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① ジングルベル

 数日が経ち、クリスマスイブが来た。


 ジングルベルジングルベル。イブの夜空を迎え、シカバネ町のクリスマスムードは正に最高潮を迎えている。


「こっちか?」


 そんな街空の下、北区の歓楽街を恭介はスマートフォン片手に歩いていた。


「まあ、ココミ、見て見て。サンタクロースのカーニバルだわ。これだけ集まっているとありがたみが消えるわね。ねえ、わたし達もプレゼントを貰いに行きましょう。大丈夫、ココミはとっても可愛いし美しいし綺麗だし、きっとあの袋の中のプレゼントを全て差し出すはずだわ」


「……」


「待て待て待って。ちゃんと今朝クリスマスプレゼント上げたでしょ。欲しがってた双子クマのぬいぐるみ。あれ高かったんだよ?」


 群がるサンタクロースに突撃しようとするホムラとココミを恭介は止める。放っておいたら何処に行くのか分かった物じゃなかった。


「何で僕が取りに来てんのかね?」


 つい、恭介はぼやく。左手のスマートフォンには北区のとある肉屋の座標が表示されていた。


 恭介は約二週間前に清金と霊幻が予約したという七面鳥を受け取りに来ていた。


 現在、清金が注文した肉屋を捜索中なのである。


――というか、ヤマダさんが受け取りに来れば良いのに、クリスマスパーティー中止で良くない?


 あの戦いの後、清金はヴァイオレットクリニックに入院し、それから、ずっと目を覚ましていない。頭から下が完全に破壊された霊幻も新しい体を現在制作中だ。


 第六課の主役足る一人と一体を欠いた状態でクリスマスパーティーも何も無いだろう。


 実際恭介は第六課のクリスマスパーティーは当然中止になる物だろうと考えていた。


 けれど、第六課のオフィスへ届いたケータリングを見てヤマダが一言「クリスマスパーティーをしまショウ」と宣言し、清金が注文したという肉屋の座標を恭介のスマートフォンへ送ったのである。


 今頃、第六課のオフィスではヤマダとセバスチャンが飾り付けをしているはずだ。


「何処だ?」


 清金と霊幻が選んだ肉屋は北区の入り組んだ場所にあるらしく、恭介は苦戦しながら北区を練り歩いた。


 テクテクテクテク。迷いそうに成りながら歩き、恭介は今回の顛末を思い返す。


 清金の首を恭介が絞め落とした後、速やかに騒動は終息した。


 幸いにしてシカバネ町の物的被害は大したことは無く、戦闘に参加した捜査官が合計五名殉職しただけで済み、住民達の命や身体に被害が出ることは無かった。


 今回のテロ行為に荷担した穿頭教徒の内十八名を殺害、四名を捕縛、そして二名を取り逃がした。逃げた二名の名前は判明している。ケンジとエンジュ。チサトが足止めし、その二名が関口から逃げ去ったのだ。


 関口の悔しそうな顔が強く恭介の印象に残っている。


 結局、今回のテロ行為に対してシカバネ町が受けた被害は大したことは無かった。


 唯一大きな被害を受けたのは、主戦力の清金京香、並びに、霊幻が壊れた第六課だけである。


 一度だけ清金の見舞いに恭介は行った。打撲が数か所と全身に中度の火傷と入院当初は酷い状況であったが、骨や内臓に異常は無かった。


 恭介ががむしゃらに絞めた首も、シカバネ町の治療技術を持ってすれば、問題ないの範疇に収まる範囲だと聞いている。


 つまり、清金京香の外傷はすぐに治療され、さっさと起きてもおかしくないのだ。


 篠原菫曰く、問題は中身、脳の方だ。


 先の清金のPSIの暴走は過去にも一度あったらしい。その際は目覚めるのに一週間掛かったと言う。


――清金先輩は、第六課は一体何なんだ?


