プロローグ
……ほら、小説やマンガであるじゃないか。
朝起きたら見知らぬ男が自分の横に裸で寝ていて、当然自分も裸で。にもかかわらず、自分には記憶がさっぱりなくて慌てふためく、というような話が。
筑茂 暁、26歳独身。男みたいな名前でも一応女、の私。
これまでいくらか恋愛なんてものもやってきた私だけれど、正直、そんな阿呆みたいな経験が………………ない、と言えないのが悲しい。
……しかも、3度も。
だから、今現在、ようやく朝を迎えるかというような中途半端な時間に目が覚めてしまって、昨晩飲みすぎたぞ、と頭がズキズキと二日酔いを訴えている中で、ふと横に誰かの生肌があることに気付いても、
(ああ……またやってしまった)
というのが、第一の感想だった。
そりゃあもう、次の瞬間には泣きたいほどの激しい後悔に襲われた。
しかし、悲しいかな、さすがに何度か経験すると嫌でも慣れるもので……。
自己嫌悪や何もかもは後回し。うろたえる時間があったら、慌てず騒がず、まずは現状を把握した方がいいということを学んでいる。
というわけで、身動きして相手を起こしてしまわないよう注意しながら、いつものように、昨晩の記憶を、一応たどってみようと痛む頭をひねってみるも……やっぱり毎度のことながら、てんで記憶が定かじゃない。
うぅ、情けない……。
こうなると、私に残された選択肢は2つ。
こっそり帰ってしまうか、相手が起きてから『昨日は楽しかったわ』なんて笑ってごまかすか、だ。
一晩だけのおつきあいのこと、相手にとっても私にとっても、こっそりといなくなってしまった方がいいだろうから、相手が起きそうにない場合は、前者だと思う。実際、今までも私が先に目覚めればそうしてきたし。
……よし、やっぱり今日もそうさせてもらおう。
そう思って、ずっと身じろぎせずにいた体を、薄暗闇の中でそうっと起こす。
うん、大丈夫だ。ぐっすりと眠っている。
相手の規則正しい寝息を確認してから、暗闇に慣れてきた目で、服を探そうと部屋の様子を見回……し……。
ん?
んん!?
「!!」
目が覚めてから5分。
どうやらいつもと様子が違うことに今さらながらに気づき、そして、その事実に体が固まった。
「まさか、そんな……」
思わずつぶやいてしまって、慌てて自分の口を押さえた。
隣に寝ている人が、一瞬身じろぎしただけで再び心地よい寝息をたてたのをみて、とりあえず安心する。
う、うろたえるな、うろたえるな、私!
そう呪文のように自分に言い聞かせるけれど、私の中で絶対にありえないはずのことが起こっているらしい事実に、心臓はバクバク、今にも目が回ってしまいそうだった。
よりによって、よりによって!
……自分の部屋!?
今まで持ち帰られていたことはあっても、決して相手を持ち帰って来たことなんてなかった。
それは、私の中に、決して他人にこの部屋を見られたくないという気持ちが深く、深〜くあったからだけれど……。
あぁぁぁぁぁぁぁぁ〜。
昨日、一体何があったというんだろう!?いくら記憶がなくなるくらい、ベロンベロンに酔っ払っていたとしても、この部屋に知らない人間を入れてしまうなど……。
……いぃや、ちょっと待った。
知らない……人間?
さっき一瞬だけ見た相手の顔がちらついて、それがどこかで見たことのある顔のような気がして、嫌な予感に血の気が引いていく。
ゴクリとつばを飲み込んで、覚悟を決めておそるおそる隣の男の寝顔を覗き込めば。
…………そこには、嫌な予感大的中の寝顔が、無防備に転がっていた。
「…………ななななななっ!なぜ、元宮君がここにいるんだぁ〜!?」
私の叫び声に、そのかわいい人は驚いたように飛び起きた。
初めての投稿です。
つたない文章ですが、がんばりますので、よろしければお付き合い下さい。