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妖精の正体

作者: KAZU

 ここは、歴史の解明の下請けをする部署『サマナーソサエティ』。人数は8人で、本社からは相当遠い場所にある。彼らは落ちこぼれと言えば落ちこぼれだ。しかし、本人たちはそうは思っておらず、今日も張り切って勤務をしている。


「もう10月も終わりか」


 この、彼は田中隆二(たなか りゅうじ)。仕事の腕前はここでは平均的つまり職務遂行能力は低い。さらに上司に口語で話すなど、ラフというか、人と少し感覚が違う。


「田中さん、今日はハロウィンの案件でしたね。できましたか?」


 このセリフは佐藤綾乃(さとう あやの)のものだ。隆二とは後輩であるが、席が隣なのでよく話をしている。そのおかげで隆二は大抵仕事の進捗が遅い。


「いや、もう今日にでもするぞ。いい加減やっておかないと、なあ綾乃」

「そ、そうですよね。まあ、田中さんなら」


 綾乃は名前で隆二に呼ばれるのが嫌いだが、もうすでに諦めている。


「で、隆二のテーマは」


 彼は、浪漫星夜(ろまん せいや)。とんでもない名前で、服装も黒いハットに赤いカッターシャツを着ている。ちなみに、隆二と同期入社である。


「俺はハロウィンの起源を探ろうと思う」

「やっぱ、起源といえば田中さんですよね」

「まあ、あれは日本最大の大コスプレ祭りだからね」


 綾乃と星夜はそう答える。ハロウィンが日本最大のコスプレ祭りだというのは星夜だけなので、このときの隆二と綾乃の目は死んでいる。


「は~い、お待たせ~、隆二くん」


 彼女は『サマナーソサエティ』のチーフ、山本澄蓮(やまもと すみれ)だ。長い茶髪とグレーのスーツがトレードマークだ。


「あ、澄蓮さん、おはようございます」

「隆二くん、早速だけど、トリップの支度お願いね」

「りょっす」

「了解ですって」


 澄蓮は隆二の上司だが、非常に砕けた言葉を投げてくる。澄蓮はある理由から黙認しているが、綾乃は隆二の言葉を敬語に訳して伝えることがある。隆二はある場所へ向かった。


「田中さんとリーダー、2人でトリップか、いいなー」

「佐藤さん、僕とコスプレ大会なんてどうです?」

「お断りします!私は私の仕事があります。今日はコスプレ衣装の妖精の羽を調べるってね!」

「じゃあ、コスプレ大会でいいじゃないですか」

「普段からコスプレしてる不真面目な男なんて要りません」


 綾乃は笑顔で、結構酷い言葉を聖夜に投げつける。聖夜は仕方なしに部屋から出たものの、また来ないチャンスをうかがっていた。


 その頃隆二が向かったのは、本棚がたくさんある図書館のような場所だ。この奥にカプセルのようなものがある。実は、そこから先ほど澄蓮が言っていた『トリップ』ができる。


 隆二はマシーンを起動させた。いつもは手動入力だが今日は行き先が自動入力されていた。


「今回は・・・3000年前のイギリスに行くのか?」

「そうよ」

「澄蓮さん」

「起動ありがとね、じゃあ行こうか?」


 隆二と澄蓮はマシーンの中に入る。それはいいのだが、隆二には澄蓮が手をつないできたことに疑問が残った。


「別に手をつなぐ必要ないっしょ?」

「はぐれたら嫌でしょ?」

「前綾乃と行った時は行けたぞ」

「うーん、いいじゃない」

「は、はあ」


 隆二ははっきりと否定できなかった。綾乃の時と比べると、明らかに手をつなぐ必要はなかった・・・。


「はやく行きましょう」

「あ、ああ、じゃあ行くぞ3000年前のイギリスへ!」


 隆二は移動ボタンを押した。2人の転移が始まり、3000年前のイギリスへ移動した。




「着いたー!」


 隆二と澄蓮は3000年前のイギリスに到着した。すると早速武装した住民がいた。


「何だあれは?」


 雰囲気がおどろおどろしい。それより隆二は彼らの装備している物に疑問を持った。


「あれは石器の武器じゃないのか?ここは石器時代なのか?」

「まだ青銅器時代じゃないからね。それより、後ろから来るよ!彼らの装備を見て!」


 隆二と澄蓮の背後から別の武装集団がやってきた。彼らの方はというと、光沢のある装備品を身に着けていた。


「あれは鉄器じゃないのか?勝ち目がない!」

「フランス方面から来たケルト人ね」

「ケルト人?」

「大陸側にいた当時の支配民族よ、さあ、行くよ!」


 二人は木の幹に隠れた。この武装集団には二人の姿は見えないので隠れる必要はないが、念のため。隆二は澄蓮に肩を抱かれ、後方に押し込められる。


「澄蓮さん、強引っすよ!」

「ごめんね、ちょっと強く握ってしまった」


 澄蓮は笑顔で謝る。その笑顔はいいけど、今はそういう場合じゃない。そう、2人はその戦いを見届けた。に2人は一般の人間からは見えないので、見つかって殺されることはない。2人は、戦いを見るのを最初は嫌だったり気分が悪くなったりしていたが、今では慣れたものだ。


 前方の戦いでは石器を身につけた先住民が、鉄器を身に付けたケルト人になぎ倒されていく。が、先住民の方も黙ってはいない。中盤から後半は先住民も果敢に攻撃した。だが、先住民がとうとう1人もいなくなって勝敗は決したようである。


