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② ホームランバッター







 深夜零時。幸太郎、あかね、隆一、ヤマダ、及びそのキョンシー達は五階建てのビルを見上げていた。


「良くこんなビルを借りれたな。監査をどう潜り抜けたのかね」


 シカバネ町北西。あかねが吐かせた情報通り、このビルは素体狩りの中規模組織の隠れ家だった。


「ヤマダ、第一課と第二課との連携は取れているか?」


「えエ。周囲百メートルを囲んでいマス」


「素晴らしい。んじゃ、遠慮なく戦えるわけだ」


 ビルには明かりがぽつぽつと灯っている。娯楽施設の激戦区である北区ではそう珍しくもない光景だ。


 だが、幸太郎達は知っている。このビルの中には攫われた住民が何十人も居て、彼ら彼女らを攫った素体狩り達が活動しているのだ。


「住民達は生きてると思うか?」


「生きてるはずが無いだろうな。全員バラされてクーラーボックスで冷やされてるだろうさ」


 幸太郎の僅かな期待を隆一が一蹴する。


――そりゃそうか。


 幸太郎は額を叩く。コンパクトにして持ち運んだ方がリスクは低い。当たり前の話だ。


「こんなビルを借りてるくらいだから、流通ルートも確保済みなんだろうね」


 あかねがトレーシーの銃身を撫でながら、前提条件の確認をしていく。


 ビル一棟を借りて素体狩りを行うくらいだ。輸出ルートが既に構築済みなのは間違いない。今頃、第一課と第二課で調べているはずである。


「そっちを撲滅するのは今回無理だ。外に逃げる相手を追いかける足が俺達には無い」


「分かってる、コウちゃん。まずは大本を潰そ」


「ああ」


 ジジっと耳に付けていたイヤホンからマイケルの声が鳴った。


『こっちはスタンバイオッケーだぜー。ライデン、フレデリカ、アレックス、トオル、セバスチャン、全員脳波と身体機能に異常無しだ』


「了解。そのままモニターを続けてくれ」


 後方支援(マイケル)も準備が終わった。


 最終確認として、幸太郎は隆一へと声を掛けた。


「隆一さん、ビルの中は? こっちの様子に気付いてますか?」


「今調べる。トオル、確認しろ」


「オッケー」


 既に隆一は分かっていたのだろう。トオルは一歩前に踏み出し、そのPSIを発動させた。


 トオルのPSIはクレアボラス、透視能力だ。ありとあらゆる障壁はこのキョンシーの前では隠れ蓑には成らない。


 蘇生符が淡く白く光り、すぐにその発動は止まった。


「うん。こっちに気づいてるね。壁や扉の前で待ち構えてるよ」


「それだけ分かれば充分だ」


 幸太郎は部下達へ目を向ける。この場に居るのはシカバネ町の最高戦力だ。


 故に幸太郎は短く告げた。


「んじゃ、行くか」







「アレックス、行くぞ!」


 一番槍を引き受けたのは隆一とアレックス、そして、トオルだった。


 アレックスはその巨体でビルの正面入口へと突撃する。その腕には鋼鉄製釘バットが握られ、ブオンブオンと音を振り回していた。


「ホオオオオオオオオオオオムラアアアアアアアアアアアンン!」


 鋼鉄バットが固く閉じられた扉へと振り下ろされる!


 ドアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!


 強烈な破砕音が響き、アレックスの一撃はコンクリート製の壁ごと正面入り口が破壊した!


 刹那、ビルが四方から光で照らされる。第一課と第二課が配置したライトが作動したのだ。


 光の中心の中で一番目立っていたのはアレックスだった。


 それはまるでナイター照明。


 今この時、この場の主役は第六課のエーススラッガーだった。


 グチャリ。アレックスの足が赤黒い何かを踏み締めた。壁側に立って居た見張りの人間だろう。その体は既に挽き肉と化している。


 その前方から複数のキョンシーと拳銃を持った人間達が現れた!


「はっははははは! さあ来いお前ら全員星まで飛ばしてやるよ!」


 破壊された正面玄関の前でアレックスがバットを振る。


 バンバンバンバン! 拳銃の音が鳴り、弾丸がアレックスへと放たれた。


 だが、生半可な弾などアレックスには意味が無い。


「大砲でも持って来るんだな!」


 アレックスはPSIを持たない。だが、マイケルによって施された身体改造は世界でも随一である。表皮は多層構造な金属で覆われ、内臓もほぼ全て歯車に置き換わっている。圧倒的な身体能力。下手なPSI持ちキョンシーよりも高い戦闘能力をこのキョンシーは持っていた。


「ホームランホームランホオオオオオオオムラアアアアアアアアンン! そんな止まった球じゃぬる過ぎるぜ!」


 アレックスがバットを振るう。その度に人間とキョンシーの体がグチャリグチャリと壁や天井へと叩き付けられた。


「複数で行け!」


 敵のキョンシー使いが指示を出し、四体のキョンシーが左右からアレックスを狙う。


 だが、その攻撃を止めたのは隆一だった。


 左方から向かって来る一体のキョンシーの前へ隆一がその体を潜り込ませる!


