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アンバランス

 パサリ。恭介は一度報告書をテーブルに置いた。


 捲り続けた報告書は薄くなっている。


 フレームレスを一度外し、恭介は眉根を一度揉む。とうの昔に深夜を超え、眼と体が疲れていたのだ。


 だが、眠気は欠片として来ていなかった。


「……これは、本当に清金先輩ですか?」


 恭介は釈然としない顔で報告書を見つめた。


 報告書に記述される清金京香。彼女の姿が恭介には信じられなかった。


 第六課に入る前、すなわちアリシア率いる第二課に入ったばかりの頃、又聞きで恭介は清金京香の存在を知っていた。


 曰く、世界で唯一の生体サイキッカー。


 曰く、キョンシーを撲滅する人類最強。


 清金の実力は恭介の想像以上の物だった。並みいるキョンシーをまるで人形の様に振り払い、マグネトロキネシスで破壊していくその様は人間技ではない。


――見方を間違えていたのか?


 最凶最悪の第六課を率いる女。そもそも会う前から色眼鏡を掛けていたのだ。


 人外染みた清金の姿を恭介は彼女の内面だと勘違いしていたのかもしれない。


「信じられない。清金先輩がこんな、こんな……」


 恭介の中で清金京香のイメージがボロボロと崩れていく。


 報告書の中の京香は数年前という事を差し引いても、あまりに不安定な人間だった。


 恭介は上手く言語化できないでいた。この報告書と霊幻達から語られる清金京香がどの様なことを上森幸太郎へ望んでいたのか、何故その様に成ってしまっているのか、そう言う部分が良く分からないでいたのだ。


 ビールを更に一口に口に含む。温くなり炭酸が抜けた黄色い液体はのど越しも無くただ苦いだけだ。


 フワフワとグラグラとアルコールが脳を溶かす。その中で恭介は霊幻達を見た。


「……何かこの報告書に書いていない情報は無い?」


「ほう! どうしてそう思うのだ?」


 興味深そうに霊幻が眉を上げた。急な質問だと言うのに、奥に居るヤマダとマイケルは何処か嬉し気な顔をしている。


「清金先輩と上森幸太郎の関係がどうしても分からないんだよ。うん、確かに上森幸太郎が清金先輩を保護しているのは分かる。それは良い。でも、どうしてこの二人がこんな不安定で……気持ち悪い距離感なのかが分からないんだ」


「ハハハハハハハハハハ! やはり恭介お前は素晴らしい! 人間に眼を向けている! 今吾輩に腕があれば抱擁してやりたいくらいだ!」


 ガンガンと霊幻の笑い声が恭介の頭に響いた。酔っているのだろう。これだけ遅くまで酒を飲むのは学生時代以来だ。


「そうだな。まずは謝罪する。すまん、確かに吾輩は全ての情報をお前には話していなかった。必須の情報では無かったし、これを伝えると無駄な先入観をお前に与えると考えたのだ」


「必要かどうかは聞いてから決める。教えろ霊幻、清金先輩と上森幸太郎の関係を」


 そう言って霊幻は記録を再生する様に眼を細めた。


「一言で説明は難しいのだ。吾輩がいくら計算しようとも適切な言葉は出力できない。故に確定した情報を話そう」


 一拍の間を置いて霊幻が口を開いた。


「上森幸太郎は京香の〝仇〟なのだ」


「……仇?」


「京香の箱庭と家族を撲滅したのが吾輩の生前だ。京香はきっと上森幸太郎を殺したいほどに憎んでいただろう」


 恭介は頭の中で情報を整理する。アリシアから清金京香は清金カナエを母に持ち、この母親によって人里離れた場所で監禁される様に暮らしていたと聞いていた。そして、ハカモリによって掃討作戦が行われ、京香だけが生存したとも。


「その掃討作戦には上森幸太郎も参加していたのだ。両親と言う京香を見つけてな。上森幸太郎は両親を撲滅し、京香を拾ったのだ」


 成る程、確かに上森幸太郎は京香の両親の仇という事に成る。


「え、待ってくれ。じゃあ、清金先輩は、両親の仇と五年間も一緒に暮らしていたのか? 二人きりで?」


「そうだ。それ以外に京香が生きる術は無かったのだ」


 恭介の頭に大量の疑問符が浮かんだ。両親の仇で、自分の保護役で、先輩、清金と上森幸太郎の一言では言い表せない。それは理解できた。


 だが、報告書の中で清金が上森幸太郎へ向けている視線は明らかに悪意でも殺意でも憎悪でも無かった。


「色々あったのデスヨ。コウタロウは何度もキョウカの命を救いマシタ」


「ありゃ献身って言葉に言い換えても良かったかもなぁ」


 ヤマダとマイケルが顔に浮かんでいた恭介の疑問へ口を挟んだ。


「これは今はあまり考えなくて良いことみたいですね」


「お前がそう判断するなら吾輩は尊重するぞ!」


 清金と上森幸太郎のバックグラウンドはある程度分かった。その上で恭介は思考する。


 この不安定な少女がたった数年で如何にして今の様な清金京香の姿に成ったのだろう。成れたのだろう。


――人はそう簡単に変わらない。


 恭介は改めて報告書を手に持ち、次のページを開いた。


「……清金京香、二十歳の誕生日会?」


 急に出てきたファンシーなフレーズ。そのページにはパーティーでワイワイと騒ぐ過去の第六課の写真が貼られていた。

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