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⑫ 電光雷轟




***




 バチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチ!


「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!」


 歯車を回し、紫電を纏い、霊幻はシカバネ町の空を跳ぶ。


 屋根から屋根へ。壁から壁へ。クーロン引力と斥力を操る今の霊幻の姿は正に質量を持った稲妻だった。


 スーパーカー並みの速度で動くジグザグの直線軌道。無理な動きにミシミシと霊幻の四肢が悲鳴を上げていた。


 あっと言う間に霊幻は西区を抜ける。


 ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!


 そして、西区と中央区の境目にて、霊幻は高さ十五メートルほどの炎柱を発見した。


 あのPSI反応はデータがある。ホムラのパイロキネシスだ。


 距離は霊幻の前方一キロメートル。炎柱の根本にシルバーカーと大型バイク、そしてそれを追うクロガネと穿頭教徒達が居た。


 シルバーカーの助手席側の屋根には穴が開いてホムラが頭を出し、大型バイクには関口とコチョウが乗り、襲い来るクロガネへ攻撃を放っていた。


 クロガネは砂鉄を翼の様に広げ、その翼に穿頭教徒達が乗っていた。そして、砂鉄の翼の背には京香が埋まっている。


「あそこか!」


 バチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチ!


 電光雷轟。撲滅対象と救出対象を見つけ、霊幻の体の紫電が一層強く成った。


 クーロン引力と斥力を交互に、強烈な加速力に霊幻の体は乗った。


 僅か三十秒弱、紫の轟雷の音に眼下の恭介と関口が気づいた。


「距離を開けろ!」


 果たして霊幻の声が届いたのかどうか。返事も反応も待たず、霊幻は全ての運動エネルギーを落下へと変えた。


 クロガネが霊幻の存在に気付いた。即座に前方へPSI磁場を展開する。


 それを確認した瞬間、霊幻はPSIの発動を止めた。


 紫電を消した霊幻の体が従うのは超高速鉛直落下運動。


 マグネトロキネシスでは重力による物理運動は止められない!


 霊幻の体は狙い通り、クロガネの眼前に着弾した!


 ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!


 アスファルトが捲れ上がり、金属製の重厚ボディが軋んだ。


 クロガネと霊幻の距離がゼロとなり、右腕を霊幻は振るった。


「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ! 京香を返してもらうぞ!」


「ダメよ。京香は私達家族と一緒に暮らすんだから」


 ガアアアアアアアアアアアアァン!


 霊幻の鉄拳とクロガネの砂鉄の盾が激突する。


「サポートしろ恭介、関口!」


「了解!」


「分かってる! 命令すんじゃねえ!」


 背後で急ブレーキの音が二つした。恭介と関口が車両を停車させた音だ。霊幻一体では勝ち目が無い。ホムラとコチョウ達の力が必要だ。


――敵は磁力使い。紫電は使えない。


 PSIは使えない。敵は四体のキョンシーと三人の穿頭教徒。勝利条件は京香の救出。


「さあ、どうする!?」




 クスクスクス!


「あなたとちゃんと話すのはいつぶりになるのかしら! 今は霊幻と言う名前なのよね!」


「ハハハハハハハハハハ! 生前の記憶を持ち出すな! 少なくともこの身でまともにお前と話すのは初めてだ!」


 ガァン! ガァン! ガァン! ガァン!


 ジャリジャリジャリジャリジャリジャリ!


 京香を取り返さんと、霊幻は拳をクロガネへと放つ。人間が頭に受けたら一発で破裂する程の鉄拳。だが、それらは全て砂鉄に阻まれ、クロガネの体に届かない。


 それどころか、後退をしない霊幻の体はクロガネの砂鉄と鉄球に削られ、徐々に金属パーツが露出し始めていた。


「どけハカモリ! 俺達は後ろの先生に用があるんだ!」


「ハハハハ! 黙れ簒奪者共が!」


 敵はクロガネだけではない。クロガネの両脇の穿頭教徒共からも攻撃が放たれる。


 マグネトロキネシス、テレキネシス、エアロキネシス、ハイドロキネシス。四種のPSIを同時に相手取るのは霊幻でも至難だった。


「関口、雑魚は任せるぞ!」


「ああ!?」


 苛立ち気な反応だが、関口は素直に霊幻の言葉に従った。


 ハタハタハタハタハタハタ!


 ビュオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!


 ビュオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!


 ビュオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!


 コチョウが生んだ三対の竜巻が穿頭教徒達を後方へと吹き飛ばし、


「霊幻、さっさと清金を奪え! 文句が山ほどあるんだからな!」


 そのまま、暴風に乗って関口とコチョウは霊幻とクロガネを飛び越えて向こう側へと行く。霊幻の要求通り、三組の穿頭教徒とキョンシーを一手に引き受けるつもりの様だ。


「感謝するぞ関口! だが、文句はアリシアへ言え! 吾輩の相棒は今回の被害者だ!」


 ガァン! 頭部を狙って放たれた鉄球を殴り飛ばしながら関口に答える。


 被害者、という言葉がするりと霊幻の口から出た。そうだ、今回の騒動の図式がある程度霊幻には分かってきたのだ。


「クロガネよ! お前達の目的は初めから京香だったのだな!」


「ずっと京香と一緒に暮らしたかったの。離れてしまったあの日から、死んでしまったあの日から、キョンシーに成ったあの日から、また家族みんなで一緒に暮らす。かつての日々を取り戻す! それだけが私の存在理由なの!」


 クスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクス!


 クロガネが笑う。未来に待つ幸せな家族生活が待ち切れないかのように。


「ほざくな! 吾輩達はキョンシーだ! 死者たるお前はどうあがこうとも、過去には帰れない! 何より、背中の京香を見るが良い! その生者は過去に戻ることを選ばない!」


 ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!


 霊幻が笑う。思考回路が狂ったキョンシーの戯言に耐え切れないかのように。


 クロガネの背に拘束され、口を押えられた京香が目線をクロガネの左右に開かれた砂鉄の翼へと振った。


 瞬間、霊幻はその意図を察知する。


「恭介! 砂鉄を燃やせ!」


 横に止められたシルバーカーを盾にする様に恭介達が顔を出していた。


 良い判断だ。恭介達にできるのは中遠距離のサポート戦。霊幻の指示が届き、尚且つ敵の攻撃を避けられる位置に控えていた。ちゃんと第六課での戦闘訓練が身を結んでいる。


「ホムラ!」


「ちっ!」


 ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!


 ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!


 ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!


 ホムラのパイロキネシスが砂鉄の翼を焼いた。


 翼の表面の砂鉄が一瞬にして燃焼し、酸化鉄へと変化する。


 燃えて熱を持った酸化鉄は磁性を失う。


 バラバラとクロガネの砂鉄の翼が崩れ始めた。


「まあ! 広げ過ぎたわ!」


 クロガネは砂鉄の形状を変え、自身の周囲へと螺旋状に周回させる。


 ガリガリガリガリガリガリガリ!


 至近距離に居た霊幻の体が密度の高い砂鉄を受け、更に急速で削られていく。


 既に両腕の合成皮膚は完全に剥がれ、金属部分が露出していた。


「ちょっとホムラが邪魔ね!」


 ヒュン! ヒュン! ヒュン!


 周回軌道を描いていた鉄球の内、三つがノーアクションでホムラへと射出された。


「うわわ!」


 恭介は慌てて、ホムラは舌打ちし、ココミは無表情に首を引っ込める。


 ガンガンガンバリン!


 軽自動車の運転席側の運転席側のドアが歪み、三発目でフロントガラスが砕けた。


 凄まじい威力。一発でも恭介達が受けたらアウトだろう。


「ハハハハハハハハ! 恭介、適宜攻撃しろ! 対象とタイミングはお前に任せる!」


「分かった!」

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