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② 任務開始







 京香の手を引いたキョンシーはリザと名乗った。


 リザに連れられ、京香達はコウセン町を歩く。どうやら、休憩所と呼ばれる場所まで連れて行くらしい。


 テクテクテクテク。


 休憩所までの道すがら京香は周囲の光景を観察し、リザからこの町の説明を受けた。


 コウセン町は山の地下を繰り抜いた直径二キロメートル程度の地下街である。


 キョンシー達は全部でおよそ五百体住んでいるらしく、各々が勝手に自由に過ごしている夢の町だそうだ。


――キョンシーが自由に、か。


 その言葉を聞いた時、京香の隣に居た霊幻は「ハハハハハハ!」といつもとは違う高笑いを上げた。


「マグネロはやりたいことはある? 好きなことを探さなきゃ。思うままに振舞わなきゃ。だってせっかく自由に成れたんだもの。もう誰も傷つけない。もう誰も傷つかない。手も足も眼も鼻も口も耳も、全部が全部私達だけの物なんだから」


 歌う様なリザの声を聞きながら、京香達が連れて来られたのはB1ー333という二階建ての建物だった。この地点まで案内する様、隆一が指定したのだ。


「それじゃあソイルに、後は任せるわ。今日の夜はマグネロ達の歓迎パーティーをするから広場に来てね」


「おう。ありがとうな」


 左手をヒラヒラと振りながらリザがホップステップジャンプと街並みに消えて行く。


「ここは俺とハナビの家、ということに成っている。入れ」




 B1ー333の一階で京香は再び懐かしい顔と再会した。


「おお、久しぶりじゃねえか!」


「ひさし、ぶり」


 広いリビングのソファスペース。そこに居たのは隆一のキョンシー、アレックスとトオル。アレックスの見た目はかなり変化していた。


「久しぶり、アレックス、トオル。……アレックスの方は、随分、マシンっぽく成ったわね」


「ああ! バシバシホームランしてるぜ!」


 アレックスは顎から下の目に見える部分全てが機械に置き換わっていた。元々桁外れな改造が施されていたキョンシーだったが、その度合いが更に増えている様だ。


「トオルは、足を悪くしたの?」


「こわれかけてる、だけ」


「……そっか」


 対して、トオルは見た目に変化は無い。だが、車椅子に腰かけており、大分ガタが来ている様だった。


「御託は良い。さっさと話をしようぜ」


 パンパンと関口が手を叩き、我が物顔でソファにコチョウと腰かけた。


「ハハハハハハ! アゲハよお前の言う通りだ! 速やかに話を始めようではないか! さあ、マグネロ吾輩達も座るぞ! 幸い充分席はあるのだから!」


「はいはい」


 早くもスムーズに偽名で呼んでくる霊幻に京香は片目を瞑って返事をする。


 速やかに部屋の全ての人間とキョンシーが座り、隆一へ視線が集中した。現地での詳しい情報を知っているのは彼である。


「情報を共有する。マグネロ、アゲハ。お前達の目的は何だ?」


「この町の調査だ。場合によってはここに居るキョンシー達の殲滅も含まれている」


 京香が答える前に額の蘇生符を弄りながら関口が答え、隆一が頷いた。


「では、調査が第一目的だとして、俺が知っている情報を話すぞ」




「ここに来るまでの間、リザがペラペラと話していたが、この町は山とその地下を繰り抜いて作られた地下都市だ。入口は俺達が入ってきた場所にしかない。少なくとも俺が調べた限りはな。大体二か月に十体程度のペースで新しいキョンシー達がこの町を訪れる。どうにも世界各地でコウセン町の情報がばらまかれている様だ」


 指向性を持ってキョンシーに、それも自律型のキョンシーへ情報を流す何者かが居るならば、確かにこの町の様にキョンシーを集める事も難しくは無い。そしてその何者かはほぼ確実にエンバルディアの一味だ。