 初めて湧いた第六課への、清金京香への興味。それが恭介の頭の中でこの数日何度か浮かんでは消えていた。


 テクテクテクテク。


 七面鳥を探しながら恭介は考える。第六課について自分は知る必要があるのかもしれない。


 いや、正確に言うのなら、知らなくても良いのだろう。自分はつまるところ第二課から第六課に送られたお目付け役の類である。私情を挟む必要は欠片も無く、ただ今見えている事を報告すれば良いのだ。


 知ることはリスクである。知ってしまえば行動が変わる。変化が良い方向に向くとは限らない。リスクを冒すべきではない。


 だが、恭介の腕にはまだ、清金の首の感触が残っていた。


――細い首で、小さい肩だった。


 知覚は認識を変えてしまう。前の様に清金を見る事は不可能だった。


 恭介は眼鏡を上げた。そもそも何をすれば清金の、第六課のことが分かるのかが分からない。


 手段が無いのなら考える必要は無い。そう結論が出たのは何度目だろうか。


 ドン!


「いったぁ!」


 急にホムラが恭介の肩を殴った。最早、この痛みに慣れつつある自分がどうかと思わなくはない。


 そして、恭介はいつもの様に眉を八の字にしてホムラとココミを見た。


「え? 何?」


「ここでしょ」


 ホムラが指差した先、そこには確かに恭介が探していた肉屋があった。




「……一羽まるごとだと?」


 何を血迷ったのか、清金と霊幻が注文した七面鳥は一羽丸ごとフルサイズ、重さにして十キロを超える特大サイズだった。


 仮に清金達が健在だったとして、この量の七面鳥を第六課の人員とキョンシーだけで食べきれるはずが無い。


 テンションの赴くままに店員に注文した事は間違いなかった。




 そんな衝撃サイズの七面鳥を持ちながら恭介は速やかに第六課のオフィス。すなわちキョンシー犯罪対策局実行部ビルの六階へと戻った。


 途中でバスを利用したとは言え、それなりに長い距離を七面鳥を抱えて歩いた腕はパンパンに成っている。


「ヤマダさん、持ってきましたよ……って何で霊幻とマイケルさんも居るんですか?」


「ハハハハハハ、パーティーだからな! 吾輩も参加しようと思ったのだ!」


「上半身だけで?」


「話し相手くらいには成れるぞ!」


 第六課のオフィスには出た時には居なかったマイケルと霊幻が居た。


 椅子に置かれた霊幻は腕を除く上半身のみの姿だ。ほとんどフレームしかなく、人工肺のみで人工消化器も取り付けられていない。


 その近くに居たマイケルが「待ってましたターキー! これを喰わなきゃ一年が終わらねえぜ!」と恭介の七面鳥を奪う様に取り、部屋の中央に集められたデスクの中心にドンと置いた。


 ヤマダとセバスチャンによって第六課のオフィスはクリスマスらしく飾り付けられ、七面鳥の周りには既にケータリングの品々が置かれている。


 着ていたコートを自分のデスク近くのハンガーに掛け、恭介はそれぞれの紙コップにジュースや茶を注ぎ、自分の分のコップにビールを注いだ。


「おお! アツアツじゃねえか! こりゃ良い保温ケース使ってるぜ!」


 何だかんだで腹も減った。七面鳥の香ばしい匂いに食欲が刺激される。


「キョウスケ、音頭ヲ」


「ええ? 新人ですよ僕?」


「だからデスヨ」


 ヤマダの言葉に恭介は苦笑しながらコップを持ち上げた。


「それじゃあ、乾杯」


「「「「乾杯!」」」」


 霊幻、ヤマダ、セバスチャン、マイケルの二人と二体が音頭に乗り、ホムラとココミは勝手にショートケーキを食べ始める。


――ええー。


 何とも閉まらないが、クリスマスパーティーの始まりだった。


 恭介はビールを口に含む。苦い麦の旨みが喉を通った。

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