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⑥ 狂弾







 アカズキンの体からどさりと力を抜けた。けれど、幸太郎は気付く。アカズキンの活動自体は止まっていない。


――頭を撃ち抜いたのに?


 理由は不明であるが、アカズキンの蘇生符と脳はまだ破壊できていないらしい。


 だとしても、この場で動くことは難しいはずだ。


「追撃だ!」


 バリバリバリバリバリバリバリバリバリバリ!


 ライデンが白雷を纏った拳を振り上げる。直接叩き込めば無事では済まい。


「キョンシーに殺されるなんてごめんだよ!」


 カーレンが叫び、アカズキンの腹からライフル銃を引き抜いた。


 銃口がライデンへと向けられる。それは人間の速さだ。


 キョンシーであるライデンの方が一手早い。



 

 ヒヒヒヒヒヒヒヒイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイン!


 その時、()()()()が響いた。




「ライデン下がれ!」


 幸太郎は即座にライデンに掴まり後方へと下がる。


 ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!

 

 直後、幸太郎達が居た正にその場所を爆発する白い影が通り過ぎた。


「やっと来たねギョクリュウ!」


 カッカッカ! カーレンの笑い声に白い影が帰ってくる。


 そこに居たのは馬の顔をした歪な白いケンタウロスだった。


 既に幸太郎の体力は切れている。新手を倒せる余裕は無かった。


「京香、増援が来るまで粘るぞ。後少しだ」


「分かった、先輩、もう前に出ないで。これ以上は無理よ」


 振り向かずに京香へ命令する。後一分か二分すれば増援が来るはずだった。


「カッカッカ! 私達はこれで退かせてもらうさ!」


 しかし、敵が選んだのは撤退であった。ギョクリュウと呼ばれたキョンシーがその背にカーレンとゴジョウを乗せる。


 相手も対策局からの増援が来ると分かっているのだろう。この場で撤退するのが吉であった。


――ふざけんな。


――良かった。


 あかねの仇を討てないという怒り。


 京香を守れそうだという安堵。


 二つの感情が同時に幸太郎の中から溢れる。


 それを顔には出さず、幸太郎はライデンの横から拳銃をカーレン達へ向ける。


「逃がすと思うのか? この俺が」


「捕まえられると思うのかい? その体で」


 互いの状況はバレている。


 バンバンバン!


 銃弾を放つが、ギョクリュウと呼ばれたキョンシーの体に阻まれた。


「行きなギョクリュウ! さっさとこの町からオサラバするよ!」


 ヒヒヒヒイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイン!


