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⑤ 秘匿のパトロール

 振り向くと、そこに居たのは黒いパンツスーツを着て白いヘアバンドをした、快活な雰囲気を持つ女だった。


 背丈は平均程度、年頃は清金と同程度に見える。そして、後ろには三体のキョンシーが控えていた。


――確か、清金先輩と仲が良い……


「……坂口さんでしたっけ?」


「そ、第一課の坂口(さかぐち) (みちる)だよー。君は第六課の木下 恭介君だよね。京香から聞いているよ」


 アハハ。ヘアバンドを触りながら坂口が笑う。人を安心させる声で、恭介の大学時代にこういう女性は居た。


「坂口さんはパトロールですか?」


「そだよ。君も?」


「まあ、そうですね」


 霊幻程では無いが、ハカモリの職員達は定期的にこの時間シカバネ町をパトロールしている。


 特に坂口の所属する第一課の役割は治安維持。昼夜問わず、この課の人員はシカバネ町の悪事に眼を光らせているのだ。


――だとしても、キョンシーの数が多いな。


 恭介は坂口の背後にいた三体のキョンシー達へ目を向けた。体格は大中小。霊幻やホムラの様な戦闘用のチューニングがされているのは間違いない。


 普段の第一課のパトロールからすると、一人の人間に対して一体のキョンシーが付き従う。今の坂口が持つ戦力は明らかに過剰だった。


「坂口さんも穿頭教を探してるんですか?」


「そうそう。一昨日、ヤマダさんが交戦したって言うじゃん? 第一課と第五課フル稼働で捜索中なんだよね。どこに居るのか恭介君は知らない?」


 ジッと坂口の眼が恭介へと向けられた。


――探られている?


 恭介は表情を変えずに坂口の意図を推し量った。


 普通に考えれば、今の質問は深い意味を持たない世間話みたいな物だろう。自分と坂口どちらもが同じターゲットを探しているのだ。とりあえず情報を持っていないか聞くのは何らおかしくない。


 だが、もしも、第一課に〝第六課が穿頭教からの逃亡犯を匿っている〟情報が漏れていた場合、今の質問は恭介の動揺を誘う物に他ならない


「いや、僕も全然知りません。北区に逃げたってこと以外何も知りません。そこのミンミンってキョンシーに聞いてた所です」


「ミンミン?」


「このキョンシーです」


 恭介は一歩後ろに下がり、ミンミンを坂口へ見せた。


「オーウ、エロティック! え、恭介君、この店の御用達さん?」


「違いますよ!? 今日初めてこの店の前を通っただけですからね!?」


 何故、どいつもこいつも自分をそう扱おうとするのか。恭介は全力で首と手を振って否定する。


 おい、お前もどうにか弁明してくれよ、と恭介はミンミンへ視線で合図し、その意図は正しく伝わった。


「そうだヨ、オネエサン。このドエロイ人はミンミンのオッパイをガン見してたけど、今日は入る気が無いみたいヨ」


 だが、正しく入力されなかった。自律型キョンシーとはそういう物である。


「汚らわしい」


「……」


 ホムラとココミが言葉を吐き捨て、恭介から一歩距離を取った。


「いや、ちょ、ミンミンさん!?」


 坂口が得心言った様に手を叩いた。


「ダイジョブダイジョブ。私は軽蔑しないよ。第一課でもこういう店にハマっている人結構いるし、人の性癖にケチは付ける趣味は無いよ。何なら今日ここで会ったことは忘れても良いよ」