「やっぱり。ケルト人のボロ勝ちのようっすね」

「そうみたいね。彼らがこの島を制圧して開拓するのね」

「そうっすか」

「戦いはいくら見ても見慣れないね」

「かわいそうだ」

「まあ、私たちは実体のないスクリーンのようなものだから・・・わっ!?」

「うわっ!落ちる!」


 2人は話していると突然どこかに落ちていった。落ちる時、最後はゆっくりになったから怪我などはしていない。


「ここはどこだ」


 2人の来ていたところは、地下みたいだ。暗い、洞窟のような風景が広がっている。ただし、整備されているようだ。


「行きましょう」

「どっちへ行くんすか?」

「前よ」


 2人は前に向かって歩き出した。


「一体何なんすか?ここ」

「分からない。でもまずはここから抜け出さないと」


 2人は出口を探した。すると何やら扉のようなものが見えてきた。


「扉?」


 2人はそこをくぐった。


「普通の扉だった」

「そうね」

「でも、ほら」

「結構人がいるのね」


 そこはすごく賑やかそうな場所だ。今まで松明があるだけの薄暗い通路から、一気に明るい場所へと移動した。まるで地上の昼間のようだった。


 2人がキョロキョロしていると、正面から手招きをしている老人がいた。


「ん?あのじいさんが手招きしてるけど?」

「ほんとだ、行ってみましょう」


 2人はその老人から話を聞くことにした。


「呼びました?」

「ほうほう」

「すみませんが・・・あなたは?」

「わしか?わしは以前この上に住んどった村長じゃ。いや、国王じゃ」

「どっちっすか?」

「いや、国王じゃ。一応国にはなっとった」

「ほんとっすか?」

「そうじゃ、まだまだ未熟じゃったがのう」

「すみません。ある言い伝えでは、あなたたちは神族っていう事になってますが、間違いありませんか?」

「ん?お前さんらはもしや、未来人か?」

「はい、そうですが」

「言っちゃうんすか!?」

「ん~。後世にはわしは神として伝えられとんじゃな?」

「そういうことになってます」

「そうか」

「そ、そろそろ本題に移ってもよろしいでしょうか?」

「「本題?」」

「隆二くん、本題よ。この洞窟の事」

「そ、そうっすねそんな近寄らなくても」

「だって、聞こえちゃうもん」


 澄蓮は隆二に耳打ちした後、村長に向き直って話を続けた。


「すみません。ここはどこですか?」

「ここはのう、隠れ家じゃ。あの、地上で侵入者に負けたからのう。逃げたんじゃ」

「ってことはつまり」

「じいさん、魂なのか?」

「ん~。そうじゃ。よう早う見破ったのう」

「そういうことね」

「何が」


 澄蓮はまた隆二に耳打ちを始めた。


「さっきの地上での戦争で負けた住民がここに来ているってわけ」

「なるほど。魂だから見えるんすね」


 彼らの転移先では、生物のうち、一部の人間と妖精などの架空の生物しか彼らの実体が見えないようになっている。それは、歴史を壊してしまう可能性があるからだ。


「なにを話しとる?」

「あ、いえ、私たち、さっき地上にいました。その話をしていました」

「なら見なんだか?あの光り輝いた剣、鎧、兜を。あんなんじゃひとたまりもないわい」

「そうっすね、石器じゃ鉄器には敵わない」

「じゃからの、ここには鉄器か一切置いてないんじゃ。なんせ、冷たい鉄は苦手じゃからのう」

「あ!」


 澄蓮は突然声を上げた。


「どうしたんすか?」

「この人たち、妖精よ!」

「なんすか?また耳打ちっすか?」

「フェアリーは冷たい鉄が苦手なはずよ。それは聞かないでおくけど」

「お!?よく見たらそれっぽいっすね」


 ここの住民を良く見ると、耳が尖っていて、羽が生えている。ちょうど、現代人の想像するそれと同じような形態だ。


「なんじゃ、お前さんらはさっきから。仲がいいのか?」

