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⑧ 重なる世界

――何か、何か出来る事は!?


 荒れ狂う視界。三半規管など役に立たない。その中で恭介は思考する。今ここでできることは何か。引き受けた仕事を完遂するために一体何が必要か。


 考えた結果、恭介は()()した。


――ココミ! 聞こえてるな!? 返事をしろ!


――早く! テレパシーでも何でも良い! 僕と繋がれ!


――答えないなら、勅命するぞ!?


 連続して恭介は思考する。意識した言語化された思考はほとんど胸の中で話しているのと同等だった。


 ココミの声が悩蓋に響いたのはすぐだった。


(……なに?)


 ぐわんぐわんとした目眩が恭介を襲う。だが、何にも問題ない。既に視界は大暴れだ。


――良し!


 ココミは自身のテレパシーのリソースほぼ全てをホムラの思考機能の補助に使っている。故に報告書にあった様な長距離での思考盗聴や、複数のキョンシーの操作などは使えない。読み取れる思考範囲は精々十メートルで、過去の様にはっきりと思考を読み取るのは集中しなければ無理と成った。


 たとえば、人間は言語化された思考を持つ生き物だが、四六時中言葉で考えて生きている訳では無い。感覚的な思考は今のココミにとって読み取るのが難しい。


 しかし、それはテレパシーを受ける側の意識で多少調整できる。


 意識して言語化した思考をすればココミがそれを読み取れるのだ。


――お前なら今アネモイがどこに居るか分かるな!? アネモイ2と繋がってるんだから! 位置座標だけで良い! 僕と共有できるか!?


(……できる。けど、頭が痛くなる。お姉ちゃんも怒る)


――そんなこと言ってる場合か! やれ!


 文字通り無言の命令にココミは速やかに従った。


 テレパシー用に調整したPSI力場感知コンタクトレンズを通して、恭介はココミの額から出たテレパシーの糸が自分に繋がるのを見た。


(左眼と聴覚を使う)


 瞬間、恭介の左の視界と聴覚がテレビのチャンネルの様に切り替わった。


 ズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキ!


 同時にココミが言った通りの頭痛が生まれた。痛みは左眼の奥から生まれ、まるでネジをそこで回している様だった。


「イッタァ!」


 恭介は声に出して痛みを認識した。痛い。今自分は痛みを感じている。アネモイの聴覚を介してるのだろう。耳を硬く塞いでいるはずなのに音を認識できた。


 正しい認識は正しい対処に結び付く。恭介にはそう言う信念があった。


 右眼と左眼、見える世界が全くの別物だ。


 右眼は荒れ狂い、為すがままに回転する世界を見ている。


 対して、左眼の視界は穏やかだった。高速で動き回っているが、その動きには明確な意図があり、視界の中央に捉えようとする対象が居た。


 恭介の左眼が繋がっている対象はアネモイ2、そして視界の中央に居るのはセリアとアネモイだ。


――右眼は繋がないのか!?


(そんなことしたら痛みは二倍)


――了解! このままで良い!


 恭介は右眼を固く閉じた。今は自分本来の視界など邪魔でしかない。


『力比べをしようか!』


 アハハハハハ!


 アハハハハハ!


 アハハハハハ!


 アネモイ2の視界に見えていた物は気体分子で作られた無色の戦争だった。


 二体のアネモイの中央にはトルネードの牙と爪が衝突し合い、互いの周囲では敵を刺し貫かんと風の刃や槍がノータイムで生まれ、そして互いの干渉によって掻き消されている。


 一手でもミスをすればどちらかの気体の刃がもう一方を刺し貫き、磨り潰すだろう。


 ビュオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!


 ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー!


 ビュウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ!


 更に雨風強くなった。旅客機さえ墜落させるというダウンバーストが至る所で生え、空気の塊がモルグ島へ降り注ぐ。


 竜巻、槍、刃、壁、何物も縛ることない空の中で、空気の彫刻が互いの存在を消そうと生み出され、そして弾け続けていた。


 ズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキ!


――これは?


 アネモイ2の視界を通して恭介は気付いた。アネモイの方がエアロキネシスの発動速度が上だ。


――どういう事だ?


(雲。アネモイは雲の中でもうエアロキネシスを作り終わってる)


 頭で響くココミの言葉で恭介も気付いた。


 ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ! ヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュン! ビュウウウウウウウウウウウウウウウウウ! ビュオオオオオオオオオオオ!


 アネモイが生み出す気体の作品達は主に厚く黒い雨雲の中から生まれていた。


 理屈は分からない。だが、あの雲がアネモイ攻略に邪魔なのは確かだった。


『アネモイ、雲は消さないのか!?』


『無理だねぇ! あそこの空気の制御権はあっちにあるから!』


 アハハハハハ!


 アハハハハハ!


 アハハハハハ!


 地の利、いや、この場合は空の利とでも言うのだろうか。モルグ島の空の制空権。それがそもそもアネモイの方が多く持っているのだ。


 これは曲がりなりにもヨーロッパの空を支配し続けた先代ゆえの特権なのだろう。悪態を付いても意味が無い。


 恭介は考える。配られた手札。選べる戦略。得られる結果。どれが最も好ましい?


――必要なのはタイミング。合図はいつだ?


 合図を待つ。恭介に求められたのは号令役。ある特定の合図の後、彼には最大の仕事が待っているのだ。


『さあ、次つぎツギぃ!』


 アネモイ2は笑い、再び牙と爪を持ったトルネードを生んだ。


 ゴオ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛!


 ゴオ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛!


 ゴオ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛!

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