PSIの出力
「え? 清金先輩が苦戦した? こんなスペックのキョンシー相手に?」
恭介は報告書に記載された情報に驚いた。
身体改造を施された鋼鉄製のキョンシー、そして、テレキネシストのキョンシー、高々二体。恭介の知る清金京香であれば難なく倒せるような敵だった。
少なくともこの鋼鉄製キョンシー相手であれば磁場で飛ばすなり、潰すなり、取り得る選択肢は無数にある。
にも関わらず、報告書の中で京香は防戦一方だった。途中途中で攻撃を放ち、テレキネシストの首を胴から落としただけ。
「ハハハハハハ! そうだろうそうだろう! この時の京香は今とは比べ物にならない程に弱かったのだ! 操れる鉄球と砂鉄の量は今の半分程度、操作性も劣っている!」
「いやぁ、あの戦闘は今でも覚えてるぜ? グルングルン体が回ってなー、何が何やら、視線を保つので精一杯。食ったピザを吐かなかったのは奇跡だったな」
マイケルがポン! と狸腹を叩き、ピザを口に含んだ。
「恭介様も一枚いかがですかな?」
「それじゃ、サラミのピザを」
シュワシュワ。恭介はセバスチャンからピザを一枚貰い、それをつまみにビールを飲んだ。
「この上森幸太郎って人、強過ぎじゃない? 何でキョンシー相手に、というか、PSI使える清金先輩相手に勝ってんの?」
「ハハハハハ! 生前の事とは言え、そう褒められると照れるな! そうだ、人間であった頃の吾輩は人類最強であった! 記憶領域に残る上森幸太郎の戦い方は対キョンシー戦における人間の極致であったな!」
「幸太郎の直感はほとんど未来予知でしたネ」
「確かに確かに! 一回本格的に対策局で調べたことがあったよな! 結局異常に勘が鋭いってだけになったんだけどよ!」
ヤマダとマイケルの思い出話を聞きながら恭介はペラペラとページを捲り、上森幸太郎についてまとめられたページを見た。
そこに居る男性の身長体重は恭介よりも幾分上、だが、鍛え上げた人間の範囲に身体機能のスペックは収まっている。
――こんな人間がどうやって清金先輩に勝ったんだ?
眉根を潜めた恭介に霊幻がハハハハハハハ! と笑う。
「どうやら疑問の様だな! この様な男がどうやって京香に勝ったのか!」
「まあ、ね。キョンシー相手に勝つってのもおかしいけど、清金先輩が負ける姿が想像できなくて」
「素晴らしい! 素晴らしい着眼点だぞ恭介! そうなのだ! 確かにこの時の京香は今よりも未熟であった! だが、それは決して清金京香の性能という意味では無いのだ! 何故、この様な簡単な答えを上森幸太郎が京香へ伝えられなかったのか、吾輩には分からん!」
――?
霊幻の思考は恭介には良く分からないし、この思考を分かろうとも思っていない。アルコールが入った頭ではそもそも考える気も特に無かった。
「どういう意味?」
「恭介、キョンシーのPSIの出力はどの様にして決まっているか知っているか?」
質問に質問で返され、恭介はしばし思い出す。
「出力は生まれた時にほとんど決まっているんだっけ? まあ、たまに変質した時は例外だけどさ」
「その通りだ。操作性は訓練であったり、脳の調整である程度は高められる。だがしかし、出力は天性の物なのだ。脳の調子によって僅かな変動はする。だが、出力の中央値と平均値はほぼ全ての場合で一致する。これがどういう意味であるか分かるか恭介?」
――酔った頭に質問しないで欲しいな。
そう思いながらも恭介はフレームレス眼鏡を整えて頭を回す。聞き方が回りくどいとしても霊幻が言いたい事はいつもシンプルだ。
「清金先輩が手を抜いていたってこと?」
鉄と鉄球の量が現在の半分程度であった理由が仮に操作性にあったとして、鋼鉄製キョンシーに力負けした理由はこれ以外考えられなかった。
恭介の脳裏に半日前に見たマグネトロキネシスの暴走が過ぎる。あの圧倒的な出力が本来の清金京香の物であると言うのだ。
「無自覚ではあったがな、吾輩の相棒はずっと自分のPSIに枷を掛けていたのだ。いや、今も掛けていると言って良い。この報告書の中で、京香の蘇生符についての記述が無いことには気付いていたか?」
「ええ、それは気に成っていました。どういうことです? 清金先輩のPSI使用にはあの専用蘇生符が必要って話じゃなかったんですか?」
「半分は合っているぞ。あれはただの出力安定装置だ。今の京香はアレが無ければまともにPSIも発動できないのだ。元々は違ったのだがな」
ハハハハハハハ! 霊幻が笑う。その眼に感情を見出すことが恭介にはできなかった。
「すまない脱線してしまったな! 続きを読もうではないか!」
霊幻の言葉を深く考えず、ペラリペラリと恭介は元のページの場所へと戻って行く。
「ドリーミングビューティー流通組織の壊滅まで?」
「懐かしい! あれは上森幸太郎達、第六課のメンバーが京香を襲った敵組織を壊滅させる話だ!」




