笑顔で残そう、祈りの言葉を
第四部の開始です。
清金京香が第六課の主任に成るまでの話で、霊幻が作られるまでの話です。
楽しんでいただけたら幸いです。
ジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリ!
鉄を擦らせる強烈な音で暗転したばかりの上森 幸太郎の意識は覚醒した。
眼のピントはランダムに合う合わないを繰り返し、まともな視界では無かった。
腕と脚にも上手く力が入らなかった。
「――! ――――――!」
すぐ近くで、きっと手の届く距離で、誰かが叫んでいる。とても大きな声だと分かっているのに、まるで耳に綿でも詰め込んだみたいに言葉として上手く聞き取れなかった。
トクトクトクトク。徳利を逆さまにした様に胸から血が流れている。
――ああ、ダメだな、これは。
自身の体に起こっているそれらに幸太郎は自分の命がそう長くないと悟った。
間もなく、トーストが焼けるよりも短い時間で、自分の命は終わるだろう。そんな確信が幸太郎にはあった。
幸太郎は思い出す。何故、自分が死ぬことに成ったのか。
幼少期、少年期、青年期と過ぎ、最も色鮮やかな日々は最後の六年間だった。
自分が独りにしてしまった少女。そして、これから、また、独りにしてしまう少女。
この少女と過ごした日々は幸太郎にとって特別だった。
けれど、この顛末に幸太郎は納得できてしまった。間違えたことは数知れず、最適解を選べた訳でも無かったが、自分のこの六年間に恥じる物は何も無い。
ならば、恥じることが何も無いのなら、最後に何か言葉をこの少女に残さなければならない。
祈りの言葉を残さねば。
この少女に何かを自分は祈っているのだ。それは言葉に成っていないけれども、それを今ここで言わなければならない。
そうしなければ、自分の死は少女の呪いに成ってしまう。
ぼやけ、周囲から影が落ちて来る視界の中で、幸太郎は少女の名前を口にする。
「――!? ――、――、――!」
少女はきっと自分を見下ろしているのだろう。そして、声を掛けているのだろう。どちらも幸太郎には良く分からなかった。
幸太郎は手を上げようとして、実際、上がったかどうかは分からなかった。だが、どうやら自分の手は少女の頬に届いたらしいと何故だか分かった。
何を言うべきなのか、幸太郎には準備が無い。だが、どの様な祈りを残したいのかはあった。
残る力の全てを使って幸太郎は口角へ力を入れ、無理やり笑った。これは自分でも分かった。綺麗な顔であるかは分からない。だが、笑った顔を今この少女に見せている。
そして、幸太郎は最期の言葉を口にした。