 コウセン町のキョンシー達の姿を思い返し、京香は隆一へ質問した。


「この町のキョンシーは五体不満足が多いわね。何か理由はあるの?」


「酷い環境で使われていたキョンシー達へ特にコウセン町の情報が流されていた様だ。移植用臓器格納、爆弾処理、紛争、放射線の除染作業、変わり種だと見世物小屋も居たな」


「ほう。珍しいが聞かない話では無いな。だが、隆一よ、たいていの場合その様な環境で使われるキョンシーは他律型だ。吾輩の見た所、この町には自律型のキョンシーが多過ぎる様に思える。これはどうしてだ?」


「何でも突然目が覚めた、だそうだ。ある時急に自分達が劣悪な環境に置かれていることに気付いたと言ったキョンシーが多い」


「他律型が自律型に成る事例なんて聞いた事が無いぜ? 何かの間違いじゃねえか?」


「それ以上は分からん」


 霊幻の質問への答えに関口が眉を顰める。隆一の言葉を真正面から受け止めるならば、この町のキョンシー達はある日突然に意思を発現したということだ。だが、他律型のキョンシーが自律型へと変化する事例など聞いたことが無い。


 どうやらこの町のキョンシー達は何かをされている様だった。


「話を戻すぞ。ともかく、この町のキョンシー達は皆、それぞれの意思の元、コウセン町に集まっている。この町で自由に生きることが目的だそうだ」


「ハハハハハハハ! 生きると言ったか! 何とも滑稽ではないか!」


「静かにしなさい」


 思わずと笑ってしまった様な霊幻を諫めながら、京香は首を傾げる。


「それだけ? ただこの町で過ごしたいだけなの?」


「ああ、少なくとも住民達はそうだ。何か大それた計画をしている訳じゃない」


「その言い方は、()()()()には別の目的があるってことだな?」


 京香、隆一、関口と言葉のバトンは繋がれていく。


「ここからは俺とハナビの推測に成るぞ? それでも良いか?」


「ああ、話してくれ。何にも情報が無いよりはマシさ」


 関口が「それで良いよな?」と聞き、京香が「異存は無いわ」と答える。


 良し、と隆一が答えようとした直後、彼が激しく咳き込んだ。


「ゴホッ! ッ! ッシ!」


 くぐもった音が鳴り、速やかにあおいが立ち上がって隆一の背を擦る。


 音を抑えた咳は十数秒続き、京香達はジッとその様を見た。


「……大丈夫?」


 今の咳は病人の物である。葉隠 スズメを看病した時、似た様な咳の音を京香は何度も聞いた。


「すまんな、少し話し過ぎた様だ。あおい、続きはお前が話せ」


 疲れた様に隆一は口を閉じ、深くソファへと沈み込む。


 あおいはとても慣れた様に隆一の背を擦ったまま、話の続きを始めた。


「どうにもこの町は実験場みたい。キョンシー達だけで社会がどう形成されるのか、そもそも社会活動が形成できるのか。そんなデータを集めるための実験場。観察所って言い換えても良いかな」


「実験場ってことはあれだな? 何処かでデータを送るか取りに来るかしているわけだ」


「その通り。大体三か月に一回くらいかな。データを取りに外部からキョンシーが来るよ。電波も通じないみたいだからわざわざ来てるみたい」


「あおい、次にそのキョンシー達が来るのは?」


「多分、二週間後。周期通りならね」


「んじゃ、大まかな方針は決まったな。二週間、俺達はこのクソみてえな町に潜伏、調査する。で、タイムリミットに成ったらノコノコデータを取りに来たキョンシーを捕まえる。他に意見はあるか?」


 関口の言葉には理があり、反対する理由は特に無かった。


「良し。それじゃあ、一回休憩しようか。後でマグネロ達の歓迎パーティーがあるからね」


「本当にやるの? アタシ達のために?」


「新しい住民が来たら恒例行事だからね」


 パンパンとあおいが手を叩く。それは京香達の潜入任務の幕開けの合図だった。

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