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⑬ 撲滅を放て




***




 京香が作り出した巨大なコイルは銃口である。


 PSI磁場によって螺旋状に固められた砂鉄の銃口を京香はおよそ一キロ先で戦っているアネモイへと向ける。


 巨大なコイルからは二本の砂鉄が伸び、その両端を横の霊幻が掴んでいた。


「霊幻、準備は?」


「万全だ! いつでも紫電を出してやろう!」


「オッケー。ヤマダ、マイケル、やるわよ」


「えエ」


「了解。いつでも良いぜ」


 既にヤマダ達は準備を終えている。


 後ろに居たヤマダはラプラスの瞳を装着してセバスチャンに抱えられている。


 そのすぐ近くでマイケルがガラスが散乱する床にノートパソコンを置き、そこからは霊幻の背中へコードが伸びていた。


 京香達の視線はコイルの銃口の先、荒れ狂う竜巻の中に居るアネモイ。この距離では羽虫の如き小ささで、肉眼で観測するのは困難だ。


「ヤマダ、照準をお願い」


「分かってマス。セバス、lift(持ち上げて)


 セバスチャンの体から無数に伸びた血の触手はその先端にハンカチが被せられ、うねうねと巨大コイルへ伸び、四方八方からその周囲を持ち上げた。


 直後、砂鉄の銃口は血の触手によって細かに向きが微調される。


「マイケル、アネモイの防御はどんな感じ?」


「空気を固めて壁にしているぜ」


「その壁は破壊できる?」


「密度とPSI力場の強度的に鉄球一つで一つの壁を破壊できるはずだ」


 霊幻の眼を通してモニタリングされた戦闘映像からマイケルがアネモイのPSI力場について判定する。


「……後は恭介からの合図を待つわよ。全員集中して」


 京香は足元に置いていた八つの鉄球を浮かし、その全てを一列に砂鉄のコイルの前に浮かした。


「ハハハハハハハハハハハハ! 待ち遠しい! 撲滅まで後少しだ!」


 すぐ横で霊幻が笑う。その握られた両手は今か今かと紫電を放つのを待っていた。


「もう少し待ってなさい」


 今しようとしているのは合体技だ。


 仕組みは至極単純。京香が作り出したコイルに霊幻が電流を流し、コイル内に発生した超強力な磁場で鉄球を発射する。アンペールの法則を用いた一般的なコイルガンと全く同じだ。


 超遠距離攻撃であるこの技において、ヤマダとセバスが銃口を微調整し、命中率を上げている。


 また、照準に全神経をヤマダは集中してしまうため、敵のPSIや妨害についてはマイケルの担当である。


 正に第六課の総力を決した必殺技。誰一人欠けたとしても成立せず、撲滅には至らない。


 京香はヤマダとセバスチャン、マイケル、そして最後に霊幻を見た。


「さあ、撲滅を始めましょう」


 頭のスイッチを切り替える様に宣言する。


 今から自分はあのキョンシーを撲滅させるのだ。


 それを強く意識しなければいけない。


「ハハハハハハハハハ! その通りだ相棒! 撲滅の時間だぁ!」




 ビュオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!


 ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー!


 ビュウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ!


 割られたガラス壁から風と雨が展望室に吹き込む。


 アネモイを狙って、コイルの銃口が右に左に周回軌道を描く。


――恭介の合図は?


 観測できるのは竜を象った竜巻のみである。


 あの後輩に与えた仕事は〝アネモイの動きを鈍らせ、その瞬間を伝えること〟。


 京香達が気象塔の展望室、すなわち狙撃ポイントに到着したことは恭介も気付いているはずだ。


 後は合図を待つだけ。


 外してはならない。京香達が持つアネモイを倒せる手札はこの狙撃だけだ。


 ポンと霊幻が京香の肩を叩いた。


「京香、肩の力を入れ過ぎるな。ヤマダくんが照準を、吾輩が出力を担当している。お前は引き金を引くだけだ」


「はいはい。心配してくれてありがと。アンタはアタシの砂鉄を握ってなさい」


 肩に置かれた手を剥がし、京香は笑う。相棒の眼には緊張していたのが筒抜けだったらしい。


――アタシもまだまだね。


 ふー。息を整えて肩から力を抜いた。


 ヤマダとセバスチャン、マイケル、そして霊幻。全員を信じるのだ。誰もが自分よりも前から第六課に居て、自分よりも優秀なのだ。


――落ち着いて。PSI磁場の動きに集中して。


 ズキッ! 痛みが頭に走る。問題ない。まだまだ余裕があった。


 蘇生符で中央が遮られた視界。キーンとした小さな耳鳴り。血の香りを感知する嗅覚。消失した味覚。


 自分にしか分からない特別な世界。父と母が与えた贈り物。この世界は京香の揺り籠だった。


 心に凪が生まれる。余分な感情は消え、ただ一つの機能を果たす〝キョンシー〟に成る感覚。


――今なら当てられる。


 マイケルが叫んだ。


「来るぞ、パイロキネシス!」


 マイケルの言葉通りだった。京香の視線の先、一キロメートル先、雨と風に飲まれても見える真っ赤な炎の塊が生まれた。


 ホムラのパイロキネシスだ! あの炎の場所にアネモイが居る!


「霊幻!」


「おう!」


 バチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチ!


 霊幻の両手から全力の紫電が放たれ、京香が作り出した螺旋状のコイルへと電流が流れ出した。


 アンペールの法則に従って、コイル中央へ激烈な鉛直磁場が発生する!


「ヤマダ』」


「ばっちりデス。外しませン」


 ヤマダの声はいつでも自信有り気だ。


――良し。


 弓の様に直列に並んだ八つの鉄球を引いた。


 視線の先で炎の塊と成ったアネモイが厚い雲のすぐ傍でゆっくりと落下している。


 感覚を合わせる。今ここで風の神を撃ち落とすのだ。


――撲滅を


 引き絞った鉄球を屋の様に放つ。


 バチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチ!


 直径六十センチのコイルの中央に吸い込まれた鉄球達は、コイルの内部に発生した巨大電磁場によって超加速した。


「放てぇ!」


 鉄球に働く加速度は一万メートル毎秒毎秒。長さ三十メートルのコイルの銃身をコンマ一秒以下で通過し、マッハ2の速度で八つの鉄球が射出される!


 ババババババババアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!


 空気の壁を突き破りソニックブームが生まれ、鉄球が作り出した減圧が空気中の水蒸気を凝固させてベイパーコーンが発生した。


 放たれた鉄球は遥か先のアネモイへと飛んでいく!


「行って、霊幻!」


「任せろ!」


 マントはなびかせ、京香の相棒は走り出し、展望室の割れたガラス壁からジャンプする。


 その背中には()()()()()()()()()が背負われていた。

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