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③ ピザは研究の友達さ




***




「ピザ旨え!」


 海賊船にありそうな樽を思わせるテーブルにてチーズとサラミたっぷりのアメリカンピザをマイケルは頬張っていた。


「何でアタシ達も一緒に食べてんのよ? 今日はパンケーキ食べに行く予定だったのに」


「まあまあ良いじゃん京香、タダ飯より美味しいご飯は無いよ。しかもピザだし、大体パンケーキみたいな物だって」


「いや違う。絶対に違う。それだけは断言できるわ」


 そんなマイケルの目の前ではジトッとした目でこちらを見る京香とそれをなだめる青く髪を染めた少女、不知火 あおいの姿があった。


「おお、隆一、トオル、見てくれ! チーズが絡み付いて口から取れねえ! 中の歯車に引っ掛かってる!」


「何やってんだ!? さっさと吐き出せ!」


「バカなの?」


 マイケル達の隣のテーブルでは隆一、トオル、アレックスの組が同じ様にピザを食べている。


 今彼らが居るのはシカバネ町北区にできた新しいピザ屋、ロシナンテだ。


 今日の午前、マイケルは京香のマグネトロキネシスの測定を行っていた。主に脳波と出力の関係に焦点を絞り、相関性の有無を見付けるのが本日の実験の目的だった。


 実験自体は滞りなく進み、そろそろ終了するかと言った時に、隆一達があおいを連れて研究室を訪れたのである。しかも、その手にロシナンテのオープン祝いの半額クーポンを持っていた。


 何でも、ちょうど今日オープンしたばかりのロシナンテから是非ピザを食べて感想を書いて欲しいと隆一が言われたらしい。どうせならと、隆一はマイケルと京香も誘いに来て、その道中にあおいを発見したのだ。


 カリカリ、ウミョンウミョン、モグモグ。


「いやこのピザ旨いな!? チーズとトマトのマリアージュだぜ! テンチョーおかわり! このアンチョビのやつ!」


「お任せあれー!」


 ペロリと絶品ピザ一枚を食べ終え、マイケルは追加注文する。


 クワトロフォルマッジを食べていた京香とマルゲリータを食べていたあおいが苦笑しながらそんなマイケルを見ていた。


「マイケル、そんなに食べるとまた太るわよ? 今ならまだちょいぽちゃのお腹で済むんだから加減したら?」


「いやいや京香、お前は研究者ってのを分かってねえ。ピザとハンバーガーとラーメン、こいつらは俺達の親友なんだ。我慢する方が不健康なのさ!」


 ポン! マイケルが最近またワンサイズ大きくなった腹を叩く。


「あはは、マイケルさん、狸みたいなお腹に成りそうだね~」


 思ったよりも良い音を鳴らした腹太鼓にあおいが笑った。


「良いことじゃねえか! ガリガリよりポヨポヨの技術者の方が何か信用できるってもんだぜ!」


「アンチョビのビザお待たせしました~」


「スゥエンキュー! おお! 今度はアンチョビの塩味とオリーブがフュージョンするぜ!」


 こちらのピザも絶品だった。良いアンチョビとオリーブを使っている様だ。焼き過ぎず、けれど最大限に火入れしたこれらは素材の味が舌の上で踊っている。


 カリカリ、モグモグ、ゴクゴク、プハァ!


