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⑥ 護衛開始







「……はぁ」


「ため息か! 幸せが逃げるぞ? さあ、笑うが良い京香! 吾輩の様にな!」


 ハハハハハハハハハハ!


 604室を出て、京香は人恵会病院六階の空き病室、605号室のベッドに腰かけていた。


 しばらく、第六課は交代でここに寝泊まりすることに成った。


 基本的な護衛役は京香と霊幻であり、既に他の者達は帰らせている。


「ヤマダが着替えとか持って来てくれるのはいつ頃になるかしら?」


 着替えや生理用品、そして夕食などを持ってきてもらうため、京香はヤマダへセセラギ荘202号室の鍵を渡してあった。


「数時間後だろうな。優雅なディナーを嗜んでから来るに違いない。特に、今日、ヤマダくんは戦闘した。英気を養うのだろう」


「そうね、文句は言えないわ」


 京香はヤマダが交戦したという敵を思い出す。


 パーカーにニットキャップ。五人の人間に三体のPSI持ちキョンシー。


 間違いなく穿頭教だ。それも普通では考えられない過剰戦力である。


 それに加えて、穿頭教徒達はヤマダへ先生を――この場合、十中八九、桃島を――返せと発言している。大角達がハカモリへ逃げ込んだとバレているのだ。


 これが何を意味するのか。


「穿頭教に潜り込んだっていうスパイ。どうなったと思う?」


「死んでいるだろう。少なくとも人間の形を保ってはいまい」


「そうよね」


 ポスンと京香は体をベッドへ倒した。


 綺麗なシーツと柔らかな布団に体が沈み込む。サラサラとヒンヤリしていて気持ちが良い。


「誰でしょうね、死んだのは。アタシの知っている人なのかなぁ」


「知っても意味がないことだ。吾輩達はあの唾棄すべき狂信者達を撲滅するだけなのだから」


「分かっているわ。分かっているのよ」


 はぁ。京香はもう一度ため息を吐いた。この隣の部屋で大角と桃島が居るのだ。穿頭教の、今まで、何人もの人間を攫い、ばらし、穴を空けてきた人間達が。


 先程からずっと、頭の中で桃島がテレキネシスを使った映像が何度も再生されていた。


「ねえ、霊幻。アタシ以外で、PSI持ちの生体が出て来るなんて思わなかったわ」


「驚愕だったな! まあ、だが、死者(吾輩達)が扱える程度の力を、生者(お前達)が使えなかったことがおかしいくらいだった。穿頭教徒等に芽生えたのは業腹だがな」


「……キョンシーと人間にそんな違いは無いわよ」


「違う。それは違うぞ、京香。お前はキョンシーと人間の区別が昔から曖昧だ。吾輩はいつもの様に答えよう。吾輩達キョンシーは人間ではない。只の物言う肉袋だ」


「そ」


 京香はこれ以上今の会話を掘り下げない。きっと自分が傷つくだけなのだから。


 ……………………


 ………………


 …………


 ……


「早く、この仕事が終わらないかしら」


「今からでも撲滅しに行くか? 吾輩は一向に構わん」


 霊幻が右手を上げ、バチバチバチバチバチバチ! 紫電が激しくそこに現れた。


 このキョンシーは本気だろう。京香が許可し、命令すれば、高笑いを上げながら、隣の部屋に突撃するに違いない。


――それも良いかも。


 この鬱屈した感情を抱えるより刹那的な選択肢を取ってしまった方がよっぽどマシなのではないか。


 そんな思いが京香の中で泡と成り、弾けて消えた。


「駄目よ。アタシ達は、第六課はあいつらを護衛するって決めたんだから。なら、ちゃんとやらなきゃね」


「残念だ! もどかしい! 撲滅対象の安眠を守ってしまうとは!」


 ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ! 笑い声に京香は軽く苦笑した。


 気乗りはしない。それどころかモチベーションは最底辺だ。


 それでも。やらなければならない仕事だった。


 ならば、しっかりとしなければいけない。


――アタシは第六課の主任なんだから。


 京香は瞳を閉じる。


 瞼の裏で、懐かしき〝先輩〟の姿がよぎった。

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