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① ハッピーバースデー

 ぽつぽつと雲がある梅雨前の夜空。そこには満月が高く上がっていた。


「いやぁ、仕事した仕事した」


「楽勝だったわね」


 太陽が沈み、幸太郎は京香とライデンを連れてキョンシー犯罪対策局のビルへと入った


 つい先ほど幸太郎達は偶然見つけた素体狩り犯を撲滅したのだ。


「追いかけるのは面倒だったな。まさか車に乗り込まれるとは」


「結構なドライビングテクニックだったわね。ライデンじゃなきゃ追い付けなかったわ」


 本当ならば幸太郎達はもっと早く第六課のオフィスへと帰っている予定だった。


 今日は京香の誕生日パーティーなのである。


 テクテクとエレベーターへと歩き、ボタンを押し、カゴが到着するのを待つ。


 その間、第六課のメッセージアプリを見ると、あかねから連絡が来ていた。


「もう準備万端で待ってるってよ」


「やった」


 あかねからのメッセージを幸太郎は京香へと見せる。そこには飾り付けされたパーティー仕様の第六課オフィスの写真が添付されていた。


「……ケーキでかくない?」


「そりゃそうだ。一番大きいやつ注文したんだから」


 中央にドーンと置かれたショートケーキへ京香が眉を上げる。


 チーン。到着したエレベーターに乗り込み、慣れた様子で京香が六階のボタンを押す。


「へー、楽しみ」


「だろ?」


「お酒は?」


「バッチリ準備してあるぜ。忘れられないアルコールデビューにしてやるさ」


 オフィスの冷蔵庫には酒をしこたま入れてあった。今日は酒盛りに成るだろう。


 僅かな加速度と共にカゴは上昇を始めた。


「ちゃんと泊まりの道具は持って来てるよな?」


「今朝置いておいたわ」


「素晴らしい」


 第六課で酒が飲めるのは、幸太郎、あかね、隆一、マイケル。四人で偶に飲み会をしていた。


 シカバネ町で夜遅くまで開いている居酒屋は無い。アルコールに浮かれた頭で出歩くなど自殺行為に等しいからだ。


 故に飲み会をする時は宿泊可能な安全な場所で行われる。第六課のオフィスは丁度良くその要件を満たしていた。


「いやぁ、お前は酔うとどうなるんだろうな? 結構楽しみだぜ俺は」


「はいはい、アタシも初めてのお酒に期待で胸が一杯だわ」


 幸太郎は京香と酒が飲めるこの日をかなり楽しみにしていた。


 京香が二十歳、日本において成人、大人と呼べる年に成れた事実が嬉しくてしょうがないのだ。


 チーン。気味の良い音を立てて目的の階に到着する。


 そのまま数十秒も経たない内に幸太郎と京香、そしてライデンは第六課のオフィスドアの前に到着した。


 けれども、何故か京香は足を止め、ジッとドアを見つめていた。


「……」


「どうした? 開けねえのか?」


「いや、開けるわ」


 京香はドアを開け、その瞬間ピョンと右に引っ張った。


 何故か左隣の幸太郎の袖を持って。


「ん?」


 引っ張られ僅かに体制を崩した幸太郎の頭に疑問符が浮かぶ。


 眼前、すなわち開け放たれた第六課のオフィスドアの前では、あかねを中心とした残りの第六課メンバーと京香の親友のあおいが特大クラッカーをこちらへ向けていた。


 即座に幸太郎は自分を襲う未来を看破する。


「やりやがったな!?」


「ファイア!」


 京香の号令と共に、クラッカーが鳴らされる!


 バアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!


 バアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!


 バアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!


 バアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!


 バアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!


 バアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!


 バアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!


 バアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!


 バアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!


 強烈な火薬の音が鳴り、飛び出した飾りが幸太郎の腹を直撃する。


「グハァ!?」


 見事にくの字に曲がった幸太郎の体はゴロンゴロンと後方へと吹っ飛び、飾りを巻き込んで地面へと倒れる。


「アーハッハッハッハ! どうよ、いつまでもやられっぱなしじゃないわ!」


 いつかの仕返し、してやったり。京香はとても楽しそうに高笑いを上げ、幸太郎へと歩み寄る。


 その様子を引っくり返ったまま見て幸太郎は「くそ、やられた!」と悪態を付いた。


「ほらほらほら! このアタシに言うことがあるでしょ? 言ってみなさいよ」


 ニヤッとした京香の笑みが瞳に映る。


 それに苦笑しながら幸太郎は言うべき言葉を口にした。


「ハッピーバースデー、京香」


「ん、ありがとう、先輩」

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