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② 精神感応系PSI




***




「お嬢様、到着いたしました」


「結構遠かったですネ」


 ヤマダはセバスが運転する車に乗って半日、成栄大学を訪れていた。


 成栄大学は日本で一、二を争うキョンシー研究を行っている大学であり、ヤマダはここのとある教授に話があった。


 それというのも、ワトソンがサイコメトリーした映像が理由である。







 ワトソンが読み取った部屋には二体の野良キョンシーが暮らしていた。


 天原記念研究所の二号館の地下、真っ白な部屋の奥に置かれた真っ白なベッドに、首輪を嵌められた全く同じ顔をした二体のキョンシーがいつも寄り添って腰掛けていた。


 逃亡するまでの一ヶ月間、来る日も来る日も、壁に背を預けた一方がもう一方を抱いて、そのままほとんど身動ぎもせず日がな一日過ごしている。


 行動が変わるのは三日に一度。白衣を着た科学者達が現れる時だけ。


 科学者達が来た時、抱きかかえていたキョンシーは苛烈に立ち上がり、抱かれていたキョンシーの前に立って科学者達から守ろうとする。


 その姿は姉が妹を守ろうとする様にも見えた。姉であろうキョンシーの蘇生符が微かに発光している。PSIを発動しようとしているのだ。


 だが、首輪がPSI発動を阻害し、姉のキョンシーは科学者達が連れて来た数体のキョンシーに取り押さえられ、妹のキョンシーが外へと連れ出される。


 キーキー! と、姉のが叫び妹へ手を伸ばすが、このキョンシーの肉体改造は一般的なキョンシーと同じだ。PSIが使えない状態で振り払えるはずが無い。


 妹のキョンシーは半日ほどで部屋に戻され、また姉の腕に抱かれベッドに座る。


 そんな代わり映えの無い日々が続き、最後、京香が燃え落ちる研究所を訪れる数時間前、姉と妹に嵌められた首輪が突然ショートを起こし、炎で部屋が包まれたのだ。







 この映像を見たヤマダが注目したのは野良キョンシー二体ではなく科学者達だ。


 キョンシー達の行動にも色々と考えるべき所はあったが、何よりもキョンシー犯罪対策局として必要なのはここに居る妹のキョンシーのPSIの詳細である。


 度々映像に登場する科学者の一人、もじゃもじゃヒゲに白髪の老人。その顔にヤマダは見覚えがあった。


 この老人の名前は、高原(たかはら) 一彦(かずひこ)。成栄大学の元教授だった。


 ヤマダは成栄大学に居る高原の元愛弟子の平野(ひらの) (てつ)()と会う約束を取り付けていたのだ。


「高原先生の話でしたよね? 退職してもう十年に成りますねぇ」


 成栄大学は四箇所の敷地にキャンパスを持つ巨大な大学であり、それぞれの敷地に二十程度の建物があった。


 その建物の一つ、十三階建ての三十一号館の七階、711号室の平野研の居室にヤマダとセバスは訪れていた。居室の四人掛けの大机には学生が持ってきたのであろう菓子類が置かれ、本棚には教科書と実験ノート、そして何冊かの漫画本が置かれている。


 前方に座る平野へ返事する前にコホン、とヤマダは軽く咳払いをした。


「はい。私達、キョンシー犯罪対策局は現在、高原一彦の情報を集めております。特に、彼が研究していたPSIについて」


 流暢な日本語がヤマダの口から流れた。意識を割くのは面倒ではあったが、ヤマダは片言以外でも話せるのだ。


「詳細は守秘義務があるから話せません。平野先生が知っている限り、高原一彦が作ろうとしていたPSIはどの様な物でしたか?」


「高原先生の研究が知りたいと言われても、ネットで調べればいくらでも出てきますよ。日本で有数のエレクトロキネシスの専門家だったんですから」


「ええ、大脳皮質とエレクトロキネシスの操作性の関係の論文は見事でした。まさか海馬と大脳皮質に操作性への相関性が見つかるなんてその当時は思いもしませんでした」


 さらりとヤマダは移動中に読んだ高原一彦の若い頃の論文を口にし、平野は驚き、興味深そうにこちらを見た。


「中々、お詳しい。高原先生はそれでこの大学の教授に成ったんですよ」


「そして、あなたは高原研究室に配属された」


「幸いなことに希望が通りましてね」


 平野は昔を懐かしむように眼を細め、手元の茶を飲んだ。


「平野さん、あなたが時間的にも密度的にも最も高原一彦の寵愛を受けた研究者です。どうでしょう? 高原一彦から何か聞いたことはありませんか? キョンシーのPSIについて。エレクトロキネシスや精神感応系について何かを言っていませんでしたか?」


 薦められた茶菓子をそつなく断り、ヤマダは平野へと問いを続ける。


 世間話をしに来たのではない。速やかに情報を集めるのがヤマダの目的であった。

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