表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
198/500

③ 炭酸飲料を飲みながら

 






「それじゃ、パトロール行くか。京香、お前は俺の仕事の見学。付いて来い」


「ん、分かった」


 幸太郎は早速、京香を連れてシカバネ町のパトロールに出ることにした。


「あかね、後は頼むわ」


「はいはいー、コウちゃん達も気を付けてねー」


 エレベーターに乗り、一階へと幸太郎と京香、そしてライデンは降りて行く。


「お前用のキョンシー手に入れねえとな」


「候補は?」


「まだない。ま、お前が持ちたいってキョンシー見つけたら教えてくれ」


「ん」


 京香に戦闘用のキョンシーを持たせる気を幸太郎は持っていなかった。


 マイケルとヤマダの中間、全体の補助係くらいに収まれば上々。そうでなければ、戦闘における後方支援が妥協点だ。


 何事も無ければ、土屋のトオルや第二課のワトソンなどの調査用キョンシーか、幸太郎が近くに居れない時に借りていた護衛用のキョンシーを購入するつもりだった。


 エレベーターは重さを感じさせず、一階へと降りて行く。


 後数秒で地上に付くという所で幸太郎は京香へ問うた。


「そういや、ちゃんと持ってるよな?」


「これ? さっき貰った奴?」


「そうそう」


 京香が左手に持っていた銀色のアタッシュケースを上げた。


 これは幸太郎がマイケルに頼み、第二課と共同開発した清金京香専用のガジェットである。


 このアタッシュケースには音声認識型戦闘補助AI一式、通称、シャルロットが組み込まれている。音声認識で様々な戦闘や行動のサポートをしてくれる一級品であり、これを正しく使えば、そうそう死ぬことは無い。


――過保護かね。


 ヤマダとあかね、そしてマイケルと土屋に言われた言葉を幸太郎は思い出す。だが、過保護なくらいが丁度良いのも確かだった。


 チーン。


 エレベーターは地上に降り、幸太郎達はキョンシー犯罪対策局ビルを出た。


「で、先輩、まずは何処にパトロールへ行くの?」


 京香の眼には緊張と期待の両方の色が覗いている。初めての仕事とはそう言う物だ。


 何はともあれ、まずは上森幸太郎の仕事に慣れて貰うのが一番だろう。


 そう判断し、幸太郎はいつも通りの自分のパトロール風景を見せることにした。


「まずはマック行くぜ」


「はぁ?」




 三十分後、空調の効いたファストフード店にて幸太郎達は居た。


 幸太郎の前には京香、その隣にはライデンが座り、彼らのテーブルにはドリンクと、ポテトが置かれている。


 そんな店内で京香がジトッと幸太郎へ目を向けていた。


「……ねえ、先輩? こんな所に居て良いの? パトロールなんでしょ?」


「良いの良いの。社会人ってのはいかに効率的に手を抜けるかを競争する職業なのさ」


 ズズー。幸太郎はストローを咥えてコーラを飲んだ。


 パチパチと炭酸が舌と喉で弾け、爽快感が胃へと落ちる。


「く~! キンキンに冷えてやがる!」


「……あのさ、アンタの仕事を見学してろって言ってたよね?」


「京香、口調口調。仕事中は俺の事を先輩って呼べ。それが条件の一つだったろ?」


「……分かったわよ。先輩、で、何でパトロール開始した瞬間からファストフード店に直行なのよ?」


 ズズ―。幸太郎を真似したわけでは無いのだろうが、京香もストローを咥え、メロンクリームソーダを飲んだ。


 その頬はややむくれている。不満がある様だ。


 ズズ―、パチパチ。


 コーラを飲みながら幸太郎は京香へポテトを指した。


「京香、第六課がどういう仕事担当しているのかってのは教えたよな?」


「……第一課から第五課じゃ対応できない仕事」


「その通り、花丸をやろう。俺達が必要に成ったらスマフォに連絡が来るさ。つまり、これも立派な待機任務なわけだ」


 ハッハッハッハ。


 幸太郎は笑い、京香が釈然としない様に首を傾げていた。


「何でアンタがいつも校門の前で待ってたのか分かったわ。社会人の割には帰るの早過ぎじゃない? って思ってたのよ」


「中学生に見られるのは俺も恥ずかしかったぜ。どう見ても不審者だもんな」


 京香が中学生であった頃、幸太郎は京香の送り迎えをほとんど毎日やっていた。世界で唯一の生体サイキッカーである京香を狙う組織は数多く、その中で京香が頼れる人員は数える程しかない。


 特に中学生の頃の京香は最も精神状態が危うく、幸太郎との関係が悪かった頃であり、そういう意味でも目を離せない状態であった。


 京香が高校一年生になるまで、すなわち、訓練し、少なくとも一人で帰っても問題は無いだろうという戦闘能力が付くまで、この送り迎えは続いた。


――懐かしい。守衛のおっちゃん元気かな?


 数年前の記憶を思い出し、幸太郎はメロンクリームソーダを飲む今の京香の姿を見る。


 まだ、着慣れていないのだろう。ブラウスとスーツでの動きがぎこちない。


「……何よ?」


「いや、何でもないさ」


 ハッハッハッハ。


 笑って幸太郎は誤魔化す。


「ま、ポテト食べ終わったら移動するか。何事も無く平和なパトロールを期待しようぜ」


「ん」


 ズズ―。幸太郎と京香が同じタイミングでそれぞれの炭酸飲料を飲み、ポテトを摘んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