 ギョクリュウが嘶き、背を向けて走り去っていく。


 戦いは終わった様だ。




「先輩!」


 すぐさま背後の京香が幸太郎へと駆け寄った。


「大丈夫!? 早く横に成って救護班が来るから!」


 触って良い状態なのかも京香には分からないだろう。狼狽した声が幸太郎の全身を揺らす。


「大丈夫だ京香」


 安心させるため幸太郎は京香へと振り向く。


 けれど、膝からガクンと力が抜けた。


 重力に引っ張られ、視線が地面へと引き寄せられる。


 しかし、幸太郎の体は地面へ落ちなかった。


「先輩!」


 京香が両腕を広げて幸太郎を抱き止めたからだ。


「あ、悪い」


「喋らなくて良い! お願いだから横に成って!」


「はは、泣き出しそうじゃねえか」


「うるさい!」


 血で汚れるのも厭わず、京香は幸太郎の体を支えようと力を込めていた。


 零距離に成った京香との距離。


――昔はあんなに小さかったのに。


 幸太郎は改めて京香が少女から大人に成っていたのだと理解した。


「京香、お前に怪我は?」


「無いわよ! 全然無い! 先輩に比べたらなんでも無いわよ! えと、これはどうしたら、ああ、もう、包帯の一つでも無いの!?」


 京香の狼狽は激しい。これ程の大怪我をした姿を彼女に見せたのは初めてだった。


 心配をかけまいと幸太郎は努めてきた。京香はとても優しい。親の仇であるとしても心を砕いてしまうのだ。


 故に幸太郎は京香の前では怪我の姿をなるべく隠し続けていた。それが京香にとって苦痛であろうと分かっていたけれど、彼女の前では強い上森幸太郎のままで居たかったのだ。


 眼が霞む。血を流し過ぎたのだ。一刻も早く救護班に見てもらう必要があるだろう。


「どうしよう!? まずは止血!? あ、そうだチョウトッキュウは!? 先輩持っていたよね!?」


「ここに来る途中使っちまった」


「もう!」


「ははっ」


 無駄な血を流したからだろう。頭が妙にクリアだった。


 正直とても眠かった。さっさと横に成ってしまいたい程に疲れていた。


 だが、幸太郎はまだ眠れない。救護班が来るまでは意識を保つべきだろう。


 幸太郎は京香に抱き留められたまま、辺りを見た。


 戦闘の形跡があちこちに残っている。あの実力のキョンシー使い二組相手にして良く戦った物だ。


 正直ギリギリだった。キョンシーへの単独突撃は何度もした事があったが、その中でもトップクラスにキツい相手だった。


――ああ、そうだ。


 幸太郎は一つやり忘れに気付いた。


 地面にはまだアカズキンが転がっている。ピクピクと体は痙攣しているが、完全に壊しておいた方が安全だろう。


 幸太郎は動こうとして、京香の腕に止められた。


「……ライデン、そこのキョンシーを壊しておけ。今度は完全にだ」


 ライデンは命令に従い、アカズキンへと近づく。今度こそ零距離でエレクトロキネシスを放つのだろう。


「動いちゃ駄目! 大怪我してるのよ!」


 過剰とも思える京香の心配。しかし、痛みが無い自分だからそう感じるだけで、きっと傷の具合に対しての反応は京香の方が正しいのだと幸太郎は思った。


――大丈夫だ。


 幸太郎は京香を安心させるため、そう声を掛けようとした。




 死の直感が幸太郎の全身を襲った。




 バァン!


 アカズキンの腹が敗れた!


「!!」


 その奥に幸太郎は見る。アカズキンの腹の奥、様々な銃の向こう側、そこには脳が埋まっていた。


――そっちに脳があったのか!


 脳は明らかに通常の物より肥大化している。そのあちらこちらかはコードが突き刺さり、銃へと繋がっている。


「ライデン早く破壊しろ!」


 バチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチ!


 ライデンがアカズキンへ白雷を放った刹那。


「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン」


 アカズキンが大きく喉を鳴らし、腹に収まった全ての銃がその全ての銃弾を発射した!


 バババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババン!


 銃口は全てデタラメな方向を向いていて、放たれた銃弾全てがデタラメなハーモキネシスが纏っている。


 狂弾。弾丸が何処へ向かうのか幸太郎には分からない。


 刹那よりも短い時間。故に、幸太郎がした行動に思考は追い付いていなかった。


「京香!」


 全力で幸太郎は京香を抱き締めた。


 残った力を全て使って、京香の全身を隠す様に幸太郎は地面へと倒れ込む。


「先輩!?」


 京香の声が首の近くから聞こえる。


 カカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカ!


 狂った跳弾の音が響き、大量の跳弾が幸太郎の全身へと突き刺さる。


 残っていた無事な骨が砕けていく。


 壊れかけのテンダースーツが壊れていく。


 それでも幸太郎は腕の力を緩めない。


「先輩、先輩、先輩!」


 京香の声が聞こえる。離してともがいている。


 それを幸太郎は黙殺した。何があってもこの少女を、大人に成った彼女を守るのだ。


 カカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカ!


 骨が致命的に砕け、テンダースーツが完全に破れ、




 そして、上森幸太郎は自分の心臓が破れる音を聞いた。

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