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⑨ 聖域の破壊




***




 京香が放った鉄球は石壁の奥に居たキョンシー達の体を撃ち抜いた。


 ゴキャメキャと形容すべき音が部屋に響き、体が砕けた三体のキョンシー達が向かいの壁へと叩き付けられ、物言わぬ死体へとその体を戻す。


「『……はぁ、はぁ』」


 部屋の中央にて京香は床に足を付け、警戒しつつも息を整えた。足元には山に成った砂鉄と少々凹んだ鉄球が落ちている。


 頭が茹る感覚、短時間にPSIを使い過ぎたのだ。


「さてさて、持って帰るぞぉ~」


 マイケルがリュックサックから銀色のタッパー三つを取り出し、京香がかち割ったキョンシー達の脳を嬉々としてその中へ移す。この戦いが終わったら調べるつもりなのだろう。


――後、半分くらいかしら?


 自分が本日使えるPSI量を推定する。脳の重さ、視界の揺れ、意識の沈下。それぞれの情報を包括的に読み取り、直感で判断した。


 一日に使えるPSI量において、京香が持つそれは一般的なPSI持ちキョンシーよりも上である。全力全開でアクティブマグネットを起動したとして、最低でも三十分は戦えるのが清金京香の強みだ。


 マイケルの脳回収が終わる頃には息は整い、京香は再びアクティブマグネットを起動した。


「霊幻の所に戻るわよ」


「おう。良いね良いね最高だ! 今日は三つもPSI持ちの脳が手に入った!」


「それまだ使えるの?」


「知らん! 測定できるだけで俺は満足さ!」


「そ」


 軽口を叩きながら京香はポンと自分が開けた石壁の大穴から飛び降り、霊幻の元へ戻った。







「おお、京香! 見事に撲滅できたようだな! 吾輩は信じていたぞ!」


「ちょ、痛い痛い。背中を叩くな」


 ハハハハハハハハハハ!


 戻った時、霊幻の足元にはテレキネシスト達が倒れ伏していた。どのキョンシーにもこれと言った外傷は無く、紫電を浴びた様子もない。


「霊幻! こいつらはどんな感じに倒れた!? 俺に言ってみてくれ!」


「おお言ってやろうではないかマイケル! 吾輩も驚いたぞ! 急に力が抜けた様に倒れたのだからな!」


「フゥ~! 仮説通りだぜ! やっぱりこいつらはテレパシーで繋がっていたんだ!」


「流石だマイケル! 吾輩達のキョンシー技師はそうでなくてはな!」


 HAHAHAHAHAHAHAHA!


 霊幻とマイケルがアメリカンなハイタッチを京香はげんなりと見た。


「はいはい。それじゃ行くわよ。マイケル、そのリュックにはちゃんと()()が入っているでしょうね?」


「勿論だとも! 俺様の発明を見せてやるさ!」


 背負っているリュックサックをどさりと揺らしてマイケルが狸腹を揺らした。







 京香は霊幻とマイケルを連れて気象塔に戻り、その最上階、展望室へと入った。


「おかえリなさイ、キョウカ」


「ん、ただいま」


 展望室には既にヤマダとセバスチャンが居た。彼女は中央のソファに優雅に座り、セバスチャンが用意したのであろう紅茶を水筒で飲んでいる。


 ぐるりと京香は部屋を見渡した。


 キャンディの置かれた中央のテーブル。そしてそこで談笑する為のソファ。眠りながらでもモルグ島を一望できる様に東西南北に設置されたベッド。モルグ島に来て一度だけ訪れたこの部屋にはアネモイが居た証が残っていた。


 そして、展望室の強化ガラスの向こう側ではアネモイとアネモイ2の姿が見える。


 気象塔を中心として複雑な円軌道を描く二体の風の神はモルグ島の空を自由自在に乱していく。


「わーお、すごいわね。あれ何? 竜巻じゃん。でっか、何でドラゴンの形してんの?」


「ハハハハハハハハ! 吾輩の紫電とはスケールが段違いだな!」


「すげえすげえすげえ! ああ、アネモイの脳弄り回せねえかなぁ!」


「いっそ猫とかを作れば良いのニ」


 京香、霊幻、マイケル、ヤマダは四者四様の反応をした後、それぞれの仕事に取り掛かった。


「霊幻、壁壊して」


「了解だ! 三人とも耳を塞げ!」


 ハッハッハッハァ!


 バチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチ!


 一際強い笑い声と共に急速に紫電のエネルギーが霊幻の拳にチャージされる。


 そして、霊幻はそのまま自身の運動能力、クーロン引力と斥力、その全てを総動員して、展望室の厚い強化ガラスへと突撃した!


「ラアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」


 発光した拳が壁面へと激突し、瞬間、溜められていた紫電のエネルギーが一息に解放された!


 バッチイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイィィィィィィィィィイン!


 ガラス壁面に落ちる落雷は空気の絶縁性を破壊し、稲妻の音が展望室に響く。


 ゴォロゴォロゴォロゴォロゴォロゴォロオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!


――うるさ!


「ハッハッハァ! まだまだぁ!」


 ゴォロゴォロゴォロゴォロゴォロゴォロオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!


 ゴォロゴォロゴォロゴォロゴォロゴォロオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!


 ゴォロゴォロゴォロゴォロゴォロゴォロオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!


 霊幻は展望室を縦横無尽に落雷し、ガラス壁を破壊していく。


 初めはひび割れ、そして砕け、それが壁全体に広がるまでそう長い時間は掛からなかった。


 あらかたの強化ガラス壁が割れ、静謐な聖域だった展望室は無残な姿に様変わり。


 中央のテーブルは倒れキャンディは散乱し、ソファは紫電を受けたのか焦げて中から綿が飛び出している。東西南北に設置されたベッドは全て気象塔の下へと落ち、砕けたガラスが散乱していた。


 厚いガラス壁で守られていた展望室と荒れ狂うモルグ島の空が繋がる。


 ビュオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!


 ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー!


 ビュウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ!


 横殴りの風と雨が京香達の体を打ち付けた。


 視線の先で、アネモイとアネモイ2が飛び回っているのが見える。そこには彼女の後輩である恭介とホムラとココミの姿もあった。


「霊幻、久しぶりの共同作業よ」


「ああ! 吾輩は嬉しくて高まっているぞ!」


 京香の蘇生符が強く銀色に輝いた。それと同時にPSI磁場の出力が上昇する。


 PSI磁場に付き従い、砂鉄が特定の形へとその姿を変えていった。


――硬く、固く、密度を込めて。


 生まれ出でる磁力を高め続け、そうして砂鉄が形作ったのは、長さ三十メートル、直径六十センチの鉄製の()()()だった。


 その長い鉄のコイルを京香はアネモイへと向ける。


「さあ、風の神を撃ち落とすわよ」

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