④ 知識と見解を提供せよ
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ガガアアアアアアアアアアアアアアアアアン!
京香が作った砂鉄の盾と敵の大柄なキョンシーが激突した。
「くっ!」
ブレーキ無しのキョンシーの突撃。京香はアンカーの様に砂鉄を地面へ指し、砂鉄の盾を固定する。
「圧し潰せ!」
マイケル達の前方に居た人間が傍らのキョンシーへ命令した。
キイイイイイイイいいイイイイイイイイイイイイイイイイイイイン!
直後、マイケル達の頭上に長さ五メートル弱の正方形の力場が発生した。
「設置型のテレキネシス! 発動まで一秒!」
「ッ! 捕まって!」
ジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリ!
京香が砂鉄の一部をマイケルとあおいへと伸ばしその体へと巻き付いた。
「おっと!?」
「うわわ!?」
マイケルとあおいの体へ強烈な引力が働き、京香が三人分の体重を抱えて横へと飛んだ。
刹那、頭上の力場がその力を解放する。
ギイ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛い゛い゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛ン!
マイケル達が立っていたアスファルトの地面が一瞬にして五センチほど凹んだ。もしもあそこに居たら生身の人間ではただでは済まないだろう。
「追い詰めろ!」
京香へと突撃してきたキョンシーへもう一人のキョンシー使いが命じる。
大きく発達した四肢を振り回し、大柄なキョンシーが京香へと追撃した。
「喰らえ!」
だが、京香も負けてはいない。即座にカウンターの二つの鉄球を放った!
ガガアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!
「鉄板でも仕込んでの!?」
鉄球は金属音を立てながら敵キョンシーの胴体へと撃ち込まれ、その体を撃ち飛ばす!
マイケルとあおいを抱えたまま京香が着地する。マイケルとあおいを巻き付いた砂鉄はそのままだ。
「おい京香! 俺とあおいちゃんはさっさとここから逃げる! 拘束を解きな!」
「何処によ!? 逃げられるスペース無いでしょ!?」
「どっか良い感じの場所まで飛べ!」
「だからそれは何処よ!?」
確かにここは開けた十字路。この場で下ろされてもマイケルとあおいに逃げ場は無い。
目の前で京香がマイケル達を逃がせる場所を探す。けれど、それを敵が待ってくれるはずが無い。
「損傷は無視しろ! そのまま突撃だ! 頭以外は壊して構わん!」
命令に大柄のキョンシーは従い、その巨躯で京香を追い詰める。
三人分の体重は重いのだろう。京香の動きは重く、いつか訓練で見た様な軽やかさは無かった。
というか、その戦闘を観察する余裕がマイケルには無かった。
右に左に、上に下に。京香の動きに従って、視界は反転と順転を繰り返し、ジェットコースターでもあり得ない様なランダムなGがマイケルの全身を襲うからだ。
「やべえやべえやべえ! 吐く吐く吐く! さっき調子乗ってジェノベーゼおかわりしなきゃ良かった!」
「うるさいちょっと黙ってて!」
やかましくマイケルは騒ぐ。そのしっちゃかめっちゃかな視界の中で、隆一達の姿を見付けた。
隆一はアレックスとトオルを指揮し、三組のキョンシー使いを相手取っている。流石ハカモリのベテランだ。
トオルが敵キョンシーの弱点を見抜き、その弱点をアレックスが鋼鉄製釘バットで的確に破壊している。堅実な戦い方。あれならばそう時間が掛からずに京香へ加勢できるだろう。
問題はそれまでマイケル達が無事で済むかどうかだ。
キイイイイイイイいいイイイイイイイイイイイイイイイイイイイン!
頭上に再び正方形の力場が展開される。
敵の前衛のキョンシーは京香にピッタリと貼り付き、その四肢を振るい続けたままだ。
「京香!」
「ちっ!」
マイケルの言葉に京香が強く舌打ちした。マイケルとあおいに割いているから、使える砂鉄の量は半減している。防御に使える砂鉄の雲は小さく、それをギリギリでやり繰りしながら振り回されるキョンシーの四肢を避けているのだ。
「転べぇ!」
放たれた右足を避け、京香が四つの鉄球を一気に前衛のキョンシーへ放った。
ガンガンガンガン! グルリ!
右腰、右太腿、右膝へと鉄球がめり込み、敵の体がモーメントに従って回転する。
すぐさま、京香が左に飛び、直後、頭上の力場が発動した。
ギイ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛い゛い゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛ン!
地面に落ちた前衛のキョンシーを巻き込んで頭上から強烈な力場が放たれた。
「ほんっとに硬いわねこいつ!?」
京香が声を上げる。無理はない。仲間のテレキネシスを受けたと言うのに、転ばせたキョンシーの体は僅か軋む音を立てるだけで破壊されない。
「マイケル! こいつの改造は何!?」
体中に掛かったモーメントで吐きそうに成りながら、マイケルは京香へと返事をする。今の自分に出来るのは知識と見解の提供だけだ。
「鋼鉄骨格だろうよ! お前の磁場で操れんじゃねえか!?」
京香が即座にPSI磁場を地面に伏したキョンシーに展開する。だが、すぐにそれらを霧散させた。
「無理! 重過ぎるわ!」
「ハハ! 出力足りねえか!」
京香のマグネトロキネシスの出力はマイケルも理解している。確かにあの巨体の重さを浮かせる程の磁場を京香では出せなかった。
ゴッ! すぐさまキョンシーは起き上がり、京香へ突進する。
鬼ごっこが再開された!
「京香! ねえ、どうするの!? というか私はどうすれば良いの!? さっきから視界が高速メリーゴーランドだよ!?」
「あかねさんに連絡はできる!?」
「もうしてるよ!」
「サンキュー大好きよあおい!」
京香がもう笑うしかないと言った様に喉を鳴らした。
ジャリジャリジャリジャリ。砂鉄に腹を擦られながらマイケルは理解する。
あかねへ連絡が行ったのならすぐに幸太郎も来るはずだ。
「マイケル! 先輩はどれくらいで来れるか見積もれる!? 今居るのはヴァイオレットクリニック! 健康診断だってさ!」
――健康診断? 最近したばかりなのに?
つい一月前にマイケルは幸太郎と健康診断に行ったばかりだ。だが、今の京香の発言は思考するべき物ではない。
マイケルは計算する。ヴァイオレットクリニックの位置。そして、京香が危機にあるこの状況。幸太郎は最速最短でここまで来る筈だ。
「三分だ! それくらいあれば俺達のリーダーと副リーダーはここに来るさ!」
「了解! ああ、もう、面倒ね!」




