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② 傲慢な女狐







 午前十時半。


 京香達はキョンシー犯罪対策局ビル七階にて水瀬と向かい合っていた。


「キョウカ、キョウスケだけで良いと言ったじゃないですか」


「あんたの意見にわざわざ従うのが癪だったのよ」


 七階の会議室には水瀬、アリシア、京香、恭介、そして第一課の主任である桑原(くわばら) 一輝(かずき)と充が腰かけていた。霊幻、ホムラ、ココミは後方で起立している。


「軽口はそこまでにしておけ、清金京香二級捜査官、アリシア・ヒルベスタ一級捜査官。お前達には聞きたいことが山の様にある」


 ジロリと水瀬が京香とアリシアを睨む。その眼光はいつも以上に鋭かった。


「本日の午前四時頃、第一課の坂口三級捜査官、及び、木下五級捜査官が穿頭教の信徒、そして、清金京香二級捜査官から報告があったマグネトロキネシスを操るキョンシーと会敵した。同捜査官達は、交渉によって戦闘を回避、そして、シカバネ町に潜伏している穿頭教の人員とキョンシーの数を入手、並びにその半数を撤退させる約束を取り付けた。ここまでに何か間違いはあるか?」


 水瀬が淡々と手元に置いていた資料を読み上げていく。


「はい。それで間違いありません」


「坂口捜査官からの報告にはこうもある。第六課が穿頭教からの脱走者らしき人物を匿っている、とな。これについて何か言う事はあるか、清金捜査官?」


「アタシからは何も、第二課のアリシアが説明してくれるでしょう」


 京香が右隣りへ目を向ける。アリシアはその褐色の頬へ手を当てながら「しょうがないですねぇ」と口を開いた。


「現在、私達第二課が第六課へ、穿頭教からの逃亡者の護衛を依頼しているんです」


「それは対策局が敷いたルールに違反している。何故破った?」


 アリシアは何かを考える様に眼を細め、京香を一瞥した。


「逃亡者の内の一人が、生体のままPSIに目覚めているからです。調査が終わるまでは、邪魔が入らない様にしておきたかったので黙っていました」


「本当か?」


「それも含めて調査しています」


 水瀬は一度口を閉じ、代わりと言った様に桑原が口を開いた。


「なるほど、何で穿頭教が来たのか分かりましたわ。そいつらにとってPSIに目覚めた生体は教団全体の存在意義ですからな。シカバネ町に逃げてきたとあれば、それこそ死に物狂いで追って来るでしょう」


 目元の小皺を深くして桑原が「困った困った」と口に出す。


「こりゃ、あれですな。第一課の主任としては、その、PSIに目覚めたっていう生体を即刻殺すことを提案します。脳を潰して、見晴らしの良い場所に置いておきましょ。そうすりゃ、敵さんもスゴスゴ巣に帰るに違いない」


「そうしてくれて構いませんよ。私達の調査が終わった後ならば」


「待てませんなぁ。こうしている間にも、この町にはゴキブリにも劣る簒奪者達が潜伏している。被害を受けるのは素体達。害虫は追い出すか、駆除するか、それ以外の選択肢はない」


 アリシアと桑原の視線がぶつかる。どちらも譲る気はサラサラ無い。場合によっては第二課と第一課で争う可能性さえあった。


 水瀬が二人の主任を諫める様に口を挟む。


「アリシア、どちらにせよ、その生体を俺達本部へ引き渡せ。調査はこちらで行う」


「カツノリ、それはお断りです。あの生体を見付けたのは第二課(我々)です。何故、最も楽しい調査の時間を渡さなければならないのです?」


 トン。桑原がテーブルを軽く指で叩く。その音には意思が込められ、全員が彼へと目を向けた。


「水瀬さん。アリシア・ヒルベスタを拷問しましょう。それで逃亡者の隠し場所を吐かせれば万事解決です。ええ、大丈夫です。傷は残しません」


 穏やかな口調であっても、その言葉が本心であると、この場の全員が理解していた。


 第一課の主任である桑原一輝はシカバネ町の治安維持に人生を捧げてきた。それに繋がるのならば、たとえ仲間であろうとも躊躇いなく、その首に刃を突き立てる男だ。


「あら、怖い怖い。カズキ、私に何をする気です? 乙女の柔肌に酷いことをしないでくださいね?」


 ウフフフフフフフフフフフフフ。アリシアの含み笑いが部屋に響く。


 剣呑な雰囲気が会議室に流れた。


 一触即発。テーブルの下に回されたアリシアの左手にはスマートフォンが握られ、今すぐにでも虎の子を呼び寄せることができる。


 そして、それはおそらく桑原の方も同じだった。


「穿頭教が来てんのに、内輪揉めをしてどうすんのよ?」


 今、この場で最高戦力を持っているのは京香だ。


 風邪を引いた時の様に頭が働かなかったが、マグネトロキネシスでこの場の全員を制圧ならば容易かった。


「清金さん、あんたがそんなに強くさえ無ければ、あんたも拷問に掛けるんだがなぁ。全く、過ぎた力を持つ人間は面倒だよ」


 肩に入れていた力を桑原は抜き、水瀬へと顔を向ける。


「で、水瀬さん、どうしますかね? このまま第二課と第六課の自由にさせておくのですか?」


「そんな筈はない。……アリシア、お前が俺達に穿頭教徒を引き渡すのは決定している。調査はいつ頃終わる?」


「後、五日程度ですね」


「その逃亡者は何処に居るのかね?」


「この場では言いませんよ。だって、カズキが聞いているんですもの。場所がバレたら、カズキは折角の素体を殺しに来るでしょう?」


「そうですなぁ。この会議が終わり次第、第二課と第六課が隠しているっていう穿頭教徒の抹殺命令を出すつもりですよ、第四課と第五課も巻き込んでね」


 第四課という言葉に、正確にはそこから連想される第四課主任、関口(せきぐち) 湊斗(みなと)にアリシアの眉がピクリと動いた。


「ほら、言った通りでしょう? 私はあの生体がどのようにしてPSIを発現しているのかを調べたいんです」


「……なるほど、双方の主張は分かった。どちらも譲る気は無い様だ」


 京香達、部屋に居る全員が水瀬の言葉を待った。どう言う決断であれ、ハカモリのリーダーは水瀬克則だ。


 沈黙は二分程度続き、水瀬が口を開いた。


「……五日後だ。アリシア、五日後、匿っている穿頭教徒の居場所を俺と桑原に教えろ」


「あら、ありがとうございます。私の希望が全面的に通るとは思いもしませんでした」


 アリシアが演技臭く、水瀬へと頭を下げた。だが、京香にも分かっていた。水瀬の言葉には続きがあるだろう。


「桑原、お前はお前で第二課と第六課が匿っている穿頭教徒の捜索及び抹殺をしろ。ただし、捜査官達への拷問や強制的な尋問は禁じる」


「ま、そこが落とし所でしょうな」


 しょうがないと言った様に頷いて、桑原が背後の充を連れて立ち上がった。


「私らは戻ります。さっさと第四課と第五課に協力を取り付けたいので」


「京香、またね~」


 ヒラヒラと充が手を振り、桑原達は足早に会議室を出て行った。


 閉じられたドアを見つめ、京香とアリシアも立ち上がった。


「清金捜査官」


「はい?」


 突然、名前を呼ばれ、京香は変な声を上げた。


「もしも、内輪揉めが起きたら、俺の権限で許可する。第六課で内輪揉めを止めろ。その際、穿頭教徒は殺しても構わん」


「……分かりました」

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