② はい、チーズ!
*
「「かんぱーい、アンド、ハッピーバースデー!」」
幸太郎とあかねの掛け声に第六課の面々が各々コップを掲げた。勿論今日の主役の京香もである。
コクリと幸太郎は口の中に酒を含んだ。アルコールが多分に混じった強烈な風味が口から鼻へと突き抜ける。
そして、喉を鳴らし、胃へと酒を嚥下した。喉と胃へアルコールが掛かり、カーッと体が熱くなった。
「……」
そんな幸太郎を見て、京香が手元のお猪口に入れられた酒を見つめる。
いざ初飲酒へ。不安と期待が入り混じった眼をしていた。
――変に止めたら一気飲みしちまいそうだな。
ゆっくり飲め、きつかったら吐き出しとけ、何ならサイダーとかで割っても良い。そんな順当なアドバイスを幸太郎はしてやりたかった。だが、どうやら京香は自分と同じ飲み方に拘っている様だ。
京香以外の全員が何だかんだコップの酒(又はジュース)を一口二口飲み終わり、それぞれが何と無しに京香を見つめている。
「……いくわ」
踏ん切りをつけるため、京香が誰に聞かせるでもなく宣言する。
そして一息にお猪口を呷った。
「――」
カッと眼を見開き、京香の体が固まる。まだ喉は動いておらず、酒は嚥下していない。
ふむ、と幸太郎達はしばし京香の初飲酒を見守る。
吐き出すか、噴き出すか、飲み込むか。
果たして京香が選んだのは飲み込むことだった。
ゴクリ、と喉が動き、ほとんど無理やりの動きで京香が酒を飲み込んだ。
「――カハァ!」
京香が喉の奥から絞り出す様な掠れた声を出した。
「ほら、京香ちゃん、お水飲んで」
あかねが用意していた水を差し出し、ノールックで京香はそれを受け取り、一息に飲み干した。
ゴクゴクゴクゴク、プハァ!
「喉が焼けるわ! 何これ!? 人間が飲んで良いやつなの!?」
「ハッハッハ! 吐き出さないだけ上等だな!」
口元を押さえて呻く京香に幸太郎は手を叩いた。
パーティーは続く。
ケーキ、ケータリングした唐揚げやフライドポテト、サラダや良く分からないスープ。それらは順調に数と量を減らしていく。
京香はあかねや隆一、マイケル達の酒をチビチビと飲み、結局最後には幸太郎の酒を飲んでいた。
一口含み顔を顰め、明らかに無理をした表情で幸太郎と同じ酒を飲み続ける。
幸太郎はその様子を笑いながら見て、酒に合う肴を後輩へと勧めた。
一気飲みするぜ! と言い出した隆一へ唐揚げを頬張るマイケルがビールを注いだり。
いつもと変わらず紅茶を飲むヤマダがひょいひょいとサラダやケーキを摘み、あおいがそれに付き合ったり。
塩辛かったり、酸っぱい物が合うと言った幸太郎に、あかねが「いやー、甘いのも合うよ。ほらケーキと一緒に飲んでみて?」と勧め、いざ実践した京香が物凄く複雑な顔をしたり。
楽しい時間が続いた。
どうやら京香はそれなりに酒に強い方らしく、酔いが回るほど酒を飲めるタイプの様だった。
幸太郎も久しぶりに肩の力を抜いていた。ここはハカモリのビル。攻め込んでくる馬鹿は居ない。攻め込まれたとしても第一課の壁を越えられない。
――ああ、浮かれてんなぁ。
酔いが回ってきて、幸太郎は今自分がとても嬉しい感情に支配されていると分かった。
「せんぱい! もう一杯!」
「マジで? 良いよ、限界の向こう側までいってみ?」
いつの間にかお猪口から普通のコップに器を変えた京香がややグルグルとし始めた眼で幸太郎から酒を貰い、コクコクと飲む。
――こりゃ潰れるな。
初めてでしかも幸太郎好みの度数高めの酒。ほぼ間違いなく京香のアルコール許容量は限界を迎えるだろう。
最初の内に、誰かが見ている内に限界を知るのは良いことだ。それに酔った京香は楽しそうな顔をしている。
「あおい~! あおいも一緒に飲もうよ~!」
「無理無理無理! そんなエグいの私飲めないよ!」
……やや酒乱気味だが、ご愛嬌だ。
「コウちゃんコウちゃん。今の内に写真撮っとこうよ。そろそろ京香ちゃん潰れるだろうし」
「そだな」
ちょんちょん。あかねが幸太郎の肩をつつき、確かにと幸太郎は頷いた。
今の内に楽し気な写真を撮っておくことにした。
持って来ておいた三脚台付きのカメラを部屋の入口の方へセットし、ファインダーを覗いて角度を調整した。
――良し。良い感じ。
部屋の奥では隆一とマイケルがふらふらになりながら一気飲み対決を続け、京香があおいに抱き着きながら酒を飲み、ヤマダが済ました顔でセバスから小皿を受け取り、あかねがそんな全員を見守っている。そして、彼ら彼女らを囲む様に各々のキョンシー達が好き勝手に過ごしていた。
「おーい写真撮るぞー、こっち見ろー」
幸太郎の言葉に全員が一斉にこちらを見る。
カメラのタイマーボタンを押して幸太郎が元居た席へと戻った。
「ピースしましょピース!」
「オッケー」
京香が笑いながらカメラへとピースサインを向け、それに他の全員が倣う。
カメラのタイマーは十秒かそれくらい。
サワリ。幸太郎へとあかねが腕を絡める。
「ん?」
「ま、偶には、ね?」
「そうだな」
ハハハ! 幸太郎は珍しく何も考えずにただ笑った。
楽しくて嬉しくて、だから、笑った。
パシャリ!
そして、カメラのライトが光った。




