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⑤ 新人に乾杯







「んじゃ、後はよろしく」


 素体狩りの実行犯を第三課の人員とキョンシーへ引き渡し、一仕事を終えた幸太郎は肩を回した。


 後部座席に居た中高年男性は既に死亡していた。予想通り薬物による殺害である。


 今流行りの殺人薬物、ドリーミングビューティーを注射されたのだ。この薬を服用した物は内臓や脳へほとんどダメージを与えずに夢見る様に死に至る。昨今、数々の素体狩りの組織の中で広く用いられていた。


――どこの誰がこんな薬を作ったのやら。


 確かにドリーミングビューティーを使えば、効率的に素体から〝パーツ〟を取り外せる。キョンシー制作を第一に置くのならこれ程素晴らしい薬はそう無いだろう。


――俺は嫌いだね。こんな薬。


 これではまるでキョンシーの為の人間では無いか。


 人間の為のキョンシーなのだ。そうでなければならない。キョンシーに対してそういう価値観が幸太郎には根付いていた。


――まあ、良いか。とりあえず、仕事は終わった。


 第三課とのやり取りをしていたら、既に時刻は午後二時半。昼食の時間を大分過ぎてしまっていた。


 見ると、京香は第三課が走り回る現場から少し離れた場所でライデンと共に立っていた。


 邪魔にならない様にしているのだろう。何かを考え込んだ顔をしながら第三課の後始末を見ていた。


 京香にはまだ中高年の死体を見せていない。そして、見せる気も幸太郎には無かった。


 ハカモリに入ったのだ。遅かれ早かれ死体を目撃する。わざわざ今見せる必要も無い。


 幸太郎は空腹を自覚しながら、京香へと歩み寄る。


「何であの車に犯人が乗っているって分かったの?」


 目の前まで近づいて来た幸太郎へ京香が問い掛けた。どうやら、彼女は先程からそれが不可解だったようだ。


「ん~、勘だな」


「は? ふざけてんの?」


「直感は大事だぜマジで? 京香も何か変だなって思ったらその直感に従えよ。結構当たるから」


「?」


 納得はしていない様だが、京香はとりあえず受け入れた様だ。


「腹減ったろ? そこのコンビニで肉まんでも食うか?」


 近くまで寄ると京香がややボーっとしているのが分かる。この少女は低血圧であり、低体温だ。エネルギー不足に成るとすぐに体の調子を崩す。そして、それを指摘されると機嫌が悪くなるのだ。


「ん、そうね。アタシ、ピザまん」


「オッケー」




「久しぶりに食ったけど、やっぱ旨いな肉まん。京香、ピザまん分けてくれよ」


「い、や、よ」


 モグモグモグモグ。コンビニの前で幸太郎と京香は購入したばかりのアツアツの肉まんとピザまんを食べていた。


 脳に栄養が行ったのか、京香の眼に活力が戻っていく。


「ほい、ライデンもお疲れ、神水だ。飲んどけ」


「……」


 ライデンも渡された神水をゴクゴクと飲む。


 ハフ、ハフ。アツアツの肉まんを食べながら幸太郎はスマートフォンを取り出し、トークアプリを起動した。


「どうしたの?」


「ただの確認。気にするな」


 京香の質問をあしらいながら、あかねへメッセージを送る。


 ピコン。返事は直ぐに来た。


――なるほど。そろそろか。


 幸太郎はあかね達にとある準備を命令しており、その準備もほとんど終わりつつある様だ。


 モグモグモグ。


「はい、お茶」


「ん」


 ゴクン。


 京香に烏龍茶のペットボトルを手渡し、幸太郎は残った肉まん一欠けらを自身の緑茶で一息に流し込んだ。


「……良し。満足、良い感じだな。京香、オフィスに戻るぜ。今日はちゃんと働いたからな。こりゃ、報奨金が期待できるぞ」


 素体狩りの犯人を捕まえたり、殺害したり等、シカバネ町の利益となる行動をした場合、ハカモリから報奨金が支給される。


――報奨金で何を買おうか? 諦めてた新作ゲーム機、CHANGEとか良いかもなー。


 CHANGE。CMによるとテレビ画面と手元、そしてVR、三種類で遊べる優れ物だと言うのだ。幸太郎が好きなレトロゲームも数多くリメイクしていると言う。これは買うしかなかった。


 そう夢を膨らませている幸太郎へ、京香が思い出した様に言った。


「さっき第三課の人が、アンタが壊した道路の金を請求するって言ってたわよ」


「……マジで? ちゃんと捕まえたのに?」


「もっとスマートに出来ただろう、だってさ」


「えー」


 いや、確かにわざわざ屋上から着弾する必要は無かったかもしれない。だが、精々道路が半径二メートル陥没し、数時間程度交通を止めただけでは無いか。


 幸太郎はハカモリを統括する水瀬 克則の顔を思い浮かべた。


――駄目だ、目くじらを立ててくどくど責めてくるな。


「……聞かなかったことにするぜ。ほらほら、京香、職場に帰ろう。俺達は今日素晴らしく誰にも迷惑を掛けずちゃんと完璧に仕事をこなしたのさ」


「ちょ、押さないでよ」


 はいはいー、と幸太郎は京香の背中を押した。


 向かうは今朝訪れた第六課のオフィスだった。







「ファイア!」



 八つの特大クラッカーが爆音を鳴らし、飛び出た飾りが京香の腹へと直撃した!


 バアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!


 バアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!


 バアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!


 バアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!


 バアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!


 バアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!


 バアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!


 バアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!


「グハァ!」


 朝の再現が第六課のオフィスドアの前で起こった。


 幸太郎は手を叩いて爆笑する。


「ハッハッハァ! テンドンだぜ京香! すっばらしいマジですっばらしい! お前は将来のリアクション芸人だ! ハハハハハハハハハハハハハハハハ――ガハァ!」


 笑いの途中で幸太郎の腹に京香の蹴りが突き刺さった。


「ぶっ潰す!」


「待て待て京香! ヤバい! アタッシュケースはマジでヤバいから! 流石にヤベえってマジで! 落ち着いてマジで!」


 振り下ろされるアタッシュケースをギリギリで回避しながらワーギャー! と幸太郎と京香は動き回る。


 そして、二分後。


「きょう、か、ほら、中見て」


 ゼーハーゼーハーと肩で息をした幸太郎は、同じく肩で息をしている京香へオフィスの中を見る様に言った。


「え? な、に?」


「だから、中、見ろ、って」


 幸太郎の指差した先を京香が見る。


 そこには色とりどりに飾りつけされた第六課のオフィスの姿があった。


 机の上にはポテトチップスや柿の種などの菓子類、そして数多くのソフトドリンクが置かれている。


「? 何これ?」


 首を傾げる京香へ、オフィスの中からあかねがタタタと小走りで駆け寄り、その手を引っ張った。


「京香ちゃんの歓迎会! ささやかだけどね!」


 幸太郎が第六課のメンバーに命令していたのは京香の歓迎会だ。


 パトロールに幸太郎が京香を連れ出している間に、あかね達へオフィスの飾り付けを頼んだのである。


 息を整え、幸太郎もオフィスの中に入る。


 既にその中では第六課の人員とキョンシー達がそれぞれのドリンクを持って立っていた。


 京香は真ん中であり、そのコップにはメロンソーダが入っている。


「コウちゃんはコーラだよね?」


「ああ、ありがとうな」


「いえいえー」


 あかねから自分の分のドリンクも受け取り、いざ幸太郎は杯を掲げた。


「さあ、歓迎会だ!」

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