② どこまでもクレバーに
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ジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリ!
京香と幸太郎、そして倒れ伏したキョンシー達を大量の砂利が覆ったのは一瞬だった。
砂鉄を京香が持っていた訳では無い。京香の周囲にあった瓦礫や地面が浮き上がり、砕け、砂利と化したのだ。
バァン! バァン! バァン! バァン! バァン!
京香の周囲でいくつもの爆発の音が鳴っている。その正体をヤマダは一瞬で看破したが、信じられなかった。
――磁場による大気の爆発。
今、京香が起こしている現象はそれだ。位置によっては千テスラを超える激烈な磁場が生んだマクスウェル応力によって爆縮した空気が爆発しているのだ。
「おいヤマダ! 一体何が起こってやがる!?」
京香から逃げながら関口が問い掛ける。その脇で彼のキョンシーであり、関口湊斗が第四課主任に出世した理由であるコチョウを抱えていた。
「キョウカのPSI暴走デス。推定出力はA。なおも範囲は拡大中。困りましたネ。シカバネ町の危機ですヨ」
「言ってる場合か! おい、お前! 避難指示を出せ!」
関口が並走する部下へ命令し、その部下がすぐさま本部へと緊急入電した。
セバスに抱えられたまま、ヤマダは京香を――正確には磁気嵐を――見つめる。
磁気嵐の、京香のPSI暴走の範囲は加速度的に広がっている。にも拘わらずその密度には些かの減少も無い。
これがAクラスのPSI出力かと、ヤマダは珍しく冷や汗を搔いていた。
この一帯はまだ倉庫街。無人であり、重要な設備も無い。だが、十分と経たぬ間にこの暴力的な磁場は住民を、そしてシカバネ町を破壊するだろう。
――何か突破口は?
こんな磁場の中で人体が原型を留められるはずが無い。にも拘わらず、京香のPSI暴走は続いている。それはつまり、京香の周囲では何かしらの安全圏が働いているということだ。
スー。ヤマダは大きく息を吸い、喉が痛く成る程の大声を出した。
「キョウカアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア! 聞こえますかああああああああああああああああああああああああ!」
ジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリ!
「あ、これはダメですネ。声が届く可能性が皆無デス」
「諦めんじゃねえよ!?」
これはどうしようもない。ヤマダは初動を間違えたのだ。
この磁気嵐を止めるために、やるべきだったのは逃走では無く、鎮静である。どの様な手段を用いてでも京香の意識をあの場で刈り取らなければ成らなかったのだ。
――次善策を考えるべきですね。
ヤマダは切り替える。
「ミナト、このレベルのPSI暴走デス。京香の脳は直ぐに壊れるでショウ。それまでどうにか逃げ回るのがこの場の最善だとワタシは考えますヨ」
冷静にヤマダは京香の脳の寿命を計算する。長くとも十分程度で限界を迎えるはずだ。
「おいっそれで良いのかよ!? あいつはお前の仲間だろうが!?」
「えエ。でも、それはこの場の解とは関係ありませんヨ」
どこまでもクレバーに。それがヤマダと言う少女の第六課での役割である。
「リュウイチ、異論はありませんネ?」
「ああ。それが最善だろうな」
ヤマダと関口のすぐ後ろ。逃走部隊の殿に居た土屋も合意する。この場での方針が決定された瞬間だった。
「……花を届けますヨ」
愛着があった相手へヤマダは口だけの感傷を向ける。
「くそがっ!」
関口も悪態を付きながら振り返るのを止めた。
「……」
土屋は何も言わず、ただ殿を務める。
哀れにも、これは清金京香が世界から見捨てられた瞬間だった。
少なくともこの場の誰もがそう考えたし、疑わなかった。
けれど、京香の脳が壊れることは無く、シカバネ町にこれ以上の被害が出ることも無かった。
ジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――パァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアvアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!
磁気嵐が唐突に弾けたからだ。