「一応、彼女は俺の上司っす」

「何じゃ?」

「上司って言葉はない」

「あ、一番上の人っす」

「おう、お前さんがか?」

「はい、私、山本澄蓮といいます」

「ヤマモト スミレか。お前さんは」

「田中隆二っす」

「タナカ リュウジか。覚えたぞ。覚えても何もせんわい。みんないい人だがら、ゆっくりしていってくれ」


「村長さん、さっき『人』って言ってたよね?まだこちらに来てから時間が経ってないみたいね」

「そうなんすか?」

「うん。だって、彼らはフェアリーだから」

「そうっすね」


 隆二は少し話を切った。そして少し考えた後で話し始めた。


「でも、びっくりっすよ。妖精がイギリスの古来の先住民の魂だったなんて」

「私も初めは驚いた。でも、色々調べてみると親しみやすそうじゃない」

「確かに、ここも活気があるとは楽しそうとは思うけど」

「そうね、ゆっくりしていきましょ」

「そうもできないんじゃないっすか?」

「え?」

「ハロウィンはどうなったんすか?」

「それはここで見つかるんじゃないの?ここに来たんだから」

「ハロウィンと妖精は関係ないっす」

「妖精はコスプレにはあるよ。綾乃ちゃんがよくしているから」

「綾乃、そんな趣味があったのか」

「うん、家にも衣装があるし」

「本格的だな」


 話が飛躍しすぎているが、そうこうしているうちにかなりの距離を歩いたみたいだ。目の前にはオープンバーがあった。


「隆二くん、入ろうよ」

「わっかりました~」


 2人はカウンターに座り、適当に注文した。一応仕事中なので酒類は避けている。


「おう、見慣れない服だな」


 しばらくしたら、隣の客に話しかけられた。隣の客はやはりフェアリーの、男性だ。


「あ、こんにちは」

「どこから来たんだ?」

「遠い未来からやってきました」

「・・・まあ、不思議なこともあるもんだ。未来人はこんな格好をしているのか?」

「はい」

「じゃあ、ここは初めてか?」

「はい、まだ何も分からなくて」

「じゃあ俺が教えてやろう。もう少ししたら祭りがあって行くつもりだが、ついて行くか?」

「ぜひお願いします。で、どんなお祭りですか?」

「年に一度、この世とあの世をつなぐ祭りだ」

「地上に出るのですか?」

「そうだが、正確に言うと地上に転移になる」

「地上に転移・・・ですか」

「妖精の持つ魔法を封印した扉で地上に転移する。それも地上の祭壇だ」

「祭壇があるんですか?」

「教会のな」

「教会があるんですか?」

「ドルイド教っていう、ケルトの教団だ」

「え?確かケルトには負けたんじゃ!?」

「うるさいなあ。ケルトには負けた。だが、俺らの事を『先祖』と思っている」

「血がつながってないのにか?」

「そうだ。先住民って意味のな。お前らの住んでる地域にもあるだろ」


 隆二は心の中で考えた。確かにいた。澄蓮は明確にその民族を想い浮かべていた。


「縄文人よ」

「そうか、そんな感じなんだな。この人ら」

「何話してんだ?お前ら仲いいな」

「さっきも言われた」

「ちょ、ちょっと?まあ、私の部下でして」

「部下?姉ちゃんが主任?」

「まあ、そのようなものです」

「俺もこの祭りの主任だが」

「そうなんですか」


 早速、この男の元に主任を実証させる人物が現れた。


「主任!」

「どうした?」

「今日のサウィン祭の事なんですが」

「何かあったのか?」

「それが、もう先にバンシーが入ったようでして・・・」

「バンシーが!?」

「はい」

「それは大変だ!奴らは人間を憎んでるからな。まあ、毎回出て行くからどうしようもないがな。向こうの住民に任せるしかないか」

「でも、過去には犠牲者も出てますし」

「そうだよな。俺たちが守るしかないか。奴らはもう教会にいるのか?」

