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③ 辛い時には楽しいことを







 午後三時。


 会議室でのやり取りの後、京香と霊幻は速やかに人恵会病院605号室へ戻った。第一課からの追手が来る前に戻る必要があったからだ。


――アタシは行かない方が良かったわね。


 京香は605号室のベッドに腰かけて反省する。結局、あの会議に清金京香が行く必要は無かったのだ。人恵会病院で息を潜めて居れば、第一課からの追手を考えなくて良かった。


「駄目だなぁ」


「何がだ?」


 漏れ出てしまった弱音に、壁際に背を預けていた霊幻の眼が光った。


――しまった。


 このキョンシーへ弱音を吐くことを京香自身が許していない。


 気まずそうに、ごまかす様に京香は霊幻へ返事をする。


「最近、アタシ、全然、第六課の主任が出来てないじゃない。何とかしないとって話」


「そう思っているのならば、原因を即刻究明し、そして解消することだ。吾輩の相棒ならばそれくらいできるに決まっている」


 原因は分かっている。クロガネの存在だ。


 何をどうしていても、京香の脳裏にクロガネの姿がこびり付いていた。あの顔は、最愛の母の物で、煌びやかな箱庭の象徴だ。


 今、こうして、母の尊厳が貶められている。その事実が京香の心をざわめかせ、冷静で理性的な判断を奪っていた。


 いけない。これはいけない。考えなければならないことでも、囚われてはならないことだ。


 それを京香は分かっていたが、対応できていなかったのである。


「……ま、どうにかするわ。三日後だっけ?」


「アリシアが次の隠れ場所を用意すると言った日か? そう言っていたな。はてさて、何処へ連れて行く気だというのか」


「それまでは、アタシとアンタで護衛しなきゃいけないのよね」


「業腹だがな。しかし、後数日待てば、アレらを撲滅できるのだ。我慢するしかあるまい」


 心底残念そうに霊幻が肩を竦めた。


 少なくとも三日後の隠れ場所変更まで、京香と霊幻だけで桃島達を護衛することに成った。いたずらに交代していては大角と桃島の居場所がすぐにバレてしまうからである。


――いっそバレちゃったら楽なのに。


 京香は頭を振った。破滅的な思考だ。そんな物を持って仕事に当たるべきではない。


『きつく成った時は、楽しいことを考えろ』


 先輩の言葉を京香は思い出した。


「この仕事が終わったらもうクリスマスね。パーティーが楽しみだわ」


「巨大な七面鳥を予約したからな! 盛り上がることは間違いない!」


「そうね、ケーキも予約したしね。ショートケーキ、イチゴが乗った白いやつ」


 来たるパーティーに京香は思いを馳せる。主任に成ってから初めてのクリスマスパーティーだ。きっと楽しいだろう。ドンチャンドンチャン、徹夜で騒ぐのも良いかも知れない。


 胸が拳一個分だけ軽くなり、京香は小さく笑った。


 ベッドへ倒れ込み、京香は眼を瞑る。


「少しだけ寝るわ。何かあったら起こして」


「了解だ。寝るが良い。吾輩が警戒しておこう」


「ん、よろしく」

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