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⑪ 鉄の悪魔




***




 アクティブマグネットを発動し、五分後、テレキネシスト達との戦闘は最終局面を迎えていた。


 少し離れた場所では首を捩じ切られたキョンシーが倒れ、その近くでは穿頭教徒が一人ミンチに成っている。


「固まれ!」


 ジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリ!


 砂鉄の雲で敵キョンシーの体を京香は包み込み、瞬間、その場に押し固めた。


「我らが同胞よ! その砂鉄を弾き飛ばせ!」


 キイイイイイイイいいイイイイイイイイイイイイイイイイイイいいん!


 敵の力場が軋み、砂鉄がギギギギジャリジャリ音を立てた。京香のマグネトロキネシスでは敵キョンシーのテレキネシスを完全に抑え切れない。


 だが、一瞬でも動きが阻害されれば十分だ。


 京香の八つの鉄球全てを叩き付ける様に敵キョンシーへと放つ。


「ぶっ壊れろ!」


 ガ、ガ、ガ、ガ、ガ、ガ、ガ、ガ! 京香の鉄球がテレキネシストの頭部へと連続で激突した。


 超至近距離で放たれた鉄球一つ一つの衝撃がテレキネシスの兜を歪め、頭部を後方へと押しのけていく。


 ミチミチとキョンシーの頭がその胴体から距離を持って行き、拳一つ二つ三つと首が伸ばされて行った。


 ブチブチブチブチブチブチ!


 そして、首が引き千切れた。ブシュウウウウウウウウウ! 炭酸飲料の様に薄紅色の液体を噴出しながら、後方へと倒れる。


「充!」


「おうともさ! ダイゴロウ、捕まえて!」


 ダイゴロウが今正に逃げようとした穿頭教のキョンシー使いを拘束した。


――終わった?


 京香は周囲へ意識を向ける。離れた場所から戦闘音は聞こえるが、近場に敵の気配は無い。どうやら、少なくとも今この場での戦いは終わった様だ。


「……戻れ」


 砂鉄を戻し、京香は充が拘束した穿頭教徒の元へ歩いた。


 ズキズキズキズキ! 心身共にバッドコンディションで発動したPSIだ。頭痛がする。。


 トントン、トン。ジャリジャリ、ジャリ。微妙に覚束ない足運びで、ダイゴロウにうつ伏せで地面に押さえつけられた穿頭教徒の前まで到達する。


「……悪魔め」


 吐き捨てる様な言葉が京香の耳に届いた。


――なるほど、そう見えてもおかしくないか。


 砂鉄の雲と鉄球の星を従え、キョンシーをほぼ単身で破壊できるような女を人間とは呼ばないだろう。


「アタシはあんた達が追い求める理想像の体現者よ? 少しは敬ったら?」


 ふ、と鼻で笑いながら京香は挑発する。蘇生符の向こう、眼下からの怨嗟の視線がまた一つ強くなった。


 穿頭教徒は清金京香を嫌悪している。数多くの同胞を葬ってきた女であり、にも関わらず、彼らの理想を体現した存在である。


 そこにはある種の嫉妬があるのだろう。何故、この様な背信者の元へ神の力が授けられたのかと、逆恨みを持っているのだ。


――そんなのどうでも良いんだけどね。


 京香には穿頭教へ興味が無い。ズキズキと頭痛もする。さっさと質問を始めた。


「やってくれるじゃない。こんなに大規模なテロ行為は久しぶりよ。目的は何?」


「は、お前には分かっているだろう。我らが理想を取り返すためだ」


「やっぱり、あの男が欲しいのね。なら、第二課相手に直接交渉しなさい。ま、あの女狐がわざわざ言うことを聞くとは思わないけどね」


 京香は体を曲げ、トレーシーの銃口を穿頭教徒も額に当てた。


「あんた達のリーダーは何処? ケンジだっけ? アタシの後輩へ舐めた口を利いたやつよ」


「黙れ悪魔。我らは同胞を売る様な真似をしない」


「そう。その心意気だけは立派ね。閉じ籠って箱庭から出ないなら拍手の一つや二つ送ってやりたいくらい」


――拷問してやろうかしら?


 シャルロットからカワソギを出して、この男を出来の悪い人体模型にしてやろうかと京香は半ば本気で考える。


 しかし、その思考は充の言葉で中断した。


「京香! ここは鈴木さん達に任せよう! 私達は他の場所へ加勢に行かなきゃ!」


 充が応急手当を終えた第一課と第五課のキョンシー使いを指さした。


「……そうね。戦える奴は戦わなきゃ」


 離れた場所から戦闘音が持続して聞こえてくる。苦戦しているのだ。


 幸い充のキョンシーはどれもほとんど壊れていない。戦闘能力を維持している京香と坂口で加勢に行くのがこの場での最善解だ。


 ズキズキ。頭痛が収まらなかった。


――アクティブマグネットは後どれくらい使える?


 後五回程度の戦闘であれば問題ない。京香のPSIの売りは持続力だ。


 しかし、シカバネ町各地でテロ行為が起きている、それら全てに対して全力でアクティブマグネットを発動できるだろうか?


――ただでさえ調子は最悪なのに。


「ほら、京香! 行こう! ダイゴロウに捕まって良いから!」


「大丈夫、自分で走れるわ」


――うだうだ言っても始まらないか。


 向かうは次の戦場。求められる仕事は敵の撃退だ。


『きつくなりそうな時は難しく考えなくて良い。まずは目の前のことから、できる限り手を抜いてこなしていくんだよ』


 何故だか、京香は先輩の言葉を思い出した。


 先輩は自分があまり頭の良くないことを、正確に言うなら同時に複数のことを考えられる人間では無いと見抜いていたのだろう。


――考えない。考えない。


 京香は頭を振る。これは無駄な思考だ。昔を懐かしむ時間ではない。


 充の背を追って走ること十分。再びの戦闘音が京香の耳に届いた。


「京香! あっち! 有楽天の方!」


「はいはい!」


 充が指差した先へ、京香は磁力を使って跳ぶ。


 空へと伸びる有楽天。その真下にて第一課の捜査官達が穿頭教と交戦していた。


 今度の穿頭教は、キョンシー使いとキョンシーそれぞれ一人と一体ずつ。第一課はキョンシー使い一人に大中小三体のいつものキョンシーだ。


 ヒュオオオオオオオオオオおオオオオオオオオオオおオオオおお!


 酷い風音が鳴っている。それは穿頭教のキョンシーからだ。


 第一課のキョンシー達の四肢に切断の痕があった。


「今度はエアロキネシスってわけね!」


 本当に今回の穿頭教はどうしたことか。PSIを発現するキョンシーはそう多くない。戦闘に使えるレベルと言ったら一握りだ。


 神の力と信奉するPSIを持ったキョンシー達は穿頭教にとって聖遺物にほぼ等しい。


 そんな物をここまで惜しげも無く投下してくるとは、それほどまでに桃島を取り返したいのか。


――死んだら終わりだってのにね!


 ジャリジャリジャリジャリジャリジャリ!


「速攻で決めるわ! 充、サポートしなさい!」


「おうともさ!」


 砂鉄を螺旋状に周囲へ展開し、京香は再びPSI持ちのキョンシーと突撃した。

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