④ 複製PSI
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「ちっ!」
京香は強く舌打ちした。マイケルを連れて気象塔に戻る途中、キョンシー達の襲撃を受けたからだ。
オオおおおおオおオオおオオオオオオおオ!
おオオおおおオおオオおおおおおオオオオ!
おオオオオおおオオおオおおおおおオおオ!
オおおおオオおおおオおオおおおオオオオ!
オおおおおおオおオおオオオオおおオオお!
「ワーオ! テレキネシスだぜ!」
襲ってきたのは五体のキョンシー。放出型でしかも一般的な力球を放つテレキネシストだ。背丈は五体ともヨーロッパの成人男性の平均程度で京香よりも高く霊幻よりも低いくらいで、全てのキョンシーが身の丈を遥かに超えた大型のハンマーを持っていた。
向かって来る力球に、京香の砂鉄で持ち上げられ、自身の体格と同じくらいのリュックサックを背負ったマイケルが興奮して拍手している。
「霊幻!」
「分かっているさ!」
京香が命令を出す前に霊幻はバチバチバチバチ! と帯電しながら敵のキョンシーへと突撃していく。
このキョンシー達の装備とPSIはモルグ島で度々戦ってきたキョンシー達と同じ物だ。
クルクルクルクルクルクルクルクルクルクルクルクル!
ザアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!
京香は鉄球と砂鉄を操りながら力球を回避する。だが、敵は肉体改造をこれでもかと施されたキョンシーで、純粋な身体能力は遥か上である。
「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!」
突貫した霊幻がハンマーの嵐を避け、敵へ紫電を浴びせるが、電流が全て地面へと流され致命傷には至らない。
身体スペックの差を考えれば奇跡的なことに霊幻は壊されず一進一退の攻防を繰り広げているが、それでも取りこぼすキョンシーは出て来る。
五体居たキョンシーの内、二体が京香とマイケルへ突撃してきた。
オオおおおおオおオオおオオオオオオおオ!
おオオおおおオおオオおおおおおオオオオ!
オオおおおおオおオオおオオオオオオおオ!
おオオおおおオおオオおおおおおオオオオ!
「くそっ!」
京香は地面と足元の間の磁力反発を強くし、まるでスケートの様に後方へと下がって力球を避けた。そして、同時に八個の鉄球を向かって来る二体のキョンシーへ放つ。
だが、鉄球はハンマーで弾かれ、開いた距離も一瞬にして詰められた。
二つの鉄槌が振り下ろされる!
「舐めるな!」
京香は敵のキョンシーごと前方へ左方向への磁場を発生させた。
ハンマーの軌道が作り出した磁場に従ってズレる!
ガガッキキイイいいいイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイン!
二つの鉄槌は地面を砕き、雨音でもかき消せない程の破砕音を鳴り響かせた。
「やっぱり鉄が混ざってたわね!」
キョンシーが持つ巨大なハンマー。重さ、そしてその硬さからして、京香はそこに鉄が使われていると睨み、その予想は当たっていた。
鉄が混ざっているのなら、磁力で操れる。京香のアクティブマグネットでぎりぎり対処できる攻撃だった。
オオおおおおオおオオおオオオオオオおオ! おオオおおおオおオオおおおおおオオオオ!
オオおおおおオおオオおオオオオオオおオ! おオオおおおオおオオおおおおおオオオオ!
