⑩ 炎の弾丸、風の銃口
ボオオオ! ボオオオ! ボオオオ! ボオオオ! ボオオオ! ボオオオ! ボオオオ! ボオオオ! ボオオオ! ボオオオ! ボオオオ! ボオオオ! ボオオオ! ボオオオ!
白のファミリーカーの屋根に乗ったキョンシーの周囲に複数の炎の槍が現れた。
――パイロキネシス。この距離で狙うのか?
その答えは直ぐに現れた。
黒のファミリーカーの屋根に乗ったもう一方のキョンシーがPSIを発動する。
ギュオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!
それは渦巻くエアロキネシスだった。回転軸を霊幻達へと向け、螺旋状の空気が炎槍を束ねていく。
「炎は弾丸か!」
霊幻は理解する。あの炎の槍は設置型のパイロキネシスであり、弾丸だ。そして、螺旋の風は放出型エアロキネシスであり、銃口である。
ボオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!
直径五メートルは超す、螺旋に逆巻く巨大な炎の槍が現れた!
パイロキネシスとエアロキネシスの連携。王道とも言えるPSIの組み合わせだ。
「となると当然!」
敵のエアロキネシストが両手をこちらへ向ける。
ボオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!
巨大な炎槍が高速で回転し、霊幻達へと飛んで来る!
炎の槍の先端は温度を激烈に上げて白く光っていた。
――まともにぶつかれば、吾輩の体でも耐えられんな!
いくら霊幻が体をほぼ機械化した改造キョンシーだとしても、この炎を受け止めるのは不可能だ。
バチバチバチバチバチバチバチバチバチ! 霊幻は懐から出した鉄片へ紫電を放った。
「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ! 喰らえ!」
そして、霊幻は野球ボールの様に紫電を纏った鉄片を巨大な炎槍へと投げ付けた。
霊幻達の車両から三十メートルの位置。帯電した鉄片が風切り音を立てて炎槍に届く。
瞬間。形を押し止めていた炎の槍が爆ぜた。
ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!
固体化したパイロキネシスは外部刺激で敏感に爆発する。
「ハッハァ! モルグ島の再現だな!」
耳をつんざくような衝撃と四肢を捥ぐような爆風が特殊車両は横転ギリギリまで煽り、霊幻の体がまるで台風の日の枝葉の様に飛び上がる。
「おっとぉ!?」
吹き飛ばされる前に特殊車両の屋根へ紫電を放ってスポットとし、クーロン引力で霊幻は屋根へと貼り付いた。
「さあ、どうだ!?」
強烈な爆発。敵にも何かしらの被害があれば上々である。
しかし、霊幻の視界に映ったのは、先程よりも自分達との距離を縮めた、全く無傷の白と黒のファミリーカー、そして、その屋根に乗るキョンシー達の姿だった。
「エアロキネシスで爆風を操ったか!」
ボオオオ! ボオオオ! ボオオオ! ボオオオ! ボオオオ! ボオオオ! ボオオオ! ボオオオ! ボオオオ! ボオオオ! ボオオオ! ボオオオ! ボオオオ! ボオオオ!
霊幻の看破を聞いているのか居ないのか、再び、白のファミリーカー上のパイロキネシストが弾丸を補充し、
ギュオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!
黒のファミリーカー上のエアロキネシストがそれらを銃口へと込めた。
「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ! これは困ったぞ!」
懐の鉄片が続く限り、炎槍を爆発させられる。しかし、爆発の影響を霊幻達は受けるが、敵はエアロキネシスで無効化できる。
このままでは炎の槍を受ける度に距離を詰められてしまう。
そうなれば、何処かのタイミングで追い付かれるのは必然だった。
ビュン!
炎の弾丸が発射される前に、霊幻は鉄片を投げ付けた。
投擲され、クルクルクルクルと風切り音をたてながら、A4用紙サイズの鉄片は緩やかなカーブ軌道を描き、合体していく炎槍へと飛んでいく。
このまま当たれば、炎槍は爆発し、攻撃を潰すことができるはずだ。
――どう対応する?
ビュウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!
渦巻く風が鉄片を絡めとり、明後日の方向に飛んで行った。
放出型のエアロキネシスは自身と近いほど威力を発揮する。敵のエアロキネシストのPSI有効射程はまだ判断できないが、生成中の炎の弾へ鉄片をぶつけるのは難しいようだ。
――重さが足りんな。
霊幻の鉄片は鉛弾程度なら止められる。だが、面としての威力を持つ相手では重さが軽過ぎた。
そして、カウンターが飛んで来る。
ボオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!
束ねられ、巨大化した炎の槍が再び霊幻達へ再び射出された。
「ハハハハハ! どうしたものかな!」
ヒュン!
笑いながら投擲した鉄片は炎に吸い込まれ、特殊車両と白黒の乗用車で爆発が起きた。
ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!
敵の攻撃も、霊幻の対応も全く同じ。入力パラメータが同一であれば、得られる出力は先程の再現だ。
爆風の煽りを受けて、特殊救急車は蛇行する。対して、敵はエアロキネシスで爆風を逸らし、直進を続けた。
敵との距離は縮まり、後方六十五メートルの位置に着いた。
鉄片の数には余裕がある。だが、後、三度か四度、今の行程を繰り返せば、爆風によって霊幻が乗る車両は吹き飛ぶだろう。
ボオオオ! ボオオオ! ボオオオ! ボオオオ! ボオオオ! ボオオオ! ボオオオ! ボオオオ! ボオオオ! ボオオオ! ボオオオ! ボオオオ! ボオオオ! ボオオオ!
敵は待たない。三度、白のファミリーカー上のパイロキネシストが炎を生み出す。
ギュオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!
――取れる手札は? それから予測される未来は何だ?
霊幻は試算する。眼前の敵を撲滅するのは簡単だ。今すぐ、守りたくもない護衛対象を無視して突撃すれば良い。
「京香からの命令さえ無ければ、撲滅は容易だと言うのに! ああ、全く、吾輩は護衛に向いていないな!」