「……アタシもおかわりするわ。あおいも一緒にどう?」


「良いね。ペスカトーレ食べようよ」


「オッケー」


「テンチョーさーん! こっちもペスカトーレ追加でー!」


「お任せあれー!」


 マイケルの食べっぷりに京香がおかわりをし、店の奥から店長の嬉しそうな声が再び響いた。




 ピザ屋を後にし、マイケル達はご満悦な顔をして研究棟へと戻ろうとテクテク歩いていた。


「ロシナンテは当たりだったな! こりゃ、俺の飯屋マイリスト追加が決定だぜ!」


 舌の記憶に残る絶品のピザの味にマイケルの顔は破顔する。旨い物はそれだけで人を幸せにするのだ。それが高カロリーであるなら尚更である。


 先頭を歩くマイケルにすぐ後ろの京香がやや不満げに口を開いた。


「もうアタシとあおいは帰って良くない? アタシのPSIの調査は終わったんでしょ?」


「データをまだ渡してねえだろ? 幸太郎に渡しといてくれよ」


「メールで良いじゃん」


「結局セキュリティが一番高いのはアナログだからな。ま、諦めてくれ」


 昼食に行く前に走らせていた本日の実験の解析がもうそろそろ終わっているはずだ。


 マイケルはそれらデータを記憶媒体に書き込み、京香へ渡すつもりなのである。


 テクテクテクテク。四人と二体の足音が北区から中央区への道を進んでいく。


 ガヤガヤワイワイ。休日のシカバネ町は昼間という事もあって喧騒に包まれていた。


 喧騒が最も強いのはやはり歓楽街がある北区だ。来年にでも開通予定の超伝導モノレールが実装されれば、さらに多くの住民達や町外からの人間達が溢れるだろう。


――そうなったら素体狩りがまた増えるだろうな。


 超伝導モノレール自体に対してマイケルは肯定派だ。だが、実験的にこのシカバネ町を開通させること自体には懸念を覚えていた。


 シカバネ町は南方を海に、そして、他を壁に囲まれた閉じた町だ。シカバネ町に入る為には輸出入用の南区の港か、北、東、西のそれぞれにある関所を通るしかない。


 けれど、来年にでも超伝導モノレールがシカバネ町を開通する。これによってシカバネ町から出るのが容易と成り、素体狩りを行う犯罪者達も増加するだろう。いくら手荷物検査をするとは言え、取りこぼしが生まれるのは眼に見えていた。


――どういうつもりなのかね、上は?


 マイケルは、いや、ハカモリに長く居る連中は気付いていた。このシカバネ町という町はそもそも素体狩りの被害を無くすつもりが無いのだ。


 関所をもっと厳しくすることは簡単だ。取りこぼしだって人的リソースを割けば減らせる。幸太郎が良く意見書にそう書いていると知っている。だが、ハカモリの長、水瀬 克則を含めたシカバネ町の上層部がその意見を聞き入れることは無かった。


 素体狩りを抑制はする。だが、撲滅はしない。きっと、ある一定数の素体狩りを黙認すると決めているのだ。


 マイケルは研究者であり、キョンシー技師であり、所属する括りとして後方支援部隊だ。故に死の危険性はハカモリの中では低い。


 けれど、幸太郎やあかね、隆一の様な前線部隊の戦闘員は違う。彼ら彼女らはいついかなる時も戦いにおいて死の危険性と隣り合わせだ。


 にも関わらず、シカバネ町は住民達を守り切る気が無い。その徒労にマイケルは技術者として科学者として理不尽な物を感じた。


 できた方が良いのにやらない。できるのにやらない。マイケル・クロムウェルが嫌悪する考え方だった。


 そんなことを考えながらマイケルが全員を引き連れて歩いていると、北区と中央区の境目、ちょうど十字路しかない開けたスペースにて、最後方を歩いていた隆一が口を開いた。


「警戒態勢! 狙われてるぞ!」


 その瞬間、マイケル達を囲む様に〝敵〟が現れる!


 前方からキョンシーが二体、人間が二人。後方からはキョンシーが三体、人間が三人。


 キョンシー達が強烈な勢いを持ってマイケル達へと突進して来た!


「下がって!」


 マイケルは京香に首根っこの襟を捕まれ、後方へと引っ張られた。


 それと同時に京香の眼が銀色に発光する。


「シャルロット、砂鉄と鉄球!」


 左手に持っていたアタッシュケース、シャルロットが開き、中に詰められていた砂鉄と鉄球が京香の周囲へと浮き上がった。

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