Thief to Treasure Island
第三部開始です。
テーマは「師弟」に成る予定です。
月が出ていない十二月のある夜。
ギュルンギュルン。深夜の高速道路を一台の自動車が走っていた。
「やったぜ先生! これならどうにか間に合いそうだ!」
運転席に座るニットキャップを被った大柄な男が助手席の同じくニットキャップを被った男に何かを話しかけていた。
その声は逼迫していて、視線を何度もバックミラーに向けている。
彼らは逃亡者だった。
走る。走る。走る。ギリギリまでアクセルを踏み締めた自動車は風を切った。
道路の継ぎ目に車輪が跳ね、ガタンガタンと車が揺れる。助手席の男の体が前へと倒れ、シートベルトがハンモックの様にその体を吊らす。
「ごめんな先生! 俺運転あんまり得意じゃなくてよ!」
大男が左手で助手席の男を座席へと戻した。
助手席の男はピクリとも動かなかった。体は毛布で包まれ、青いニットキャップが被せられたその男の瞳が何処に向けられているのか、何処にも向けられていないのか、外部からは分からない。
「先生! ごめんな! こんな事、先生は望んじゃいないよな! でも、俺、バカだからよ! あんたがそんな風に成るのは嫌なんだ!」
大男は、先生と慕うこの男を攫って来たのだ。
チラリと大男はバックミラーを見た。深夜の高速道路、前後左右に他の車の姿は無い。
内輪揉めのどさくさに紛れて大男は先生を攫った。
それはどこまでも理不尽で、同志だった者達は決して許さないだろう。
先生と慕う、この男は夢の体現者なのだ。
見果てぬ夢の理想の姿。あり得ぬはずの理想像。目指してきたけれど、今代で叶うはずが無いと誰もが理解していた夢の形。
「あそこまで! あそこまで行けば何とか成る! あの町は俺達のことがだいっきらいなんだから!」
向かっている場所は敵が住まう総本山。
何度も争い、何度も攫い、何度も犯してきた宝島。
自分達は理想へ闊歩する貴き夢追い人。だけれど、世界から見ればどうしようもない悪人で、裁かれるべき罪人に見えているらしいと大男は知っていた。
そこに行ったら殺されてもおかしくない。
だが、大男には当てがあった。
「協力者があの町には居るんだ! そう、あの町なら――」
それを信じて大男はアクセルを踏み込む。
深夜の町にアスファルトをゴムが擦り付ける音が響いた。
「――シカバネ町なら先生を只の人間に戻してくれるんだ!」