ハンマーが躱されたとみるや否や、キョンシー達の額から力球が生まれ、至近距離で京香へと放たれる。
「ちっ!」
体に当たる直前、京香は鉄球を力球へとぶつけ、左右上下へと弾いた。
PSI力場に依る質量を持った力球。身体に当たれば只では済まないが、硬さを持つが故に鉄球で防げる攻撃でもあった。
その時、京香の後ろで砂鉄に包まれて浮いていたマイケルが怪訝な声を出した。
「何だこりゃ?」
テレキネシスト達は京香が作り出した磁場の中でハンマーを力任せに振り回していた。
京香のほぼ全意識が攻撃を対処し、反撃の糸口を探す事に使われている。
「どうしたのっ?」
だが、京香はマイケルへ問い掛ける。キョンシー技師として彼の能力を認めていたからだ
「京香、こいつらのPSIおかしいぜ? 全く同じPSIだ」
「はぁ?」
「似ているテレキネシスってレベルじゃねえ。こいつらのPSIは力場に至るまで全く同じだ!」
「で、何か打開策はあんのっ!?」
京香は右手を振って鉄球をテレキネシスト一体の肩へ放つ。当たりはしたが肩を砕くには至らなかった。
マイケルが自分の思考を纏める為にぶつぶつと呟き始める。
「テレパシー? いや、力場の感知は無い。偶々同じ力球。それも考えられない。PSIは脳によって千差万別。差異が生まれないなんてありえない。だが、今俺の前には全く同じテレキネシスが見えている。……無線? できるのか? 背後に高原が居ると仮定して、可能性は」
マイケルが思考を纏めるのに五秒かそこらの時間が掛かった。
京香はハンマーと力球の嵐の中を磁力で飛び回り踊り狂う。
「京香、どのキョンシーでも良い! 頭を割って脳を見せてくれ! それで仮説が検証できる!」
「無茶言うな!」
「仮説が当たれば勝機があるぜ! 外れても次の仮説がある!」
「ちっ!」
京香は強く舌打ちした。腹立たしいが、キョンシーにおいてマイケルの仮説が役に立たなかったことは無い。
ビュオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!
ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー!
ビュウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ!
雨音に負けぬ様、京香は叫んだ。
「霊幻、聞こえてたわね! 手伝いなさい!」
「おうとも! こいつで良いか! 持って行け!」
テレキネシスト三体を相手取っていた霊幻は既に一体を破壊していた。力球が掠ったのか、右頬は半壊し、金属パーツが露出している。
霊幻が足元のキョンシーを蹴り飛ばし、京香とマイケルのすぐ近くにキョンシーの死体が転がる。
「サンキュー!」
京香はその頭蓋へ鉄球を放ち叩き割った。
ガコともボコともとれる空虚な音が響いた。
――?
二体のテレキネシストの猛攻を捌きながら無理やり放った鉄球。その音に違和感を覚えた。
京香にとってキョンシーの頭蓋を叩き割った経験は一度や二度ではない。頭を金属化しているとしても、その奥にあるのは柔らかく水っぽい脳みそであるはずなのだ。
その脳みそを潰す音がしなかった。
オオおおおおオおオオおオオオオオオおオ! おオオおおおオおオオおおおおおオオオオ!
オオおおおおオおオオおオオオオオオおオ! おオオおおおオおオオおおおおおオオオオ!
力球とハンマーを受け流しながら、京香はチラッと今しがた頭蓋を砕いた、キョンシーの頭の中身を見る。
そこには何も入っていなかった。
いや、正確には肉片は入っていた。だが、それは京香の見慣れた人間の大脳では無く、小脳しか入っていなかったのだ。
――他のキョンシーも同じなの?
「ハッハァ! さすが高原 一彦! 狂った発想だぜ!」
マイケルが笑い声を上げた。
「どうすりゃ良いの!? そろそろ限界なんだけど!」
ガキンガキンガキンガキンガキンガキン! 鉄球と力球、砂鉄とハンマーが衝突する中、京香はマイケルへ問い掛ける。
「京香! 近くに本体が居る! そいつを破壊すれば全員もれなくお陀仏だ!」
どういうことなのか分からない。マイケルが何に気づいたのかも定かではない。
しかし、京香はノータイムで霊幻に指示を出した。
「霊幻、こいつら全員相手しな! アタシとマイケルは本体を探す!」
「了解! 長くは保たんぞ!」
「大丈夫、アンタなら出来るわ!」




