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④ 不聞の密談




***




「……」


「スー、スー」


 午前九時半。恭介達は居住スペースに戻っていた。ホムラとココミは既に眠っており、穏やかな寝息が聞こえる。


 恭介は窓際の椅子に腰かけて、スマートフォンのメールでアリシアへ報告をしていた。


 また、記憶を失ったホムラと話せる様に成ったこと。


 清金京香の負傷はまだ治っていないが、立ち上がって移動する分には問題が無いこと。


 アネモイからアネモイ2へのPSIインストールは順調であること。


 そして、後三日で恭介達の作業が終了する見込みであること。


「……後、三日か」


 モルグ島に来て二週間弱。やっと終わりが見えてきた。まだまだ、油断はできないし、最終日に行われる清金と霊幻によるアネモイ現行機の破壊がどこまでスムーズに行くかも不明である。


 しかし、恭介が今回求められた、ココミのテレパシー使用を適切に管理するという仕事は一先ず成功しそうだった。


 ビュオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!


 ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー!


 ビュウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ!


 外の嵐は図らずも恭介達にとって都合良く働いた。この雨風の中、外に出る人間は居らず、装甲車の様な車でない限り、車での移動もほぼ不可能だった。そのため、初日や一週間前の様な襲撃者の存在は無く、ココミへの護衛が最小限で済んだのだ。


 恭介は自分達の居住部屋の入口へ目を向ける。そのドアの先には霊幻が仁王立ちして恭介達を守っている。清金は傷が開くといけないため、隣の部屋で一応安静にしていた。


 本当ならば霊幻か清金にもこの部屋に居てもらった方が良かったのだが、ホムラがそれを強く反発したのだ。


 信用できない奴らをココミの傍に置きたくない。それがホムラの主張であり、できれば恭介もこの部屋から出て行って貰いたかった様だ。ホムラと培ってきた筈の第六課の信頼は全て燃え尽きて、また初めからである。


 モルグ島に潜伏していると思われる高原をヤマダが探しているが、まだ見つかっていない。偶に第二課に来て操作の手伝いをするあの態度の大きいメイドの捜査力はとても高い。そんな彼女でも使い慣れた設備が無いモルグ島での人探しは難しいのだろう。


「……良し、と」


 アリシアへの文章を一通り書き終え、一度読み直した後、恭介はそれを送信した。


 正にその時である。


(――)


 頭の中に〝声〟が響いた。


(聞こえてる?)


 恭介の頭に響いたその声はホムラの物と全く同じだった。


 ギョッと恭介は部屋を見渡した。


(こっち。私が今話しかけてる)


 頭の中で強制的に違う人間の声で思考させられている感覚。椅子に座っていなければ倒れてしまったかもしれない。


 恭介はココミへ目を向けた。


「……」


 ココミは瞼を閉じたままで、眠っている様に見えた。


(声は出さないで。おねえちゃんが起きちゃうから)


――……テレパシー、なのか?


 ぐわんぐわんと恭介は目眩に襲われた。自我が二重に成っている。今自分が何処を向いていて、何処に自己の中心があるのかが急速に薄れていった。


(そう。テレパシー。私のPSI)


 考えただけなのに、ココミの声がまるで返答する様に中で響いた。誰にも聞くことができない強制的な無音の密談だ。


――でも、おかしい! 首輪の制御は解除してない!


(操るのは無理。でも、話すくらいのテレパシーなら、この首輪をされてもできる)


――マイケルさんが聞いたら飛んで喜びそうだな。くそっ。


 恭介は苦笑する。なるほど。これがPSI。テレパシー。人間が受けたらひとたまりも無い。


――で、何の用? 僕を殺すのだけは勘弁して欲しいな。まだ、やりたいこともやらなきゃいけないことも色々あるんだ。


(知ってる。私はテレパシストだから)


――そうかい。


(でも、今話したいのは違う話。今から私が気づいたことを伝える。後はどうにかして)


 瞬間、大量の情報が一挙に恭介の頭に流れ込んできた。


 その情報は嵐の様。視界がホワイトアウトとブラックアウトを交互に繰り返した。


 嵐が収まった時、恭介の頭に響いていたココミの声と、このキョンシーと繋がっているという感覚は跡形も無く消失していた。


 ズキ! 微かな、しかし、それでもはっきりとした頭痛を恭介は感じた。


 しばらく、恭介は頭を押さえ、思考を纏める。今、ココミに伝えられた情報が何を意味しているのか。そして、自分はどう動くべきなのか。


 どちらにせよ、恭介にはココミに言いたいことがあった。


「もっと早く言えよ……」


 恭介は恨めしく文句を言った。


「……」


「スー、スー」


 ココミは返事をせず、ホムラの寝息だけが部屋に響いた。

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