「はい、教会のどこかに隠れてます」

「いつもだと、俺たちが転移したら出てくるよな?」

「はい」

「そのタイミングでバンシーらを捕獲しよう」

「祭り中にですか?」

「そうとしかできないだろう」

「それが得策ですね、じゃあ、準備に戻ります」

「奴らと言い合いにならないよう、気を付けろよ」

「分かりました」


「あの?」

「そのお祭りは何日にあるんですか?」

「今日?10月31日だ」

「おい!それって!」

「そのサヴィン祭、ハロウィンと関係ありそうね」

「探ってみましょうか」

「あとは、そのバンシーってのもな」

「ケルト人の間で死を予告する妖怪って言われてる」

「じゃあ、祭り中に宣告したら大変じゃないっすか」

「ああ、そうだ」

「聞いてたんすか」

「聞こえるだろ。バンシーはお前らの言った説明でだいたい合ってるがな」

「まあ、どんな祭りなのか見せてもらおうか」


 2人はその男に了承し、その祭りに参加することにした。そして今、魔法を張られた扉の前に来ている。


「ところで、ステージの真ん中に出るけどいいんだな?」

「はい、実は私たち、人間には見つからないんです」

「どういうことだ?」

「私たちは未来から装置を使って来ています。その装置の設定が、気配を消すことなんです」

「ああ、本当に見えないんだな。だったら大丈夫か」

「はい、そこからそのお祭り、観察させてください」

「わかった。ただし、ステージに入ったら後ろに下がっててくれ。俺たちには見えるから、緊張する」

「分かりました」


 澄蓮と男の会話が終わり、お祭りの出演者が集まる。男(主任)が隆二と澄蓮の説明をした。


「「よろしくお願いします」」


 2人はお辞儀をした。目の前にいるのはお祭りの出演者だが彼らはケルト人侵略の際犠牲になった島の先住民だ。彼らはこれからお祭りの後住んでいた家に帰り1泊する。


「さあ、行くぞ」


 主任の男の号令とともに、全員次々と魔法の扉をくぐって行く。その扉をくぐると、舞台とたくさんの民衆がいた。だが、民衆の様子がおかしい。


「うっ」

「澄蓮さん、顔が青白いっす」

「隆二くん、あ、あれ見て何も思わないの?」

「だって、あれメイクでしょ?本物ほどリアリティがない。ただ、あの舞台のそでにいる奴は本物っぽいけどな」

「ちょっと待てよ!?」

「来たぞ」

「何なんだよこれは!?人間なんて1人もいないじゃないか!?」

「バンシーたちよ、何恐い顔してる。見ての通りここにはケルト人はいない。帰れ」

「じゃあどこに行ったんだ民衆は!?ここに来ると聞いていたぞ」

「出直してこい。お前らの能力ならすぐ見つかるだろう。」

「ふん、仕方がないな。絶対見つけてやるよ!」


 と言って、バンシーの一行は去ろうとしたが、珍しい格好の澄蓮と隆二が見つかってしまった。


「何だ?見慣れない格好だな」

「私ですか?」

「ああ」

「私は未来から来ました?」

「未来か。未来ではケルト人はどうなってる」

「ちょっと、ここでは話しにくいです。またあとでそちらに伺います」

「わかった」


 今度こそ、バンシー一行は去って行った。澄蓮は顔を青白くして、表情も強張っていた。


「澄蓮さん、大丈夫っすか」

「隆二くん、怖かった~」

「いや、かわし方だったっす」

「もう怖いもん、会いたくなかったもん」


 澄蓮はそう言って隆二に怖さを訴える。


「民衆の変装も怖いなら、俺の後ろに隠れますか?」

「隆二くん、今何て言った?」


「いや、民衆の変装が怖いんだったら、俺の背中からこっそり見るかと」

「それよ!やっぱりこれハロウィンよ!」

「俺の後ろから見るのがハロウィンかよ。訳分かんねえよ」

「違うって、今変装って言ったでしょ?現代もハロウィンも変装するでしょ?」

「はい」


