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⑥ 未・ゴールド免許







[学会終わった!!!!!!!!!! 明日の朝一で帰国するぜ!!!!!!!!!! 生体サイキッカーの所に直行するからよろしく!!!!!!!!!! 人恵会病院に行けば良いんだよな!!!!!!!!!!]


 マイケルから帰国の連絡が来たのは、深夜零時の少し前、恭介が寝る直前だった。


 ハカモリから新たに支給されたスマートフォン。第六課用のメッセージアプリには感嘆符を多用したメッセージが表示され、すぐに清金からの返信メッセージが届いた。


[明日の昼には護衛対象の場所を移すんだけど、それまでに帰って来れる?]


[マジで!?!?!?!?!? ギリギリ間に合わねえよ!?!?!?!?!?]


[マイケル、今シカバネ町には穿頭教のやつらがわんさか来てるのよ。危険だし、しばらくそっちに居た方が良いんじゃない?]


[無理無理無理!!!!!!!!!! 少しでも早く生体サイキッカーを見たいんだよ俺は!!!!!!!!!! 確かめたい事が色々あるんだって!!!!!!!!!! 見たい見たい見たい見たいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!!!!!!]


 第六課が誇るキョンシー技師が駄々をこねていた。これが可憐な少女や純朴な少年であったのなら可愛げの一つでもあっただろう。しかし、恭介の脳裏に浮かぶのは腹の脂肪を波立たせて暴れまわる狸の姿だ。


[さっきから!!!!!!!!!!が邪魔だから数減らして。マジで読みづらい]


[分かった! んじゃシカバネ町の近くまで着いたら連絡するから誰か俺を隠れ家まで運んでくれよ! これで全部解決だな!]


[誰が運ぶのよ? アタシは護衛で離れられないわ。それにイダテン三号にあんたが乗るスペース無いわよ?]


――おっと、怪しい流れに成って来たぞ?


 恭介は清金とマイケルのやり取りに一抹の不安を覚えた。


 マイケルは我儘を引っ込めないだろう。


 第六課に来て四か月。恭介にとって一番意外だったのは、第六課の人員の中で最も話が通じるのが清金京香であったことだ。マイケルとヤマダは我が強く、自分の要求を常に押し通そうとする人間であり、我儘を引っ込めることが無かった。


 今、第六課のキョンシー技師、マイケル・クロムウェルが我儘を言っている。


 清金はその我儘に折れるだろう。それ自体は良い。だが、その被害は何処まで及ぶだろうか?


[この中で車の運転できる奴は!? レンタカーは俺が借りとくから運んでくれよ!?]


 マイケルのメッセージが表示された僅か一秒後、ヤマダが神速でメッセージを投げた。


[免許持ってません]


 断固とした口調である。実情はどうであれ、彼女がマイケルを運ぶ気が無いのは明白だった。


「ええー」


 スマートフォンの液晶画面を眺め、恭介は眉を顰める。


[んじゃ、恭介はどう?]


 ちなみに恭介は来年度ゴールド免許を取得予定である。







 ブオン。シカバネ町西区にて恭介はシルバーの軽自動車を走らせていた。


――久しぶりに運転するな。


 スマートフォンに表示したカーナビゲーションに従って、ハンドルを右に左に回していく。


 ドライバー特有の僅かな浮遊感が下半身から伝わる。


 視線は前方を中心に常に右往左往し、周囲を見渡していた。


 生体置き場たる西区の道路は見晴らしが良く、久方ぶりの運転でも問題は無さそうだった。


「いやぁ楽しみだな! 生体PSIだってよ! 京香以外のサンプルが見れるなんて今日は良い日だな! 思わず高笑いしちゃうぜ! HAHAHAHAHA!」


「叫ばないでくれませんかね? 僕は運転そんなに上手く無いんですよ」


「大丈夫だって! 自動アシスト機能着いてる車借りたんだからよ!」


 二人掛けの席をほぼ一人で占領して、後部座席のマイケルが機嫌良く大笑いしていた。


「ねえ、見て見てココミ。あそこに公園があるわ。シーソーにブランコにジャングルジム、後、あれは何かしら? 地球儀みたいな遊具? 今度行ってみましょう? 二人乗りで遊んだらきっと楽しいから」


「……」


 恭介の左側、すなわち、助手席ではホムラが膝に乗せたココミへあれこれと話しかけている。


――どっちが妹か分かったもんじゃないな。


 恭介は幼い頃の優花を思い出した。父の車に乗せられ、家族で何処かに行く時、優花はいつも、あそこに行こう、あれは何なんだろう? とおしゃべりをしてきた。


 おそらくあの時の妹の言葉に深い意味は無かったのだ。思い付いたことを話せば、必ず兄が返事をしてくれる。そう言う信頼と安心が向けられていたのだろう。


――だから、父さんと母さんは笑っていたのか。


 あの時の父と母の笑みの理由を恭介はふと理解した。息子と娘のおしゃべりは微笑ましく、未来への幸せに溢れていたのだろう。


 瞬間、脳裏にバラバラに真っ赤に成った父母と無残なダルマに成った妹の姿がプレイバックした。


 これはしょうがないことだ。家族の幸福な思い出はそのまま、悲惨な末路を呼び起こす。


 ガン!


「いった!」


 急に左肩を殴られ、恭介はハンドルを強く握った。


 ピピピ。備え付けられた運転アシスト機能が起動する。


「ちゃんとハンドル握ってなさい」


「殴るな! 事故らせたいの!?」


「黙りなさい。わたしとココミを乗せているのよ。運転だけに集中していなさい」


「……」


「せめてこっち見て言ってくれませんかね!?」


 はぁ。恭介はため息を吐いて、運転へと意識を戻した。また、ホムラの殴打が飛んでくるか分からない。注意深く運転する必要があった。


「HAHAHAHAHAHA! 良いな恭介! キョンシーと上手くやれてんじゃねえか!」


「何処がですか!」


 アクセルへ僅かな力を掛けて、軽自動車は西区を進んでいく。


 このまま行けば、三十分程度で人恵会病院に着くだろう。


 清金とアリシアが人恵会病院で待っているはずだ。


 ピピピピピピピピピピピピピピピピピピピ!


 その時、カーナビとして使っていた恭介のスマートフォンがアラームを鳴らした。


「ん?」


 前方に注意しながら左手の人差し指で画面をスワイプし、アラームの意図を見た。


 どうやら、対策局捜査官全体への連絡らしい。


「ん? お? おおー。こりゃすげえな」


 マイケルは既にメッセージを読んでいるらしい。


「どんな連絡でした?」


「ついさっき、シカバネ町の北区で大量の死体とキョンシーの残骸を発見したってよ。人間とキョンシーの頭には穴が開いていた。まあ、要約すると、穿頭教の信徒達の死体と残骸が発見されたってことだ」


「……はぁ?」

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