11)
チャララ〜♪という軽快な音楽で、徐々に目が覚めていく。
ん……?何の音だっけ……?あぁ、そうだ……携帯電話……。
でも、私のじゃないな……。
強烈な眠気を抱えて、それでももぞもぞと動くと、私の隣にあったぬくもりからぬぅっと手が伸びて、ピッという音と共にその音楽が止まった。
…………。
…………。
「どわぁっ!?」
「あ〜……暁さん、おはよう〜……」
一気に目が覚めて、飛び起きた私の隣から、眠たげな幸紀君の声が聞こえてきて、彼は布団から顔を覗かせると、目をこすりながら大きくアクビした。
な、なんか、デジャヴ……。
そう思って、慌てて自分の格好を見下ろす。
……よかった。パジャマだ。
またやらかしたわけじゃないことに気づいて、ホッと胸を撫で下ろしていると、幸紀君が体を起こしてクスクスッと笑った。
「信用ないなぁ、俺。すっごい耐えたんだよ?」
なにを?とは、あえて聞かずにおくけれど……。
周りを見回せば、ここは、今、幸紀君が使っている部屋で、私達がいるのは来客用に置いてあったベッド、つまり幸紀君が使っている布団の中だった。
「なんで、ここに……??」
昨晩、急いで風呂を済ませてから、リビングへ私のノートパソコンを移動した。そして、彼の考えた小テストをチェックして、彼の指導案を見ていたんだけれども……。
「暁さん、気がついたらソファで寝ちゃってたから、風邪引いちゃうしって思って、ここへ運んだんだよ」
「……運んだ?誰が?どうやって?」
「俺が。お姫様だっこで」
……お、おひっ、おひめさまだっこっ!?
ああああの、女の子の憧れの……って、違うっ!そうじゃなくてっ!
「お、重かっただろう?ごめん……!」
「全然。言ったでしょ?俺は男で、暁さんは女の人だって。なんならもう一回、してみる?」
ニヤニヤと笑って手を広げた幸紀君に、激しく首を振って遠慮する。
む、無理!恥ずかしすぎるっ……。
「あっ!そうだ!テストと指導案っ……」
「できてるよ」
今更大事なことを思い出して叫んだら、幸紀君からあっさりと答えが返ってきた。
途中までしか記憶がない私の代わりに、全部やってくれたらしい。
「うぁっ、ごめ……」
「暁さん、さっさと寝ちゃうしさ。起こしても起きてくれないし」
謝ろうとしたのを遮って、幸紀君が大きくため息をついて言う。
「う……」
「結局、全部俺一人でやる羽目になっちゃって、終わったの5時近かったんだよね〜」
「うぅ……」
今、6時半ですね……。
「しかも暁さん、警戒心なさすぎ。……襲おうかどうしようか、本気で悩んだし」
「!?」
「さすがにそれはやめたけど。でも、ようやく終わって様子を見に来たら、寝ぼけた暁さんに捕まっちゃって……。今度は離してくれなくなっちゃうし」
「………………」
「もう、一緒に寝るしかないよね?そうなったら。なんていうの?生殺し?」
………………。
ごめんなさい。ほんっとうに、申し訳ありませんっ!
「その辺に転がしておいてくれてよかったのに……」
「そういうわけにいきません」
申し訳なく言ったら、きっぱりと否定された。
「私の部屋でもよかったし……」
リビングから、私の部屋は続いているけれども、この部屋は玄関に近い方にあるから、結構距離がある。
でも、そう言ったら、ふいに、幸紀君の目が、軽く泳いだ。
「あぁ……う〜ん、暁さんの部屋はね、ちょっと……」
「…………」
……ちょっと?
「と、とにかく!本当に、ごめんなさい!」
怖くなって、幸紀君が何か言う前に、ごまかすように謝ると、彼がクスクスと笑い出す。
「?」
「まぁ、幸せだったからいいけどね。……暁さん、あったかかったし」
「ぉわっ!?」
突然、幸紀君に抱きしめられて、驚く。
しかもそれは、昨日の抱きつくようなのとは違って、とても優しく包みこむような暖かさで、一気に心拍数があがって、顔に血が上るのがわかる。
私の後ろは壁で、逃げ場はない。というより、昨夜のことが後ろめたすぎて逃げられないというのも……。
「暁さん、俺、がんばったよね?」
「あああああ、うんっ、うんっ、がんばった、よ」
耳元でささやくように問われた言葉に、必死でうなずいた。
み、耳は、耳はやめてくれ……。
「そっか。……じゃあ」
「?」
ようやく離してくれた幸紀君にホッとしたのもつかの間、彼の顔に小悪魔な笑みが浮かんでいるのに気づいて、一瞬、嫌な予感が頭をかすめる。
「ご褒美、くれる?」
「へ?ご、ご褒美?ってなに……ぅんっ!?」
………………。
………………。
………………。
たっぷり30秒間キスした幸紀君が、体を離して満足そうにニコッと笑った。
「おはよう〜の、ちゅう?」
首を傾げて、いたずらっぽく笑った幸紀君はとてもかわいかった。
かわいかった……けれども!!
…………こんなに濃厚なおはようのチュウがあってたまるかぁっ!