 澄蓮は顔を近づけて人差し指を隆二の顔に突き出した。その指が顔に刺さりそうだったから、隆二はとりあえず返事した。


「澄蓮さん、ちょっといいっすか?」

「何でしょう?」

「顔色が元に戻ってますよ」

「そうなの?」

「そうなの!謎が解けてうれしんすか?よく考えてみりゃハロウィンでコスプレやってるよな」


「さあ、今夜も更けてきたぞ!それではみんな!ハッピーニューイヤー!」


 と、主任が指揮をとって祭りは終了した。


「終わった、さあ戻るか」

「ちょっと待った」

「なんすか主任?」

「う~ん、俺らは残らないといけないから、こいつと一緒について行ってくれ」

「誰すか?」

「俺の部下だ。元の酒場まで案内させるぞ」

「それはあざっす」

「それにこっちは新年だ。今日は宴会だ!」

「新年なんすか?」

「ハッピーニューイヤーって言っただろ。聞いてなかったのか?」

「はい、全然」

「お前ら、祭り中ずっとイチャついてたもんな」

「別にそういうわけじゃあないっすけど。澄蓮さん・・・って顔真っ赤じゃないっすか!?」

「隆二くん、もう無理。早く帰りましょう」

「何が『もう無理』なんだか」


 澄蓮は顔を赤くしたまま、隆二と一緒にその場をあとにした。

魔法の扉をくぐって再び地下に戻った2人は、酒場を出たところで立ち止まった。


「どう?ハロウィンについて色々分かったね」

「ハロウィンの元はサウィン祭、仮装はバンシーに見つからないようにするためか」

「惜しいな。悪霊を追い払うのよ」

「悪霊全体っすか」

「仮装で悪霊がびっくりして逃げて行くの」

「そうっすか、俺らもハロウィンで仮装すると悪霊が逃げていくんすか?」

「今は宗教的な意味合いはあまりないの。サウィン祭の後、ハロウィンはキリスト教とともに広がって形を変えながら今のようになったの」

「そういえば、テレビでたまにやってる都内某所の交差点のハロウィンとさっきのサウィン祭は全然違ったな」

「お祭りじゃなくて仮装イベントだから」

「それで気になったんすけどここは11月が正月なんすか?」

「そうみたいね。でも、現代でも日本の新年度は4月からだけど9月や1月が新年度の国もあるし、お正月だって中国は旧正月を祝ってるでしょ?」

「そうっすね、つまり」

「11月がお正月でもおかしくないってことよ。私もさっき知ったんだから」

「知らなかったんすか」

「うん、なぜケルトが11月に新年祝いをするかは分からない」


 2にんは延々と続きそうな話をしながら地下の大通りを歩いて行く。すると横から女性の声がした。


「すみません。お菓子をもらってくれますか?」


 紫と黒のセーラー服みたいなものを着ている若い女性だったが、手には大量のお菓子を抱えていた。


「ん?どうしたの?」

「お菓子をもらってほしいのです」

「もらいましょうか」

「待って」

「何でっすか?」

「どうして、お菓子をもらってほしいのかな?」

「お菓子を持ってないと、わるいやつにいたずらされるからです」

「トリック・オア・トリートね」

「何すかそれ?」

「外国のハロウィンでは子供たちが家を回って『トリック・オア・トリート』って言ってお菓子をねだっていたの」

「また、どうして?」

「彼女の言った通り、お菓子を持っていないといたずらされるかもしれない、お菓子は悪霊を追い払うとされてきたの」

「今は少女から俺らに配ってきてるが?」

「私も家を回ってお菓子をもらってきたのですが、もらいすぎました。あなたたちにおすそ分けしてもよろしいでしょうか?」

「俺は賛成」

「いいの?」

「オフィスに戻って綾乃や、綾乃や綾乃にあげればいい」

「綾乃ちゃんばっかりじゃないの」

「お菓子と言えば綾乃だろ」

「綾乃ちゃんも子供じゃないんだから」


 澄蓮は否定的なことを言いながらも、心の中では賛成であった。


