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④ 紫紺の拳

 幸太郎は自分に出来ることと出来ないことの線引きをハッキリとさせる。故に幸太郎直々にスカウトして集めた第六課のメンバーは皆幸太郎が出来ないことのスペシャリストである。


 ヤマダはその中でも最たる例だ。圧倒的な計算と解析速度。ラプラスの瞳を用いた超高精度な予測。成功率を計算させたならこの少女の右に出る者は居ない。


 ギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイン!


「さあテディ進みなさい! 敵まで後少しだわ!」


 アイアンテディが爪を振るい、その度に敵のサイコキネシスが引き千切られる。


 フレデリカのサイコキネシスを敵のPSIでは止められない。歩く様なペースで幸太郎達は敵へと近づいていく。


「燃やせ燃やせ燃やせ!」


 ボオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!


 パイロキネシスの出力が高まる。アイアンテディは赤くなり、空気は熱せられ、まともに吸えば喉と肺を焼くだろう。


「コウちゃん、口を押さえて。絶対に直接空気を吸わないで」


「分かった」


 あかねに言われ、幸太郎はテンダーコートの左襟元で口元を押さえた。痛みを感じない幸太郎にとって、普通に行動したら致命傷になる状況が最も危うい。


 ジュウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ!


 フレデリカが焼ける音がする。人工血液が蒸発し、鉄の匂いが漂った。


「オーホッホッホッホ!」


 けれども、フレデリカは高笑いを止まらない。それはおそらく幸太郎達を信じているからだ。


 ボオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!


 敵の炎は途切れない。眼球の水分が蒸発していく。


 幸太郎は眼を閉じない。タイミングを逃してはならない。ここで間違えたら自分だけではない。あかねもヤマダも死んでしまう。


 そして、数秒の間を持ってヤマダが号令した。


「Gо!」


 貯めていた足を幸太郎は爆発させる。


「ライデン、サイコキネシスを止めろ!」


 ライデンへ指示を出し、幸太郎がアイアンテディの右側から飛び出した。


 正にその瞬間、敵のパイロキネシスが発動を止めた!


――流石だヤマダ!


 声を幸太郎は出さない。パイロキネシスを浴び続けていた空間。一息で肺が駄目になるのは眼に見えていた。


「ちっ!」


 敵のキョンシー使い達は手練れだった。舌打ちをしながらもすぐさま懐から銃を取り出し、幸太郎へと向ける。その傍らでは敵パイロキネシストが頭を押さえてクールダウンしている。パイロキネシスの連続使用に一瞬の休憩が挟まれたのだ。


――ここで決める!


 直感が幸太郎へと告げる。敵パイロキネシストは直ぐにでも復活するだろう。


 幸太郎もまた左手を腰に入れ、ホルスターから拳銃を取り出し、敵キョンシー使いへと向けた。


 バンバンバン、バンバンバン!


 銃弾が交差する。その内の一発がテンダーコートを介して幸太郎の腹へ突き刺さった。


 腹の肉が僅かに破けたのが幸太郎には分かる。


 問題ない。今この時目の前の敵への突撃に支障など何も無かった。


「ぐっ!」


 幸太郎の銃弾がキョンシー使いの左肩を捉えた。防弾チョッキを着ていたのだろう。出血は無い。だが、わずかに体が傾いた。


 敵が体勢を立て直すわずかな時間。一、二、三、鉄板入りの靴がガンガンガンと床を叩き、敵キョンシーへと拳が届く距離にまで幸太郎とライデンが接近した。


「燃やせぇ!」


 幸太郎は敵キョンシー、パイロキネシストのクールダウンが終了する。


 見開かれたキョンシーの瞳と幸太郎の瞳が合った。


 ボオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!


 パイロキネシスが幸太郎の体を包み込む!


 テンダーコート越しに体が焼けていく。筋肉が引き攣るのが幸太郎には分かった。


 けれども、そこに痛みは無い。なら戦える。


 炎で染まった視界の中、幸太郎は割らんばかりに足を踏み出した!


 放たれるは紫紺の拳。質量を持たない炎では止められない。


 ドグシャア!


 突き刺さった鉄拳。その威力は朝の訓練で京香へ放っていた物とは比べ物にならない。


 拳に、それを包むスタンナックルに駆け巡り、衝撃に比例した電流がパイロキネシストへと流れ込む!


 バリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリ!


 それは正に雷撃だ。パイロキネシストの蘇生符は大電流に破壊され、その奥の脳にさえ致命的な損傷を与える。


 PSI力場は消失し、幸太郎を包んだ炎も消え去った。


「っ!」


 それでも敵キョンシー使いは一流だった。あきらめず、幸太郎へと銃口を向ける。


 一足の距離、銃口は幸太郎の額を狙っていた。


 バン!


 だが、銃弾は幸太郎へ当たらない。体ごと首を下へ落とすことで避けたのだ。


 そして、幸太郎はキョンシー使いを見もせずに左手の銃口を向けた。


 バン!


 寸分たがわぬヘッドショット! 脳漿と血が噴き出し、幸太郎へと掛かった。


「フレデリカ!」


「オーホッホッホッホ! 任せなさい! テディで潰してあげる!」


 瞬間、幸太郎の脇をアイアンテディが驀進する。サイコキネシスの拘束が解かれたのだ。


 グシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!


 人間とキョンシーが引き潰される、水っぽい音がした。

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