最後の一枚
「これで、上森幸太郎は死んだのか?」
「ああ、この攻撃が致命傷だ。後数分もしない内に上森幸太郎はその生を終える」
「……一つ聞いても良い?」
「吾輩に答えられるのならば何でも答えよう」
恭介は報告書から顔を上げ、霊幻を見た。
「もしも、清金先輩が居なかったなら、アカズキンの最後の攻撃を上森幸太郎は避けられた?」
かつて上森幸太郎であったキョンシーはその質問が興味深かった様だ。やや眼を丸くし、「……ふむ」と十数秒思考する動作を見せた。
「完全に避けるのは不可能だ。あの時点で上森幸太郎が体中に負っていた傷は救護班が来なければ十数分以内に死ぬ程の大怪我だ。あれ程の、しかも完全にランダムな方向から飛んでくる弾丸を避け切れた可能性は皆無と言って差し支えない」
霊幻の言葉には続きがある様で、恭介はそれを待った。
「だが、致命傷だけはどうにか防いだであろうな。心臓と脳と脊髄だけは守り切ったであろうとも」
「……そっか」
恭介はあまりの哀れさにため息を吐きたい気分だった。
窓から鳥の鳴き声が聞こえる。
「京香にはそれが分かっちゃったんだろうね」
あおいが恭介と自分のコップへビールを注ぎながら顔を曇らせる。
「はい、お酒も後少しだし、木下くんも飲んじゃって」
「貰います」
ゴクゴク。ビールを喉に流し込む。部屋に残った酒は後、ビール瓶半分程度だった。
いつも間にか、七面鳥を食べ終えたマイケル、紅茶を飲み終えたヤマダとセバスチャンもそれぞれ恭介の近くに椅子を持って来ている。
「……お二人ともどうしたんですか?」
「そろそろ報告書も終わりだからな」
「えエ。最後は近くで話しまショウ」
どうやら我関せずの態度を貫いているのはソファで眠っているホムラとココミだけの様だ。
ペラリ。恭介は報告書を捲り、次が最後の一枚であると知った。
「清金京香のPSI暴走」
タイトルを読み上げる。
上森幸太郎が死亡し、清金京香がPSIを暴走させ、すぐに鎮静した。
ただ、それだけの短いとても短い内容だった。
「では、最後の話を始めようか」
ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!




