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⑦ アカズキン

 ゴジョウが地面に転がったゴクウと、首元が半壊したハッカイへ視線を投げる。


「不知火あかね、か。強いとは聞いてたが、ここまでとは思わなかったぜ」


 困った様にゴジョウが息を吐いた。ゴクウは破壊され、ハッカイは片腕が切り落とされている。


 対して、ヤマダ達はほとんど無傷だった。


 戦況は完全にこちらへと傾いている。


 故に不気味だった。


 ジリジリジリジリ。


 ヤマダはラプラスの瞳のダイヤルを回し、ゴジョウへとフォーカスする。


「アカネ、何かを隠してマス」


 男の呼吸や筋肉の収縮には何の異常も見られなかった。もう少しで自分が死ぬという状況にも関わらずだ。


「……そうだね」


 あかねもゴジョウの態度の違和感に気付いた様だ。


 一切の油断なく、あかねはゴジョウから眼を離さず、周囲へと警戒態勢を取っていた。


「ねえ、何を隠してるの?」


「バレるか。そうだよな、そっちにはそこのヤマダが居るんだよな。この距離でも隠し事は難しいか」


「私達のことを良く調べてあるみたいだね」


「当たり前だろう? 清金京香を持って来いって言われたんだ。最低限の準備はするさ」


 ヤマダは周囲へ意識を向ける。


――何か違和感は?


 ラプラスの瞳ならば眼に見えた違和感ならば見抜ける筈だ。


「上森幸太郎が居ない、今日この日を狙ったんだけどな。まさか不知火あかねがこんなに強いなんて予想外だよ」


「へぇ。何処からコウちゃんが居ないって情報を聞いたのかな? 私達の組織に裏切り者が居るなんて思いたくないんだけど」


「ほざくじゃないか、拷問姫。裏切り者って言葉、お前が一番良く知っているじゃないか」


「その名前は止めて。あんまり好きじゃないの。可愛くないからね」


 過去に着けられた二つ名で呼ばれ、あかねが嫌な顔をした。


「敵と無駄口を叩きたくないの。隠し事を言う気が無いなら、さっさと死んで」


 これ以上の会話は無駄だと判断したのだろう。


 ゴジョウが何を隠しているのかは現時点でも不明。何か逆転の札を持っているのかもしれない。けれども、このまま無駄口に付き合い続けるのもリスクがある。


 本部からの救援部隊が到着するまでに敵がアクションを起こさないとも限らないからだ。


 速やかにゴジョウを殺し、または撃退するのが吉だと、あかねは決めたのだ。


「フレデリカ」


「おーほっほっほっほ! ええ、豚はフレデリカ様が担当してあげるわ!」


 あかねはフレデリカが踏み出し、ゴジョウと距離を詰めていく。


 その瞬間、ゴジョウが大きく笑い手を上げた。


()()()()()!」


 カンカンカンカンカンカンカンカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカ!


 硬い〝ナニカ〟が跳ねる音がした。


――ナニカが向かって来ている!


 ジリジリジリジリジリジリジリジリ!


 ダイヤルの調整が間に合わない。今のラプラスの瞳では影を捉えられなかった。


「あかねさん!」


 一番最初に気付いたのは京香で、すぐさま彼女は飛び出してあかねへと砂鉄を伸ばす。


 ジャリジャリジャリジャリジャリジャリ!


 果たして、京香の砂鉄は()()間に合った。


 京香の砂鉄は確かにあかねへと伸びた。だが、磁力による硬化は間に合っていない。


 バジャアリ!


 砂鉄の膜は破られ、ナニカがあかねの左肩を貫いた!


「くっ!」


 バチャバチャバチャバチャ! 雨で出来た水溜まりへとあかねが転がり、フレデリカが背後に彼女を隠す。


「あかねさん!」


 京香があかねのすぐ傍へと飛び、ヤマダもそこに続く。


 あかねの肩は砕け、肉が露出していた。テンダースーツでも吸収しきれない程の衝撃を受けたのだ。


「あかねさんっ!」


「すぐに、治療しマス」


 ヤマダは小物カバンから補肉材スプレーを取り出し、ブジュウウウ! とあかねの肩へと吹き付けた。


 空気に晒された肉と骨が一次的にキョンシー用の補肉で埋まる。簡易的な止血処理だ。


 続いてヤマダは注射器を取り出し、緊急用麻酔薬を注射した。


「…………はぁ。ありがとう、二人とも。これなら立てそう」


 左肩から激しい鈍痛に襲われているはずだが、あかねはトレーシーを右手で握ったまま立ち上がった。


「はっ。不知火あかね、やっぱりお前は強い。咄嗟に自分で背後に倒れたな? じゃなきゃ腕が千切れてたぜ」


「京香ちゃんのお陰だよ。砂鉄で軌道がズレたの。じゃなきゃ、胸をやられてた」


 あかねが視線を動かし、自分を貫いたナニカを見た。


 そこにあったのは血塗れのライフル弾。ヤマダはそのライフル弾の至る所に大小様々な凹凸が生まれている事に気付いた。


 ラプラスの瞳からヤマダは逆算する。


「……跳弾、デスカ」


「正解だよ、嬢ちゃん。さすが、良い目をしてるね」


 しわがれた声がライフル弾の飛んで来た闇の中から響いた。


 カツ―ン。カツ―ン。カツ―ン。


 硬い足音と共に現れたのは、赤い義足の老婆と赤いフードを被ったオオカミの顔をしたキョンシーだった。


「おお、カーレン。あんたが前に出て来るとは珍しいじゃないか」


「私も踊ろうかと思ってね」


――新手ですか。


 救援が来るまでまだ時間はあった。


 あかねは負傷し、敵の数は増えた。勝率を現時点では計算できない。


「そこのメイド服の嬢ちゃん、良く跳弾だって見抜けたね? 初見で見抜かれたのは初めてだよ」


「お褒めに預かり光栄デス」


「それにそっちの砂鉄の嬢ちゃんもだ。心臓を撃ち抜くはずだったのに邪魔されちまったよ。これが世界唯一の生体サイキッカーの実力なんだねぇ」


「お前がっ!」


 京香はキッとカーレンと呼ばれた老婆を睨み付けた。


 グルグルグルグル!


 京香が鉄球を老婆へと撃ち出した。


 激情のままに撃ち出された鉄球は今までに無い程の速度を持ち、真っ直ぐに老婆の頭へと放たれる。


「防ぎな、アカズキン」


 だが、老婆は涼しい顔で傍らのキョンシーへと命令する。


 バァン!


 オオカミの腹が爆ぜ、そこからナニカが射出された!


 ラプラスの瞳の調整は終わっている。そのナニカは先程と同じライフル弾だ。


 文字通り腹から放たれたライフル弾は、京香の放った鉄球……ではなく地面と向かう。


 カンカンカン!


 その瞬間、跳弾が起きた。


 PSIに依るものだろう。地面に当たる直前、ライフル弾が不自然に振動し、通常では考えられない筈のバウンド軌道を描いたのだ。


 鉄球が老婆の顔面に届く直前、ライフル弾がその側面へ撃ち込まれる!

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