「は!?」


 間抜けな声がキョンシー使いから響いた。バンバンバン! と銃声は成り続いている。


 銃弾は確かに隆一の胴へと当たった。だが、テンダーコートの衝撃拡散性の前に命を奪うのには至らない。


 結果、隆一の両腕がキョンシーの襟元と肘を掴んだ。


「ハッ!」


 一拍の気合。隆一は体を回転させ、突進するキョンシーの勢いをそのまま投げ技へと変換する!


 一本背負いに似た軌道を見せながら、人より遥かに重い改造キョンシーの体が宙を舞った!


 投げ飛ばされたキョンシーは左方から来たもう一体のキョンシーと激突する!


「ダブルプレーナイス!」


 グシャグシャリ! 右側からの二体のキョンシーを破壊したアレックスのバットがそのまま地面へと転がったもう二体のキョンシーを破壊する。


「クソ!」


 バンバンバンバンバンバン! 放たれた弾丸へ、アレックスはバットを振り回し、、隆一は腕を顔の前で交差させ、そしてトオルはその後ろに控えながら突撃する。


「撃て!」


 一階に来たキョンシーの数は残り五体。内一体の蘇生符が光輝いた。


 キイイイイイイイいいイイイイイイイイイイイイイイイイイイイん!


 テレキネシス特有の空間が軋む音が鳴り、アレックスと隆一へ力球が連射される!


「アレックス!」


「打ち返してやるよ!」


 阿吽の呼吸。隆一がアレックスの背後に隠れ、アレックスがバットを振るい、放たれた力球を打ち返した。


 カキンカキンカキンカキンカキンカキンカキンカキンカキンカキンカキーン!


 バットに弾かれた力球は天井や壁と落ち、そこに貼り付いていた肉片を細切れにする。


 キイイイイイイイいいイイイイイイイイイイイイイイイイイイイん!


 キイイイイイイイいいイイイイイイイイイイイイイイイイイイイん!


 キイイイイイイイいいイイイイイイイイイイイイイイイイイイイん!


 キイイイイイイイいいイイイイイイイイイイイイイイイイイイイん!


 キイイイイイイイいいイイイイイイイイイイイイイイイイイイイん!


 力球の連射は止まらず、アレックスのバットも止まらなかった。


 けれど、打球の軌跡は変わっていく。何故なら、ここにはトオルも居た。


 トオルの蘇生符が輝き、クレアボラスが発動する。


「右、下、右、左、上、上、上、下、右、左、左」


 トオルの言葉通りのその場所へ力球が放たれる。まるでストライクゾーンの何処にボールが来るのか分かっているかの様だ。


 クレアボラス。透視能力の拡張。トオルは敵キョンシーの体内、僅かな筋繊維の歪みからどの位置へテレキネシスを放とうとしているのかを予測計算しているのだ。


 故に徐々に徐々にアレックスのバットが力球の芯を捉えていく。それはすなわち、真っ直ぐな打球線を描く事に他ならない。


「変化球を用意するんだったな!」


 その言葉が最後だった。


 アレックスが一際強くバットを振るった。


「!?」


 力球の軌道は真っ直ぐなピッチャーライナー。グラブを持たぬキョンシーが受け止められる物ではない。


 グチャアアアアアアアアアアアアア!


 力球はテレキネシストの頭、そしてすぐ傍で指示を出していたキョンシー使いの肩を捉え、肉と骨を一瞬でミンチにする。


「ホオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオムウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウラアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンンンンンンンンンンンン!」


 アレックスが咆哮する。会心の一打に絶頂しているのだ。


「まだだ!」


 けれど、敵は諦めない。残る四体の内の一体が今度はパイロキネシスを纏って発動しながら突進してくる。


 炎は熱く、先程の様に隆一が投げ飛ばす事は出来ない。


「ぶっ殺せ! 腕を止めるんだ!」


 残るキョンシー使い達は主戦力の一角なのだろう。連携の取れた動きでアレックス達を囲み始める。


「幸太郎、先に行け!」


「ああ!」


 だが、隆一は助けを求めず、幸太郎も頷いた。


 この程度の相手に隆一達が負けるはずが無い。


「フレデリカ、先頭は任せて良いか?」


「最強プリティなフレデリカ様に任せなさい!」


 アイアンテディに入ったフレデリカを戦闘に、幸太郎達は走り、二階へと続く階段を駆け上った。

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