「誤解が解けねえ!」







「まあまあ、機嫌直してよ恭介君。ちょっと悪ノリしただけじゃん」


「いえ、まあ、もう気にしてませんよ」


 あれから恭介は坂口と共に北区をパトロールしていた。


 共に北区を回ろうというのは、坂口の提案であり、恭介にはそれを断る理由が無かった。


 もしも、探りを入れようとしているのだとしても、坂口と共に居た方が生存率が高まるのは明白だったからだ。


――さっさと帰るのは難しそうだな。


 坂口とパトロールするのだから、すぐに帰るのは不自然である。


 恭介はその旨を第六課のチャットアプリで伝え、坂口の隣を歩く。


 テクテクテクテク。先方に大型のキョンシー、それに続いて恭介と坂口、その後ろにホムラとココミ、そして最後尾に中型と小型のキョンシーが並んで歩いていく。


「恭介君のキョンシーはPSI持ちだったよね。パイロキネシスと一応エレクトロキネシスだっけ?」


「そうですね。戦力に成るのは設置型のパイロキネシスだけです。近接戦は基本的に無理だと思ってください」


「オッケー。今私が連れてるのはどれもPSI持ってないからさ。もしも戦闘に成ったら頼りにしてるよ」


「期待はしないでください。僕も戦える訳では無いんですから」


「んー、それじゃあ、こんな感じに協力しようか」


 互いが持つ戦力を口に出しながら、戦闘の際、どの様に動くのかを打ち合わせてしていく。


 恭介にはそれが新鮮だった。清金から教わる戦い方は、あくまで個人プレーで考えるべきで、今坂口が話す様な連携のやり方を教わったことが無かった。


 テクテクテクテク。北区を半分程度回った頃、八階建てのアミューズメント施設(ゆう)(らく)(てん)に恭介達は到着した。


「まあまあ、ココミ、見て見て、高い建物だわ。色々と遊べる場所があるみたい。ほら、映画館もあるみたいよ。今は名探偵ゴリンの映画をやっているみたいだわ。今度は砂漠に眠る黄金のバナナを探す話ですって」


「……」


 恭介の後ろ、ホムラがややテンションを上げていた。このキョンシーの眼にはこの施設の何もかもが新鮮に映っているのだろう。


 数か月前、ホムラとココミにねだられ、ユウパンマンの映画を見に来た記憶が恭介の頭に過る。フランスのモルグ島での一件で、ホムラはそれまでの記憶と記録を失ってしまった。故に、何度か来たことがあるはずの有楽天に新鮮さを感じているのだろう。


「それじゃ、怪しい所から探していこうか」


「了解です」


 有楽天を囲む一帯は北区で最大の歓楽街だ。数々の商店、娯楽施設が開業、廃業、増改築を繰り返しているため、キョンシー犯罪対策局でもその実態を把握できていない。


 今も何処かの路地裏や建物の中に素体狩りを目論む犯罪者達が息を潜めているだろう。


「穿頭教が逃げてきたのは一昨日です。協力者が居なければ、屋内には居ないと思います」


「そうだね。私もそう思うよ。というか、協力者が仮に居た場合、今の私達の装備じゃキツイから一旦撤退かな」


 良い。無理をせず、常に余裕を持って行動するのが生存率を上げる第一歩である。


「そう言えばさ、恭介君のキョンシー、ココミで索敵とかできないの?」


 テクテクテクテク。路地裏を回って行っていると、チラッと坂口がココミへ目を向けた。


 確かにココミのテレパシーを使えば、隠れている相手を見つけるのは容易いだろう。


 だが、それはココミが無理をした場合だ。


「ちょっと難しいですね。全力出せば行けます。ただ、それやったらホムラもしばらく動けませんよ。ピンポイントに何処かの地点とかなら、三回くらいなら使っても問題ありませんが」


 三回と言うのは恭介が根拠も無く言った数字だった。実際はもっと回数を増やせるのだが、ココミの脳への負担を極力下げるためだ。


「ふーん、三回までか。んじゃ、私が指示した場所とかに後で使ってみてよ」


「良いですよ。ココミ、聞いての通りだ。僕が指示した箇所にPSIを使ってくれ」


 ギロリとホムラが睨んでくるが、その視線に恭介は慣れている。


「……」


 コクリ。


 意思薄弱とした左眼を向けたままココミが小さく頷いた。


――本当は坂口さんが何考えてるのか知りたいんだけど。


 詳細なテレパシーを行うためには、一瞬とは言えホムラとのパスを切らなければならない。それをココミは断固として拒否するだろう。


――ままならないか。


 できない物はしょうがない。恭介はその手札を一度無視して、坂口とのパトロールを続けた。

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