウセン町に連れて来られるまでは地下室で過ごし、コウセン町から出たことも無いらしい。


 京香は自分の、正確にはマグネロの設定を思い出す。マグネロと言うキョンシーは要人護衛用で各地を回っていたキョンシーだったはずだ。


「「「おねがいおねがいおねがい! 外の世界のことを教えて!」」」


 少女達はズイッと京香へ詰め寄る。中々の圧力であり、その眼には希望や期待が見えていた。


――どうしたものかしらね?


 ここで断るのは簡単だ。マグネロは要人護衛で酷い扱いを受けたという設定だ。外の世界なんて思い出したくないとでも言えば無下にはされまい。


 けれど、町民達と友好的な関係を気付くチャンスをみすみす棒に振るうのも惜しい。


 チラッと京香は仲間達を見る。広場に居る誰もが町民のキョンシー達と何かしらのコミュニケーションを取っていた。


「……良いわよ。何から聞きたい? 答えられる限りは答えてあげるわ」


「「「まあ!」」」


 ヨシノ達は花が咲いた様に笑い、京香を囲んで質問を始めた。


「それじゃあ最初に聞きたいわ! ヨシノが聞きたいわ! ねえ、マグネロ、空ってどんな感じなの?」


 中々に抽象的な問いである。京香は少し考えながら答えた。


「空はね、とりあえず広いわ。本当に何処までも広いの。それで、自由、かしらね? アタシはそんなに高くは飛べないからちゃんとは分からないけど」


「次にタカオが聞きたいわ! 太陽が暖かいって何? 熱いとは違うの?」


「痛くない熱さって言えば分かるかしらね? それが全身へと降りてくる感じ」


「ならならウスグモが聞きたいわ! 月の光はどんな感じなの?」


「月は良いわよ。ずっと見てられるもの。眼も痛く成らないし。優しいって表現もされるわね」


 何か質問に答える度、少女のキョンシー達は次の質問を浴びせて来た。


「「「それからそれから!」」」


「はいはい。焦らない焦らない。ちゃんと答えるから」


 京香は少し思い出す。かつて居た、妹と弟ともこんなやり取りをしたのだ。


 パーティーが終わるその時まで京香と少女のキョンシー達の問答は終わらなかった。

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