「じゃあ、このお菓子をいただこうかしら」

「いいんですか?」

「いいぜ。俺の連れにお菓子大好きな奴がいるから」

「はい」

「サンキュー! って意外と多いな」


 そのお菓子は多くて重みもあったが、2人は若い女性からお菓子をもらった。


「結構もらったぜ、これオフィスまで行くかな?」

「今までの経験じゃあ行ってたよね」

「じゃあ行くか?」

「全部は無理だと思う」

「だろうな。まあ、綾乃もこんなには食えないだろうが」


 2人は大通りをまだ歩いていた。すると、横にスクリーンが飛び込んできた。スクリーンは光を纏っている。


「あ、見て!あれ!」


 澄蓮はスクリーンを指差した。スクリーンの中にはボロボロの黒い服を着た男がいた。男はカブでできたランタンを持っていた。


「あれ、ジャック・オー・ランタンよ!」

「本当っすか?かぼちゃなんて映ってないっすよ」

「この当時は、カブだったのよ」

「あー、カブを持ってるっす」


 と、隆二が言うと、澄蓮は歩き始めた。


「ジャック・オー・ランタンは元々人間だったの。でも魂を取りに来た悪霊をだましたから亡くなった後も地上に残ったの」

「意外とよくある話っすね」

「いわゆる『成仏できなかった』って言うのかな?」

「そうみたいっすけど、かぼちゃはいつ出てくるんだ?」

「ああ、あれね。あれはアメリカにハロウィンが伝わってからかぼちゃに変わったそうよ。今ではそんな彼も悪霊を追い払える存在にまでなったの」

「言い伝えって変わるもんっすね。成仏できなかった奴が悪霊を追い払える存在になるのか」

「彼は悪霊をだましてるからね」

「そうだった。あはは」


 その時、2人の前に空間転移が現れ、カプセルらしき物の中へ戻ってきた。


「これで今回のトリップも終わりね」

「はい、で、何で俺の肩に澄蓮さんの手があるんすか?」

「あ、さっきジャックを見つけた時に思わず」


 と、言いながら澄蓮は手を引いた。


「お菓子は数が減ったけど無事だな。綾乃にあげてくる」


 と、隆二は机にいる綾乃の元へ向かった。


「終わった。まだ帰れないな」


 綾乃は机で作業をしていたが、終わったようで帰ろうとしていた。


「綾乃!」

「あ、田中さん。終わったんですか」

「ああ、ちょうど今、な」

「どうしたんですか!?そのお菓子!」

「ああ、これか?転移先でもらってきた。やるよ」

「田中さん、私そんなに食べられませんよ」

「全部やるとは言ってないだろ。どんだけお菓子好きなんだ」

「あ」

「オイ。まあ、でも多めにやるよ」

「ありがとうございます!やったー!」

「あと、ヤッスーもいるな。配ってこよう」


 隆二は同じ社員の水中泰広にお菓子を配りに行った。


「綾乃ちゃん、もうお菓子もらったみたいだね」

「はい、こんなにたくさんありがとうございます」

「あら、綾乃ちゃんに全部あげる勢いだったのに水中くんにも分けてるね」

「え?そうだったんですか!?」

「うん」


 澄蓮は隆二の方をちらっと見てそう答えた。


「あ!リーダー!田中さんとデート、楽しかったですか?」

「もう。綾乃ちゃん、そんなんじゃないって」

「遠慮してますよね?YESですよね?」

「もう」

「リーダー、赤くなってますよ」

「見ないで!恥ずかしい。あと私はリーダーじゃなくてチーフよ」

「照れすぎですよ~。リーダー」


 隆二と澄蓮が戻った途端ににぎやかになるここ『サマナーソサエティ』。ここでは今日も歴史を解明するため、社員たちが日夜努力をしているのだ。


 閲覧ありがとうございました。『サマナーソサエティ』はそのほかにもさまざまな歴史の解明をしているので、シリーズ化したいなーと思っています。

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